AMDとTensorStackが共同開発した生成AI「Amuse 3.0」が正式にリリースされた。最新版ではAMD Ryzen AIプロセッサーとRadeon RX GPUユーザーがクラウドに依存せず、完全にローカル環境で印刷品質の高精細画像と最大6秒間の短時間ビデオを生成できるようになった。従来のAmuse 2.0から大幅に機能を拡張し、AMD製ハードウェアに最適化された100以上のAIモデルをサポート。これによりジェネリックモデルと比較して最大4.3倍の処理速度向上を実現している。
Amuse 3.0:手元のPCで実現する高品質なAI画像・動画生成
Amuse 3.0は、AMDのハードウェアに最適化された生成AIプラットフォームであり、ユーザーのデスクトップ環境で直接AIによるコンテンツ作成を可能にする。
まず、印刷レベルの高品質な画像生成に対応した。さらに、今回のアップデートで最大6秒間の短編動画生成機能が新たに追加された。現在は「ドラフト品質」とされているが、アイデアのスケッチや簡単なアニメーション作成など、クリエイティブな作業の初期段階で役立つだろう。動画生成においても、クラウドサーバーを介さず、完全にローカルPCのリソースのみで処理が完結する。
Amuse 3.0は、100を超える多様なAIモデルをサポートしており、これには最新の「Stable Diffusion 3.5」や「FLUX」といった注目モデルも含まれる。これにより、ユーザーは目的に応じて最適なモデルを選択し、幅広いスタイルの画像や動画を試すことが可能だ。加えて、AIを活用したビデオフィルター機能も搭載されており、生成した動画や既存の動画に対して、手軽に特殊効果を適用できる。

AMDハードウェアへの最適化:最大4.3倍の高速推論を実現
Amuse 3.0の大きな特徴の一つが、AMDハードウェア、すなわちRyzen AIプロセッサとRadeon RX GPUに対する徹底的な最適化だ。この最適化により、大きなパフォーマンス向上が実現されている。
AMDの発表によると、同社のハイエンドGPUであるRadeon RX 9070 XTを使用した場合、汎用的なモデルと比較して、推論速度が最大で4.3倍高速化されるという。推論速度は、AIが結果を生成するまでの時間であり、この高速化はユーザーの待ち時間を大幅に短縮し、試行錯誤のサイクルを加速させる。
また、ノートPCなどに搭載される「Ryzen AI」プロセッサに内蔵されたNPU(Neural Processing Unit)においても、最適化の恩恵は大きい。50TOPS(Tera Operations Per Second:1秒間に1兆回の演算性能)クラスのNPUを搭載したRyzen AIプロセッサでは、画像生成が最大3.3倍高速になるとされている。これにより、高性能な専用GPUを持たないノートPCユーザーでも、快適にローカルAIの機能を利用できる道が開かれている。
ただし、これらの高性能を最大限に引き出すためには、相応のシステム構成が推奨される。AMDは、プロセッサとしてRyzen AI 300シリーズまたは8040シリーズ、最低24GBのシステムメモリ(RAM)、そしてグラフィックスカードとしてRadeon RX 7000シリーズを搭載したシステムの使用を推奨している。これは、Amuse 3.0が決して軽量なツールではなく、最新のAMDプラットフォームでその真価を発揮するように設計されていることを示唆している。
クラウド依存からの脱却:Amuseが示すローカルAIの可能性
Amuseプラットフォームは、AMDとTensorStack AIは、1年以上にわたり、クラウドへの依存を排し、ユーザーの手元で完結する生成AI環境の実現を目指して開発を続けてきた。
その歩みは2024年中頃に始まった最初のベータ版に遡る。当初からStable Diffusionなどのモデルをローカルで実行し、AMDハードウェアに最適化することに焦点が当てられていた。同年7月には「Amuse 2.0 Beta」が公式に発表され、AMD XDNA Super Resolution(AIによる超解像技術)や、初心者向けのシンプルなインターフェース「EZ Mode」が導入されるなど、機能と使いやすさが向上した。
Amuse 3.0は、この路線を継承しつつ、動画生成という新たな次元を加えた形だ。しかし、その核心にあるのは、一貫して「ローカル実行」にこだわり続ける戦略的な選択である。
現代のAIサービスの多くは、膨大な計算能力を持つクラウドサーバー上で実行される。これはスケーラビリティや常に最新のモデルを利用できるという利点がある一方で、ユーザーデータのプライバシー懸念、インターネット接続への依存、応答遅延(レイテンシ)、そしてサービス利用料といった課題も存在する。
Amuse 3.0は、これらクラウド中心モデルとは異なるアプローチを採る。ユーザーは自身のデータを外部サーバーに送信することなく、完全に手元のPC内でAI処理を行うことができる。これは、機密性の高い情報を扱うクリエイターや企業、あるいは単に自身のデータのコントロールを重視するユーザーにとって、非常に大きな価値を持つ。プライバシーに関する懸念が高まる現代において、このローカル志向は時流に適っているとも言えるだろう。
もちろん、ローカルAIは万能ではない。利用できる計算リソースは個々のPCの性能に依存するため、クラウドのような無限に近いパワーは期待できない。しかし、Amuse 3.0が示すように、最新のPCハードウェアと最適化技術を組み合わせることで、実用的なレベルでのAIコンテンツ生成は十分に可能になりつつある。
AMDとTensorStackのこの取り組みは、単なるソフトウェアのアップデートに留まらない。AI技術の利用方法について、「クラウドか、ローカルか」という選択肢をユーザーに提示し、後者の可能性を力強く示すものだ。すべてがサービスとして提供される「as a Service」化の流れが加速する中で、ユーザーに制御権を戻そうとするAmuseのような動きは、テクノロジー業界における一つの重要な潮流となるかもしれない。
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