カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とするフットウェア企業であるAllbirdsが、中核事業である靴製造を完全に放棄し、AIコンピューティングインフラストラクチャ事業へ転換するという前代未聞の戦略を明かした。同社は今後「NewBird AI」へと社名を変更し、GPU-as-a-Service(GPUaaS)やAIネイティブなクラウドソリューションプロバイダーとして再出発を図る。

この破壊的な事業転換を実行するため、同社は機関投資家との間で5,000万ドルの転換社債型資金調達で合意に達した。調達した資金は、AIの学習と推論の中核を担うグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)の獲得に投じられる。これまで「持続可能性(サステナビリティ)」を企業のアイデンティティとしてきた企業が、膨大な電力を消費するデータセンター事業へと舵を切るという事実は、現代のテクノロジー市場がいかに過熱し、企業の基本理念をも書き換える力を持っているかを端的に示している。

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迷走の果てにたどり着いた最終手段

Allbirdsの現状を正しく把握するためには、同社が直面してきた構造的な事業崩壊の歴史を振り返る必要がある。2021年のNasdaq上場時、同社はパンデミックの寵児としてもてはやされ、株価は最高値で500ドル、企業評価額は41億ドルに達した。しかしその後、需要の低迷とオンラインパートナーシップへの過度な依存により、実店舗の閉鎖が相次いだ。直近の取引における同社の時価総額は、ピーク時から約99%も減少していた状態にある。

今回の巨大な転換に先立ち、同社は自社のブランドとフットウェア関連資産をAmerican Exchange Groupへ3,900万ドルで売却している。このブランド放棄は単なる事業の縮小ではなく、「靴屋」としてのAllbirdsの完全な終焉を意味する。皮肉なことに、同社は先週にもカラフルな新作シューズ「Canvas Cruiser」のコレクションを発表したばかりだ。このちぐはぐな動きは、NewBird AIという構想が長期的なロードマップに基づく事業戦略ではなく、倒産を回避するための絶望的な劇薬として機能していることを示唆している。

「調査中」という名目の実態なきビジネス

米国証券取引委員会(SEC)に提出された資料には、この事業転換の危うさが如実に表れている。Allbirdsは資料内で、「GPUの取得と収益化、高いワークロードをサポート可能な高性能コンピューティングインフラストラクチャの構築、およびその他の関連資産を含む、コンピューティングインフラストラクチャ市場における潜在的な機会を調査中である」と記載しているに留まる。

つまり、現時点で同社はデータセンター施設、NVIDIA等のGPUサプライヤーとの明確な提携、実態のあるクラウド・アーキテクチャのいずれも保有していない。独立系小売コンサルタントのBruce Winder紙が指摘するように、Allbirdsが知名度以外にAI市場へ持ち込める独自の技術的優位性は見当たらない。彼らが売ろうとしているのはAIの実体ではなく、AIという「概念」がもたらす投資家の熱狂そのものである。事実、株式の多くはFidelityのようなプラットフォームを通じて個人投資家によって盛んに取引されており、実質的な価値よりも投機的な期待先行で相場が形成されている。

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ブロックチェーン狂騒曲の再来と市場の病理

Allbirdsの発表直後、同社の株価は435%以上という異常な急騰を見せ、約13ドルで取引された。これにより同社の評価額は約1億1,600万ドルへと膨れ上がっている。この光景は、過去のテクノロジー市場で繰り返されてきたバブル的熱狂の正確な再来である。

2017年、暗号資産ブームの波に乗り、飲料メーカーのロングアイランド・アイスティー(Long Island Iced Tea)が社名を「ロング・ブロックチェーン(Long Blockchain)」に変更した。当時も株価は3倍に跳ね上がったが、事業が実を結ぶことはなく、最終的にSECによって取引停止処分を受けた。また、2022年にはゲームストップ(GameStop)がNFTマーケットプレイスの計画を示唆して株価を急騰させたが、期待された収益は上がらず、わずか1年後には暗号資産関連事業を縮小している。

AllbirdsのAIピボットもまた、事業の多角化というよりは、投資家の熱狂を現金化するための金融エンジニアリングに近い。同社は今後、株主総会を通じて定款を変更し、「環境保護という公益のために運営される会社」という記述を削除する予定だ。SDGsや環境配慮を謳うことで獲得したユーザーとブランド資産を投げ捨て、最も電力を消費する産業の一つへと完全に移行する。この意思決定は、利益の最大化を前にしてはあらゆる企業の理念が空文化するという、現代資本主義の冷酷な現実を具現化している。

生成AI市場の資本論理が生み出す歪み

GPUaaS市場は現在、巨大テクノロジー企業や専門のインフラ企業によって激しい覇権争いが繰り広げられている。データセンターの確保から最新GPUの調達、冷却システムの構築に至るまで、巨額の資本投下と高度な専門知識が要求されるこの領域において、フットウェアという異業種から参入する余地は極めて限定的である。

NewBird AIという新興事業が成功するためには、現在の熱狂が収束する前に、確保した5,000万ドルで実際のインフラを構築し、巨大クラウド事業者と競合できる価格または独自性を確立しなければならない。しかし、SEC資料の記述に見られる事業の具体性の欠如を踏まえると、同社が最終的にインフラ企業として生き残る可能性よりも、AI銘柄としての短期的な株価上昇を利用し、経営陣や既存株主のイグジット(資金回収)を図る意図が透けて見える。

市場は常に新しい物語を求めている。環境問題に取り組むサステナブルな靴メーカーというかつての魅力的な物語は、終わりの見えない赤字とともに消費され尽くした。そして今、経営破綻の瀬戸際にある企業に対する特効薬として、AIという無敵の物語が選ばれた。Allbirdsの狂騒は、テクノロジーの進歩そのものではなく、バズワードという幻覚剤を投与されなければ存続できない投資市場の構造的欠陥を鋭く突きつけている。


Sources