現在のAMDの成功を見ていると、同社がかつては倒産の危機に瀕していたとは信じられないかも知れない。だが2008年の金融危機以降、AMDは深刻な財政難に陥っていた。そんな同社の窮地を救い、同社が息を吹き返すきっかけとなったのがSonyのゲーム機PlayStation 4の成功にあった事が、AMD現役幹部の回顧によって明らかになった。この意外な救世主の存在は、半導体業界の歴史における重要な転換点を示すものかも知れない。
PlayStation 4がAMDの窮地を救った舞台裏
AMDの現・消費者およびゲームクライアント事業担当シニアディレクターであるRenato Fragale氏が、自身のLinkedInプロフィールで驚くべき事実を明らかにしている。Fragale氏の履歴書には2012年6月から2014年7月まで務めた製品開発シニアエンジニアリングマネージャーの役割について、「SonyのPlayStation 4(PS4)の製品開発チームを管理し、AMDの歴史の中で最も成功したローンチの一つとされ、AMDの倒産を回避するのに役立った」と記されている。
実際にこの時期AMDは深刻な財政難に陥っていた。2013年の決算発表では、8300万ドルの純損失を計上し、前年比で2%の減収を記録していた。しかし、PS4の発売後、状況は一変する。年間収益は前年比4%増の55億1000万ドルにまで跳ね上がったのだ。
PS4の成功がAMDにもたらした影響は計り知れない。現在までに1億1700万台以上を売り上げたPS4は、AMDのカスタムJaguar アーキテクチャCPUとGCNアーキテクチャGPUを搭載している。この成功を足がかりに、AMDは現在、PC市場で強固な地位を確立し、携帯機器市場でも確固たる基盤を築いている。
AMDのメモリ システム / インターコネクト パフォーマンス アーキテクトであるPhil Park氏も、この厳しい時期を振り返っている。「2008年の世界金融危機で我々は非常に厳しい立場に置かれました。特にIntelがMerom、Conroe、Woodcrest、Nehalemで復活した後はそうでした。現金を調達するために、AdrenoのようなIPを複数売却しました。ほとんどの従業員が一時的な給与カットを受け入れました」とPark氏は述べている。
PlayStation 4とXbox Oneのプロセッサ供給契約は、AMDにとって財政的な命綱となった。これらのコンソール向けチップの安定した収益は、ZenアーキテクチャなどのAMDの将来を左右する重要プロジェクトへの投資を可能にした。その結果、AMDの株価は2013年のPS4発売前の1.87ドルから、現在は171.90ドルだが、2024年3月には207ドルまで上昇している。
AMDの復活劇には、他にも幸運な要因があった。ネットブックの台頭により、AMDのBobcat APUが予想外のヒット商品となり、約5000万個のAPUが販売された。これらのチップは、1〜2個のCPUコアと統合されたRadeonグラフィックスを低消費電力(18W未満)で提供し、手頃な価格の超小型PCに最適だった。
PS4(およびXbox One)向けのJaguar コードネームのプロセッサは、このBobcatの基盤の上に構築され、単一のAPUで現代的なゲーミング性能を提供するよう設計された。Jaguarは、より現代的なプロセス技術、8コアCPU、高い動作周波数、改善されたIPC、より広範な命令セットのサポート、2倍の帯域幅などの利点をもたらした。
AMDの復活は、半導体業界における驚くべき逆転劇の一つとして記憶されるだろう。PlayStation 4の成功がなければ、AMDは倒産していたかも知れず、現在のPC市場の風景は大きく異なっていたかも知れない。
Sources
コメント