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量子コンピュータ Equal1、CMOSプロセスでシリコン量子ビット製造に道

Y Kobayashi

2025年4月20日

半導体産業の標準技術で量子コンピュータが作れる日が、私たちが想像していたよりも近づいているかもしれない。シリコンベースの量子コンピューティング開発を進めているEqual1が、商用CMOSプロセスの検証に成功したと発表した。この画期的な成果は、実用的な量子コンピュータの実現に向けた重要なマイルストーンとなる。

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半導体製造技術で量子の壁を突破:Equal1の技術ブレークスルー

「量子コンピュータは何十年も先の技術」——そんな常識を覆すような成果をEqual1が達成した。同社は商用CMOSプロセスを用いて、複数の量子ドットと精密に調整可能なトンネル結合の形成に成功。これは商用プロセスとしては前例のない成果だ。

一般的なコンピュータチップ製造で使われるマルチゲートトランジスタを量子ドットアレイへと変換する同社の技術は、量子コンピューティングと従来の半導体技術の融合への新たな扉を開いた。

「業界の一部では量子コンピューティングの実用化は数十年先と言われていますが、私たちの研究は、スケーラブルな量子システムが思われているよりも近い将来に実現可能であることを示しています」とEqual1のCEO、Jason Lynch氏は語る。

この成果を支えたのは、GlobalFoundries(GF)の22FDX® と名付けられた完全空乏型シリコン・オン・インシュレータ(Fully-Depleted SOI: FD-SOI)プラットフォームだ。高性能なデジタル回路やアナログ回路を同一チップ上に集積するSystem-on-Chip (SoC) 設計に適していることで知られているが、スマートフォンなどの製造にも使われるこの先進技術が、量子の世界でも活躍する可能性を示した形だ。

Equal1が開発したモノリシック量子チップには、29個のNMOSおよびPMOS量子セルが統合されている。各セルは最大3つのトンネル結合量子ドットとチャージセンサー構造をサポート。絶対零度に近い極低温環境(70ミリケルビンから1.2ケルビン)でも、安定した動作を実証した点は特筆に値する。

シリコンスピン量子ビット:量子コンピューティングの有望な主役候補

量子コンピュータの計算素子である量子ビットには、超伝導回路、イオントラップ、光など様々な方式が研究されている。その中で、Equal1が採用するシリコンスピン量子ビットは、電子の持つ量子力学的な性質「スピン」(自転のようなもの)の状態を情報の0/1に対応させる方式である。

シリコンスピン量子ビットは、量子状態を比較的長く保つことができる(良好なコヒーレンス特性を持つ)ことに加え、何よりも既存のCMOS製造技術との親和性が高いという大きな利点を持つ。今回のEqual1の成果は、成熟した半導体技術を用いて量子デバイスを確実に製造できるという考えを裏付けるものとなった。

「エキゾチックな材料やカスタム製造方法に依存する他のアプローチとは異なり、Equal1の戦略は半導体産業の標準技術を活用することにあります」とEqual1のChief Science Officer、Elena Blokhina博士は説明する。「古典的なCMOS技術との連携が、量子コンピューティングに実用的でスケーラブルな基盤を提供するのです」

CMOS(相補型金属酸化膜半導体)は、現代のほぼ全てのコンピュータチップやスマートフォンなどの電子機器で利用されている、確立された標準的な半導体製造技術である。この膨大な既存の製造インフラやサプライチェーン、設計ノウハウを活用できることは、量子コンピュータの実用化において決定的に重要となる。

従来の量子ビット技術の多くは特殊な材料や製造プロセスを必要とするため、大規模化が難しいという課題を抱えていた。その点、シリコンスピン量子ビットは半導体産業の巨大なインフラをそのまま活用できる可能性がある。製造の再現性、コスト、そして量子ビットを制御・読み出しするための古典的な電子回路との統合といった、量子コンピュータの実用化に立ちはだかる壁を乗り越える鍵となるだろう。

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「Quantum 2.0」時代の到来:半導体と量子技術の融合が開く新たな可能性

半導体技術は現代のデジタル社会を支える基盤だ。スマートフォンやパソコン、データセンター、自動車、家電まで、ほぼすべての電子機器に半導体が使われている。この巨大産業のインフラに量子コンピューティング機能を統合できるということは、量子技術の大規模な産業応用への道が開かれることを意味する。

GlobalFoundriesのコーポレートフェロー兼上級副社長、Ted Letavic氏は次のように評価している。「Equal1による有望な結果は、GFの基幹技術である22FDXが量子プラットフォームとしても有効であることを示しています。バックゲート機能により、量子アプリケーション向けのパフォーマンス最適化が可能になります」

Equal1の成果は、シリコンスピン量子ビット開発企業の間で広がる動きの一部だ。これらの企業は既存の半導体製造プロセスの可能性を押し広げ、成熟した製造技術を活用してスケーラブルな量子コンピューティングを実現しようとしている。

こうした取り組みは集合的に「Quantum 2.0」と呼ばれる新時代の幕開けを告げている。これは、研究室の中の実験段階から、実用的かつスケーラブルな量子システムの開発へと焦点が移り変わる新しい章だ。何より重要なのは、これらの量子システムが既存の技術インフラとシームレスに統合される点にある。

Equal1は過去にも、量子ドットと電子機器の統合など、量子コンピューティングの実用化に向けた重要な要素技術を実証してきた。今回の成果はその延長線上に位置する大きな進歩であり、量子コンピュータが「いつか来る未来の技術」から「近い将来に実現する技術」へと変わりつつあることを示している。同社は既にシリコンベース量子コンピュータ「Bell-1」も発売しており、量子コンピューティングの普及を加速させている。

「量子コンピューティングは手の届かない目標である必要はなく、今日の半導体エコシステムの産業的強みと連携することで、実用的な成果をもたらせるのです」と、Lynch CEOは述べている


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