AI開発では、Anthropicへの巨額投資などが伝えられたAmazonだが、具体的な製品展開はこれまであまり聞かれてこなかった。だが今回、同社が米国で一部の顧客向けにテストを行っていたAIショッピングアシスタント「Rufus」が、ついに全米の顧客向けにリリースされた。モバイルアプリ内で利用可能なこのAIは、膨大な製品情報と高度な対話能力を組み合わせることで、単なる製品検索ツールを超え、顧客の買い物体験を根本から変革することを意図して開発されている。
Amazonはオンラインショッピングを双方向な物にしたい
Rufusは2024年2月に限定ベータ版としてリリースされ、数ヶ月間の試験期間を経て、ついに米国の全顧客が利用可能となった。Amazonはこの期間中、数千万件にも及ぶ顧客からの質問を分析し、Rufusの機能を磨き上げてきた。
Rufusは単なるチャットボットではなく、Amazonの膨大な製品カタログ、数百万件に及ぶカスタマーレビュー、コミュニティQ&A、そしてWeb上の公開情報を基に訓練された独自の大規模言語モデル(LLM)を搭載している。この技術基盤により、Rufusは単に情報を提供するだけでなく、文脈を理解し、ユーザーのニーズに合わせて、Amazonの取り扱う商品に関して、適切な回答や提案を行うことが可能となっているのだ。
Rufusの主要機能
- 製品詳細の説明: Rufusは製品に関する具体的な質問に答えることができる。例えば、「このマスカラはクリーンビューティー製品ですか?」といった質問に対し、製品の成分や特性を詳しく説明する。
- 高度な製品比較: 「OLEDとQLEDテレビを比較して」といった要求に対し、両者の技術的な違い、画質の特徴、価格帯などを総合的に分析し、顧客の状況に応じた提案を行う。
- コンテキストを考慮した推奨: 「フロリダのプールに適した傘を教えて」という質問に対し、フロリダの気候や湿度を考慮した上で、適切な素材や機能を持つ製品を推奨する。
- トレンド情報の提供: 「子供向けの最新のFire タブレットは?」といった質問に答え、最新モデルの特徴や前モデルとの違いを説明する。
- 注文管理の効率化: 過去の注文履歴にアクセスし、「前回サンスクリーンを注文したのはいつ?」といった質問に答えることで、再注文の判断をサポートする。
- 包括的な買い物サポート: 「夏のパーティーに必要なものは?」といった一般的な質問に対し、食事、装飾、エンターテイメントなど、多角的な視点から製品を提案する。
Rufusは会話の流れの中で関連する質問を自動的に提示し、ユーザーが思いつかなかった視点からの情報も提供する。例えば、バックパックの素材について尋ねた後、「お客様の評価は?」というオプションを表示し、より深い製品理解を促すこともできると言う。
ただし、現状のRufusには、製品説明の正確性に関する課題や、米国での選挙関連など、Amazonの取り扱い商品とは関係のない話題にも対応してしまい、間違った回答をしてしまうなど、改善の余地がある部分も指摘されている。Amazonはこれらの課題を認識しており、継続的な改善を約束している。
また、Rufusが参照するWeb上の情報源については詳細が明らかにされておらず、情報の信頼性や中立性に関する問題も注目されそうだ。
だが、このRufusはこれまでのオンラインショッピングの形を全く変える可能性を秘めた物とも言える。これまでオンラインショッピングはどちらかと言えばユーザーが目的の商品を探す“能動的”な物だった。だが、AIアシスタントとやりとりをすることは、まだほど遠い部分もあるが、現実世界で店員とやりとりをしながら楽しむショッピング体験をオンラインショッピングに取り入れることにも繋がるかも知れない。そういった意味で、Amazonの実験の推移は個人的に気になるところだ。
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