Adobeが、AIを活用した新しい動画生成ツール「Firefly Video Model」を2024年末までにリリースすることを発表した。この革新的なツールは、同社のFireflyスイートに新たに加わる予定で、ビデオ編集の世界に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。
Adobeが挑む次世代の動画制作支援
Firefly Video Modelは、Adobeが2023年3月に立ち上げたFirefly AIシリーズの最新作だ。既存のFireflyスイートには、画像、デザイン、ベクターグラフィックス生成のためのツールが含まれており、これらは既に同社のCreative CloudやExpressなどの製品群に統合されている。Photoshopの「生成塗りつぶし」、Lightroomの「生成AI削除」、Illustratorの「生成塗りつぶし (シェイプ)」、Expressの「テキストからテンプレート生成」など、既にFireflyを活用した機能は広く利用されており、Adobeによると、これまでに120億以上の画像やベクターが生成されているという。
Firefly Video Modelは、AdobeがAI駆動の動画モデル分野に本格的に参入する最初の製品となる。このツールは、RunwayやPika Labsなどのスタートアップが提供する既存のAI動画生成ツールと競合することになる。また、OpenAIのSoraとも将来的に競合する可能性があるが、Soraはまだ研究段階にあるとされている。
Firefly Video Modelで、Adobeは、テキストや画像からの動画生成、既存動画の拡張など、多岐にわたる機能を提供する予定だ。同社は、年内に限定ベータ版をリリースし、ビデオグラファーのブレインストーミングや編集タスクを支援することを目指している。
Alexandru Costin氏(AdobeのGenerative AI部門副社長)によると、このツールはテキストや画像プロンプトから5秒間の動画クリップを生成できるという。さらに、ユーザーはカメラアングル、パン、移動、ズーム効果なども指定可能だ。Adobeは、このFirefly動画ツールが他の動画モデルよりも正確にプロンプトに従い、優れたパフォーマンスを発揮すると主張している。
Firefly Video Modelの主要機能と活用方法
Firefly Video Modelには、以下の3つの主要機能が搭載される予定だ:
- Text to Video:テキストプロンプトから5秒間の動画を生成
- Image to Video:入力画像から5秒間の動画を生成
- Generative Extend:既存の動画クリップを2秒間延長
Text to VideoとImage to Video機能は、Firefly専用Webサイトで利用可能になる予定だ。ユーザーは、テキストプロンプトや参照画像を使用して、多様なカメラコントロールを指定しながら、最大5秒間の動画を生成できる。AdobeのCTO(デジタルメディア担当)であるEly Greenfield氏によると、生成される動画の時間制限は将来的に延長される可能性があるという。
特筆すべきは、Generative Extend機能だ。これはAdobe Premiere Proのベータ版に組み込まれ、既存の動画クリップを自然に2秒間延長することができる。この機能は、シーンの最後の数フレームを分析し、Firefly Video Modelを使用して次の2秒間を予測する。背景ノイズなどの音声も再現されるが、人の声や音楽は著作権の観点から再現されない。
Greenfield氏はデモンストレーションで、宇宙飛行士が宇宙を見つめるシーンを延長する例を示した。不自然なレンズフレアが出ていたことで、生成された動画であることは見分けが付いたが、それ以外のカメラの動きやシーン内のオブジェクトの一貫性は維持されていたという。
AIモデルの学習方法と倫理的配慮も重要なポイントだ。Adobeは、Firefly Video Modelが公開ドメインとライセンス取得済みのコンテンツのみを用いて学習されており、Adobe顧客のコンテンツは学習データに使用されていないと強調している。また、プライバシーやセキュリティに配慮し、ヌード、薬物、アルコールに関する動画生成をブロックするなどの対策も講じられている。さらに、政治家やセレブリティなどの公人の顔を含む動画生成もブロックされているという。
クリエイティブ業界への影響と期待される効果
Firefly Video Modelの登場は、動画編集の効率化や創造性の拡大に繋がる物であるとAdobeは考えており、このAIツールがクリエイターの作業を補完し、より多くの時間を創造的な作業に充てられるようになることを目指している。
Greenfield氏は、「Firefly AIツールには、既存のワークフローを補完し、加速させる大きな可能性があります」と述べている。実際に、昨年Photoshopに追加されたFireflyの生成塗りつぶし機能は、「過去10年間で最も頻繁に使用される機能の1つ」になったという。
Adobeが想定しているFirefly Video Modelの活用法としては、具体的には、以下のような物があるという:
- 不足している確立ショットの生成
- 自然界の風景や動物などのB-ロール映像の作成
- 火、煙、粒子、水などの雰囲気要素の生成
- カスタムテキストエフェクトのアイデア出し
- 既存の静止画やイラストの動画化
これらの機能により、クリエイターは素材の不足を補い、新しいアイデアを素早く視覚化し、編集作業の効率を大幅に向上させることができる可能性がある。
リリース計画と今後の展望
Adobe社は、Firefly Video Modelの限定ベータ版を2024年末までにリリースする予定だ。具体的には、Text to VideoとImage to Video機能がFirefly専用Webサイトで、Generative Extend機能がAdobe Premiere Proのベータ版で利用可能になる。
価格設定については明らかにされていないが、他のFireflyツールと同様に、Creative Cloudの顧客に対して一定数の「生成クレジット」が割り当てられる可能性がある。より高価なプランでは、より多くのクレジットが提供されると予想される。
Firefly Video Modelは、Adobeの長期的なAI戦略の重要な一部となる。同社は、AIツールを既存の製品ラインに統合し、クリエイターの作業効率を向上させながら、新たな創造的可能性を開拓することを目指している。
Firefly Video Modelのベータ版へのアクセスや最新情報を希望する人は、Adobe社のWebサイトで待機リストに登録することができ、利用可能になれば通知を受け取ることが可能だ。
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