米国の半導体大手Intelが、3ナノメートル(nm)以下の先端プロセスノードの製造をTSMCに全面的に委託する可能性が浮上している。この動きは、Intelの財務状況の悪化と先端プロセス開発における技術的課題を改めて浮き彫りにする物であり、同社の置かれた状況がかつてない程に深刻である可能性を示唆する物だろう。
Intelの3nm以下プロセス委託の背景
Intelは長年、自社で設計から製造までを一貫して行う統合デバイスメーカー(IDM)モデルを採用してきたが、近年その戦略に綻びが見え始めている。台湾の工商時報によると、Intelは3nm以下の製造プロセスをTSMCに全面的に委託する方針を固めたとされる。
この背景には、Intelの深刻な財務状況がある。同社の最新の四半期決算報告書によると、ファウンドリ(半導体受託製造)事業部門の損失は28億ドルに拡大し、営業利益率は-65.5%に悪化している。さらに、アイルランド工場でのIntel 3およびIntel 4プロセスの生産能力拡大が収益性に大きな圧力をかけていることも明らかになった。
Intelの技術的な課題も、この決定に影響を与えている可能性がある。業界関係者によると、先端製造プロセスへの投資には莫大な費用がかかるにもかかわらず、競合他社との技術格差は縮まっていないというのだ。特に、Intelの最新の18Aプロセスについては、主要顧客の一社であるBroadcomが量産に適さないとの結論を出したとの報道もある。これらの要因が、Intelの自社製造能力に対する不安を高めている。
Intelの大きな戦略転換による業界への影響
Intelの戦略転換は、半導体業界全体に大きな影響を与える可能性がある。特に、TSMCの優位性がさらに強化されることが予想される。業界関係者によると、TSMCは7nm以下の先進製造プロセスにおいて、すでに「勝者総取り」の状況に近づいているという。
一方、Intelは厳しい財務状況を打開するため、大規模なリストラを進めている。全世界で15%の人員削減を計画しているほか、2025年までに100億ドルのコスト削減を目指している。また、30年ぶりに配当の停止を決定し、一部事業の売却も検討しているとされる。
半導体アナリストであるAndrew Lu氏は、Intelの現金流入が先進製造プロセスの研究開発と量産に必要な四半期ごとの50億から60億ドルの資本支出を支えるのに十分でないと指摘している。Lu氏は、Intelの先進製造プロセス技術の研究開発と量産能力が今後さらに悪化し、競合他社との差が広がる可能性があると予測している。
しかし、Intelの戦略転換には課題も多い。同社のCEOであるPat Gelsingerは、IDM 2.0戦略がIntelの栄光を取り戻す唯一の道であると信じており、この道筋がほぼすべてのリソースを消費する可能性があるにもかかわらず、他の選択肢がないように見える。
一方で、TSMCへの過度の依存にも警鐘が鳴らされている。Lu氏は、TSMCが人工知能(AI)関連の顧客からの重複注文に惹かれて来年の資本支出を400億ドルまで引き上げる可能性を懸念している。Lu氏は、TSMCの顧客の売上高年間成長率がすでに低下傾向にあるため、資本支出計画には慎重になるべきだと指摘している。
このIntelの戦略転換は、単に一企業の問題にとどまらず、半導体業界の構造変化を示唆している可能性がある。先進製造プロセスの開発と量産には莫大な投資が必要であり、それを支える財務力と技術力の両方を維持することの難しさが浮き彫りになっている。今後、半導体業界がどのように再編されていくのか、注目が集まっている。
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