Wall Street Journalは2026年7月24日、AppleとMicronが中国製メモリを巡ってトランプ政権へ相反する働きかけを続けていると報じた。AppleはChangXin Memory Technologies(CXMT)とYangtze Memory Technologies(YMTC)のチップを米国外向け製品に使い、世界的な供給不足と価格上昇を和らげたい。Micronは販売地域を問わず米国内のメモリ産業を弱めるとして反対する。
両社の主張は、同じ供給不足を別の時間軸で解こうとしている。Appleが開示した部品コストの上昇はすでに業績を圧迫し得る問題だ。一方、Micronが対案に掲げる米国増産は2035年まで続き、同社自身も需給の逼迫が2027年を越えると見込む。米政権には、現在の価格を抑える調達先と将来の国内生産能力をどう両立させるかという判断が残る。
中国向けから米国外向けへ揺れる採用範囲
今回のWSJ報道は、Appleの案を「米国外で販売する製品」への中国製メモリ搭載と説明した。Tim Cook CEOらはDonald Trump大統領、Howard Lutnick商務長官、Scott Bessent財務長官らへ提案したとされる。Micron側ではSanjay Mehrotra CEOらがLutnick氏らと接触し、中国企業の参入は米国の鉄鋼・製造業が受けたのと同種の打撃を国内メモリ産業へ与えると警告したという。いずれもWSJが関係者に基づいて伝えた内容であり、Appleも米政権も調達承認や契約成立を公表していない。
搭載地域には未解決の差がある。Bloombergは7月1日、交渉は未成立であり、Appleが中国市場向け製品へCXMT・YMTC製品を使い、Samsung、SK Hynix、Micronの供給を米国向けに回す案だと報じた。3週間後のWSJは範囲を米国外と表現している。提案が中国から他地域へ広がったのか、情報源の説明が異なるのかは分からない。Appleは採用地域も製品も明らかにしていない。
CXMTとYMTCは同じ部品を作る企業でもない。CXMTの主力は作業中のデータを保持するDRAMであり、同社はスマートフォンやノートPC向けのLPDDR5Xなどを扱う。YMTCは写真やアプリを電源断後も残す3D NANDを中心に手がける。Appleは2026年3月28日までの四半期報告書で、DRAMとNANDの需給不均衡により供給制約と部品コスト上昇が起きており、この傾向が強まると予想した。中国2社は、Appleが挙げた二つの供給制約にそれぞれ対応する。
粗利84.6%は何を証明するか
Micronの2026会計年度第3四半期は、GAAPベースの売上高が414億5600万ドル、粗利率が84.6%に達した。粗利率は前四半期の74.4%、前年同期の37.7%から急上昇している。WSJによると、Appleは80%を超える粗利率を挙げ、Micronが供給不足から大きな利益を得ていると政権へ訴えた。
価格上昇が利益を押し上げたことはMicron自身の資料でも確認できる。DRAM売上高は313億ドルで、前四半期からビット出荷量が1桁台前半の伸びにとどまる一方、価格は60%台前半上昇した。NAND売上高は99億ドルで、ビット出荷量が1桁台半ば増え、価格は80%台半ば上がった。Micronは価格と製品構成の改善が粗利率を押し上げたと説明している。
ただし、84.6%という数字から違法な価格操作や適正な投資額は決められない。Micronは同じ四半期に71億ドルの純設備投資を計上した。データセンター売上高は250億ドルを超え、全社売上高の約6割を占めたが、売上構成は製造能力の配分率ではない。Apple向けに回せたウェハーが何枚あり、実際にどれだけAI顧客へ移ったかは開示されていない。
AIが一般向けメモリを圧迫する経路はある。Micronは、高帯域幅メモリ(HBM)が世代ごとに必要とする製造資源の比率を増やし、非HBMの供給をさらに圧迫すると説明した。NAND用のクリーンルームをDRAMへ振り向ける動きも、NANDの供給増を抑えるという。Appleの問題提起には技術的な背景があるが、Micronが不当に供給を絞ったという結論までは導けない。
2500億ドル計画でも供給改善は2028年から
Micronは7月9日、米国のファブと技術に2035年までに2500億ドル超を投じる計画を発表した。長期目標は、自社DRAMの40%を米国内で生産することだ。ニューヨーク州Clayでは最初のコンクリート打設を終え、Idaho州の第1ファブは2027年半ば、第2ファブは2028年後半に最初のウェハー出力を予定する。
工場の予定は、Appleが直面する2026年の調達問題には間に合わない。MicronはDRAMとNANDの逼迫が2027年後も続き、業界供給は2028年に徐々に改善すると見込む。それでも需要へ追いつく時期は見通せないとしている。2500億ドルは国内生産を増やす政策材料になるが、今の製品原価を下げる即効策ではない。
供給契約の姿も変わった。Micronは16件の戦略顧客契約を結び、通常は2026年から2030年までの5年間にわたって、約20%のDRAM数量と3分の1のNAND数量を対象にする。契約は購入数量を拘束するtake-or-pay方式だ。顧客名は伏せられており、Appleが含まれるかは不明である。開示から分かるのは、Micronが対象数量の需要を複数年契約で固めたことまでで、個別の価格式や顧客別の割当量は示されていない。
1260H指定と民間購入禁止の距離
CXMTとYMTCは国防総省のSection 1260Hリストで「中国軍事企業」に指定されている。YMTCは商務省のEntity Listにも入り、米輸出管理規則(EAR)の対象品を同社へ輸出、再輸出、国内移転するにはライセンスが必要で、原則不許可の審査を受ける。CXMTは1260H指定を受けているが、Entity Listへの追加を求める政治的圧力が続く段階だ。
1260H指定だけでAppleの民間購入が現在一律に違法になるわけではない。John Moolenaar下院中国特別委員長とGeorge Whitesides下院議員は7月14日、CXMTのEntity List追加を正式に検討するよう求めた。さらに、指定企業のメモリをAIシステムやデータセンター、連邦ITなどへ組み込むための調達を、行政命令か省庁指令で禁じるようLutnick氏へ要請した。新たな禁止を求める書簡であり、すでに発効した規則ではない。
連邦政府向けには、別の時計が動いている。2023会計年度国防権限法第5949条は、2027年12月23日以降、CXMT・YMTC製半導体を含む電子製品やサービスを連邦行政府が調達することを禁じる。市販の既製品や少額購入も対象にするFAR Case 2023-008は、7月26日時点で規則案の段階だ。民間市場向けの採用と、iPhoneやMacを連邦政府へ納められるかは分けて考える必要がある。
Appleも米国内への支出・投資を4年間で6000億ドルへ増やし、7月8日にはBroadcomと300億ドル超の契約を結んだ。Micronの2500億ドルは2035年までのファブ・技術投資であり、期間も対象も違うため金額を横並びにはできない。それでも両社は、米国で雇用と半導体供給網を増やす企業として政権に働きかけられる立場にある。WSJが描いた対立は、中国製チップの可否と同時に、どちらの米国投資を政策で後押しするかという選択でもある。
政策判断を確定させるのは、ホワイトハウスか商務省が公表する具体的な措置だ。CXMTをEntity Listへ追加するのか、民間企業の米国外向け調達へ新たな制限を設けるのかで、Appleが中国2社との交渉を契約へ進められる条件は変わる。Idaho新工場の最初のウェハーが出るのは早くても2027年半ばで、需給改善は2028年からというのがMicronの予想である。その間にAppleが短期的な調達先を確保できるか、米政権が中国企業への規制をどこまで広げるかが次の焦点となる。



