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CTスキャンが年間がん発症の5%を引き起こしている可能性が最新の研究から示される

Y Kobayashi

2025年4月20日

米国の最新研究によると、医療診断で広く利用されているCTスキャンが、将来的に10万人を超えるがんリスク増加につながる可能性があるという衝撃的な調査結果が報告されている。これは年間のがん新規診断数の約5%に相当しうるとも指摘されるが、専門家はCTスキャンの診断上の大きな利益を認めつつ、リスク評価の不確実性や適切な利用の重要性を強調している。

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最新研究が示すCTスキャンの潜在的リスク

医学雑誌『JAMA Internal Medicine』に発表されたカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)などの研究チームによる論文は、2023年に米国で行われたCTスキャンの影響を分析したものだ。

研究の概要と主な結果

この研究は、リスクモデルを用いて行われた。まず、米国内の多数の医療機関から収集されたCT検査データ(UCSF International CT Dose Registry)に基づき、患者の年齢、性別、検査部位ごとの線量を推定。次に、米国全体のCT検査実施数(2023年に6,151万人の患者に対し約9,300万件、IMV社の調査による)にこれらのデータを適用した。そして、米国国立がん研究所(NCI)が開発した放射線リスク評価ツール(RadRAT)と、米国科学アカデミーの電離放射線影響に関する生物学的影響(BEIR)VII報告書のモデルを用い、これらのCTスキャンに起因する生涯のがん発症リスクを算出した。

その結果、2023年に行われたCTスキャンは、将来的に約103,000件(90%不確定性限界:96,400~109,500件)のがんを引き起こす可能性があると推定された。研究チームは、現在の米国の年間新規がん診断数(約195万件)とCTの利用状況が変わらなければ、CTに関連するがんが最終的に年間診断数の約5%を占める可能性があると指摘している。これは、アルコール摂取(5.4%)や過体重(7.6%)といった他の主要ながんリスク因子に匹敵するレベルだ。

リスクが高いとされるがん種・検査・患者層

研究によると、CTスキャンによって誘発されるリスクが高いがん種は以下の通りだ(括弧内は推定件数と90%不確定性限界)。

  • 肺がん: 22,400件 (20,200-25,000)
  • 結腸がん: 8,700件 (7,800-9,700)
  • 白血病: 7,900件 (6,700-9,500)
  • 膀胱がん: 7,100件 (6,000-8,500)

女性患者では、乳がんも2番目に多いがん種として推定された(5,700件; 5,000-6,500)。

がんリスクへの寄与が大きい検査部位としては、成人の場合、腹部および骨盤CTが全体の約37%(37,500件)を占め、次いで胸部CT(21%, 21,500件)が続いた。一方、子供の場合は頭部CTが最も多くのがん(全体の53%, 5,100件)に関連すると推定された。

患者層別に見ると、1回の検査あたりの発がんリスクは子供や若年層で高くなる傾向がある。例えば、1歳未満の女児の場合、1000検査あたり20件のがんリスクが推定されたのに対し、15~17歳の女児では1000検査あたり2件であった。TechSpotの記事によれば、特に乳児のリスクは他の年齢層より10倍高いとされる。
しかし、CT検査を受ける頻度は圧倒的に成人が多いため(全検査の95.8%)、将来的に発生すると推定されるがんの大部分(91%, 93,000件)は成人での検査に起因するものだった。特に50~59歳の成人が最も多くのがんを発症すると予測されている(女性10,400件、男性9,300件)。

なぜCTスキャンにリスクがあるのか?

CTスキャン(Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)は、X線を利用して体内の詳細な断層像を得る画像診断法である。従来のX線撮影が一方向からの平面画像であるのに対し、CTスキャンはX線管球と検出器が体の周りを回転しながらデータを収集し、コンピュータ処理によって3次元的な画像情報を再構成する。これにより、骨折、臓器の損傷、血管の異常、腫瘍などを高い精度で検出でき、救急医療やがん診療など多くの分野で不可欠なツールとなっている。

しかし、CTスキャンで使用されるX線は「電離放射線」の一種である。電離放射線は、原子から電子を弾き飛ばすほどの高いエネルギーを持ち、細胞内のDNAを損傷させる可能性がある。DNA損傷が修復されなかったり、誤って修復されたりすると、細胞のがん化につながるリスクが高まる。

もちろん、医療で用いられる放射線の量は、健康に影響が出ないよう厳密に管理されている。しかし、CTスキャンは通常のX線撮影よりも多くの放射線量が必要となる場合が多く、特に繰り返し検査を受ける場合や、放射線感受性が高いとされる若年層では、その影響を無視できない。今回の研究は、この潜在的なリスクを最新のデータと手法で定量化しようとしたものである。

重要なのは、このリスクとCTスキャンがもたらす診断上の利益(ベネフィット)を比較することだ。多くの場合、病気の早期発見や正確な診断による利益は、放射線被ばくによるわずかなリスク増をはるかに上回る。

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専門家はどう見るか?リスク評価の不確実性

今回の研究結果に対し、多くの専門家がコメントを寄せている。共通しているのは、CTスキャンの重要性を認めつつ、その利用は慎重に行われるべきだという点である。

共通認識:CTの重要性と適切な利用

英国放射線技師協会(SoR)のLynda Johnson氏は、「CTスキャンは非常に訓練された放射線技師によって行われ、すべてのスキャンが適切に正当化され、最適化されることが保証されている」と述べ、英国における厳格な規制(IR(ME)R 2017)と実践に言及した。正当化とは、放射線被ばくによるリスクよりも検査による利益が大きい場合にのみ検査を行うという原則であり、最適化とは、診断に必要な画質を維持しつつ、被ばく線量を合理的に達成可能な限り低く抑えるという原則である。

多くの専門家が、診断アルゴリズムの利用や、超音波やMRI(磁気共鳴画像法)といった電離放射線を使用しない代替検査の検討、不必要な検査(Low-value testing)の回避、そして患者への十分な情報提供と意思決定への参加を促すことの重要性を指摘している。

リスクの相対的な大きさと不確実性

ロンドン大学クイーン・メアリー校のStephen Duffy名誉教授は、「(推定された)10万人のがんは、9300万件のスキャンから生じたものであり、これは患者の生涯がんリスクをCT検査1回あたり約0.1%増加させることに相当する」と指摘。一般集団の生涯がんリスクが米国で約40%(英国では約50%)であることを考えると、「追加のリスクは小さい」とし、「CTスキャンが必要と判断された場合、診断とそれに続く治療における利益は、ごくわずかながんリスクの増加を上回る可能性が高い」との見解を示した。

一方で、リスク推定の不確実性も複数の専門家によって指摘されている。特にマンチェスター大学のRichard Wakeford名誉教授は、「低線量被ばくのリスクを定量化する際には相当な注意が必要」と強調。リスクモデルが主に日本の原爆被爆者のような高線量・短時間被ばくのデータに基づいており、それを低線量・長期間被ばくに適用するには大きな仮定が必要である点を指摘した。国際放射線防護委員会(ICRP)も、低線量被ばくに基づくリスク推定の不確実性を警告していることに触れ、今回の研究の推定値(103,000件)は「(論文で示された不確定性限界を(はるかに)超える範囲で)不確実である」と述べている。

ブルネル大学ロンドンのDoreen Lau博士も、「この研究は放射線被ばくからの推定がんリスクをモデル化したものであり、特定のCTスキャンと個別のがん症例との直接的な因果関係を示すものではない」と注意を促している。

他国との比較

英国グラスゴー大学のGiles Roditi名誉臨床准教授やLau博士は、CTスキャンの利用頻度が米国に比べて英国では低い点に言及している。英国では、より保守的に、より厳格な臨床的正当化に基づいて検査が行われる傾向があり、規制(IR(ME)R)や医療システム(NHS)の違いも影響している可能性がある。そのため、今回の米国のデータに基づくリスク推定が、そのまま他の国に当てはまるとは限らない。

今後の課題と患者へのメッセージ

今回の研究は、CTスキャンのリスクとベネフィットについて、改めて議論を促すものだ。

研究の筆頭著者であるRebecca Smith-Bindman博士は、「現在、CTに使用される線量には許容できないばらつきがあり、一部の患者は過剰な線量を受けている」と指摘。特に上気道感染症や警告症状のない頭痛などの状態に対して注文されるスキャンについて懸念を示している。線量管理の標準化と最適化、多段階スキャン(診断目的によっては不要な場合もある)の必要性の吟味、代替手段の積極的な検討、そして患者やその家族とのリスクに関するオープンな対話が、今後の医療現場には求められる。研究の共著者であるMalini Mahendra博士も、「この研究結果が、臨床医ががんリスクをより定量的に伝え、CT検査の利益とリスクを比較検討する際の情報に基づいた対話を可能にすることを願っている」と述べている。

専門家が共通して強調するのは、「この研究結果を受けて、医師から推奨されたCTスキャンを避けるべきではない」ということである。

Duffy教授は「CTスキャンを受けるよう勧められたら、そうするのが賢明だろう」と助言している。Johnson氏も「リスクのみに焦点を当てることは有益ではなく、場合によっては、がんの早期診断につながる可能性のあるスキャンを受けることを妨げる可能性がある」と懸念を示す。

CTスキャンは多くの深刻な病気の発見と治療に不可欠な役割を果たしている。リスクに関する情報は重要だが、過度に心配する必要はない。もしCTスキャンを受けることについて不安や疑問があれば、担当の医師に相談し、なぜその検査が必要なのか、他に選択肢はないのか、リスクと利益について納得いくまで説明を受けることが大切だ。

オーストラリア医療画像放射線療法学会のNaomi Gibson会長は「この調査結果は長期的な放射線被曝に関する警戒の必要性を強調しているが、臨床的に正当化される場合のCT画像の使用を妨げるべきではない。適切に選択された症例では、CTスキャンの診断および治療価値は、潜在的な放射線関連リスクを大幅に上回る」と総括している。


論文

参考文献

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