Intelが経営危機の渦中で秘密裏に大胆な資産売却を行っていたことが明らかになった。世界有数の半導体メーカーであるIntelは、チップ設計の巨人Arm Holdingsの保有株式を全て売却し、約1億4700万ドル(約220億円)を調達していたことが明らかになった。この動きは、Intelが進める大規模なリストラと経費削減計画の一環であり、同社が直面する深刻な財務状況を如実に物語る出来事と言えるだろう。
IntelはArm株を手放さざるを得ない程の苦境にあるのか
Intelの苦境は、2024年8月初旬に発表された第2四半期の決算報告で明確になった。同社は16億ドルもの巨額損失を計上し、業界アナリストの予想をも下回る衝撃的な結果となった。さらに、競合他社にシェアを奪われ、技術的優位性の低下が見られるなど、複数の課題が同社を取り巻いている。
この危機的状況に対応するため、Intelは100億ドル規模の大規模なコスト削減策を打ち出した。その中核を成すのが、全従業員の約13.6%に当たる15,000人の人員削減計画である。加えて、配当の一時停止や資本支出の大幅な削減など、あらゆる面でのコスト圧縮を図っている。
Arm株の売却は、この包括的な緊急対策の一環として位置付けられる。SEC(米国証券取引委員会)への提出書類[PDF]によると、Intelは第2四半期中に保有していた約118万株のArm株を全て手放した。Armの株価が直近のIPO以降96%も上昇していたことを考えると、このタイミングでの売却は短期的な資金調達の観点からは理にかなっていたと言える。
しかし、この決断には戦略的な側面での犠牲も伴い長期的にはデメリットとなる可能性もある。Intelは従来、Arm株を単なる投資ではなく、戦略的なパートナーシップの一環として保有していたとされる。両社はデータセンター向けプラットフォームの開発で協力関係にあり、特にIntelの最先端プロセス技術である18Aを活用した共同開発を進めていた。株式売却により、IntelはArmの株主総会での議決権を失うだけでなく、このような戦略的協力関係にも影響が及ぶ可能性がある。
Intelの苦境は株式市場でも如実に表れている。8月初旬の決算発表直後、同社の株価は一日で26%も急落し、2013年以来の最安値を記録した。これは1974年以来、Intelにとって最悪の取引日となり、半世紀にわたる同社の歴史の中でも特筆すべき出来事となった。
Pat Gelsinger CEOの下でIntelは、先進的なAIチップの開発や受託製造事業(ファウンドリー事業)の拡大に注力している。これは、台湾のTSMCに奪われた技術的優位性を取り戻し、急速に変化する半導体市場で再び主導権を握るための施策である。しかし、これらの取り組みは短期的にはコスト増加と利益率の圧迫を招いており、財務状況の悪化に拍車をかけている。
さらに、Intelは技術面でも課題に直面している。最新のRaptor Lake CPUの安定性に関する問題は同社にとって悪夢となっており、製品の信頼性に疑問を投げかけている。この問題は、AMDへのシェア流出をさらに加速させる可能性がある。実際、最新のMercury Researchレポートによると、モバイルし市場におけるIntelのx86シェアは、AMDに侵食されつつある。
こうした状況下で、Intelは財務の健全性を維持しつつ、技術革新と競争力の回復を同時に達成するという難しい舵取りを迫られている。Arm株の売却は、この困難な局面を乗り越えるための一手として位置付けられるが、それだけでは十分とは言えない。
Intelの今後の動向は、半導体業界全体に大きな影響を与える可能性がある。かつて「Wintel」として個人用コンピュータ市場を支配し、半導体業界の巨人として君臨したIntelが、急速に変化する技術環境の中で生き残りをかけた苦闘を続けている様は、かつての栄華を誇ったIntelを知っている人間としては感慨深い物がある。同社が掲げる大規模なコスト削減計画と戦略的転換が功を奏し、再び競争力を取り戻せるかどうか見守りたい。
Source
コメント