米国による輸出規制が厳しさを増す中、中国企業は米国のハイテク大手が買い増しているようなNVIDIAの最先端AIチップを手に入れる事が出来ない。一部の機能が制限された製品は入手出来るが、中国もそうした状況を覆そうとしているようだ。中国Huaweiが新開発したというAIアクセラレータチップ「Ascend 910C」が、NVIDIAの高性能AI GPU「H100」に匹敵する性能を持つ可能性が報じられ、中国のAI開発を加速させる可能性が出てきている。
Huawei Ascend 910Cは既に7万個以上の注文が見込まれる
Huaweiは現在、中国市場向けにAscend 910Cの開発を進めており、すでに国内の主要通信事業者パートナーにサンプルを提供している段階にある。Wall Street Journalの報道によると、Baidu、ByteDance、China Mobileなど、中国のテクノロジー業界を代表する企業がこの新チップのテストを実施しているとのことだ。
Huaweiは、Ascend 910CがNVIDIAのH100と同等の性能を持つと主張しているが、具体的なベンチマーク条件は明らかにされていない。しかし、この主張は業界で大きな反響を呼んでいる。特に注目すべきは、調査会社SemiAnalysisのアナリスト、Dylan Patel氏の見解である。Patel氏は、Ascend 910Cが大きな技術的進歩を遂げており、NVIDIAの次世代チップとされるB20(Blackwell)をも上回る性能を持つ可能性があると指摘している。
Ascend 910Cの市場での潜在的需要は極めて高く、予備的な交渉段階ですでに7万個以上の注文が見込まれている。これは金額にして約20億ドルに相当し、中国のAI市場におけるHuaweiの地位を大きく向上させる可能性がある。Huaweiは2024年10月から出荷を開始する計画を立てているが、最終的な注文数量と納期スケジュールはまだ流動的な状況にある。
しかし、Huaweiは生産面で深刻な課題にも直面している。米国の制裁により、先進的な半導体製造装置へのアクセスが制限されているため、同社の製品製造に遅延が生じているとされる。さらに、将来的な米国の追加制裁に備え、高帯域幅メモリ(HBM)の在庫確保や、契約製造業者に対する部品や原材料の備蓄増加を指示しているという報道もある。
これらの課題にもかかわらず、Ascend 910Cの登場は中国のAI市場に大きな影響を与える可能性がある。現在、NVIDIAは輸出規制に適合させるため、中国向けに性能を抑えたGPU(例:HGX H20)しか提供できない状況にある。これに対し、Huaweiの新チップは制限のない高性能を提供できる可能性があり、中国企業にとって魅力的な選択肢となりうる。
特に注目すべきは、Ascend 910Cの価格設定である。報道によると、1チップあたりの価格は約28,000ドルと推定されており、これはNVIDIAの高性能GPUと比較して競争力のある価格帯と言える。この価格設定と性能の組み合わせは顧客企業としては何より魅力だろう。
さらに、Patel氏は2024年におけるHuaweiのAscend 910B(910Cの前モデル)の販売台数を約55万台と予測している。これはNVIDIAのHGX H20の予想販売台数である約100万台には及ばないものの、決して小さな数字ではない。もしAscend 910Cが予想通りの性能を発揮し、生産上の課題を克服できれば、この数字は大きく伸びる可能性がある。
一方、NVIDIAも手をこまねいているわけではない。同社は米国の輸出規制に適合する新たなGPUの開発を続けており、次世代チップB20の投入を計画している。しかし、B20が中国向けに輸出承認を得られるかどうかは不透明な状況にある。
このような状況下で、HuaweiがAscend 910Cの生産を軌道に乗せることができれば、中国のAI市場における競争環境は大きく変化する可能性がある。特に、国内企業が国際競争力を維持するために必要な高性能AI処理能力を提供できるかどうかが、今後の中国テクノロジー産業の発展に大きな影響を与えるだろう。
Source
- The Wall Street Journal: Huawei Readies New Chip to Challenge Nvidia, Surmounting U.S. Sanctions
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