Apple Vision Proの新たな展開として、SonyのPlayStation VR2(PSVR2)コントローラーへの対応が検討されていることが明らかになった。BloombergのMark Gurman氏の報道によると、Appleが主導的にSonyへアプローチし、数ヶ月に渡って両社間で協議が進められているという。この動きは、高額ながらも革新的なXRデバイスとして注目を集めるVision Proの用途拡大を図る戦略の一環とみられる。
Vision ProによるPSVRコントローラー対応の詳細
AppleはvisionOSのアップデートを通じて、PSVR2のハンドコントローラーに対応する計画を進めている。現行のVision Proではハンドトラッキングとアイトラッキングによる操作が基本だが、PSVR2コントローラーを活用することで、より精密な入力が可能になると期待されている。具体的には、アナログスティックやD-padによるスクロール操作、トリガーボタンによるピンチジェスチャーの代替など、システム全体のナビゲーション機能が強化される見込みだ。
また、Appleはサードパーティーデベロッパーに対して、PSVR2コントローラーのサポートをゲームに組み込むよう要請を行っている。これまでVision ProではXboxやPlayStation 5のコントローラーがApple Arcade向けに限定的にサポートされていたが、6DoF(6自由度)に対応したVR専用コントローラーの導入により、より本格的なVRゲーミング体験の実現が可能となる。
AppleとSonyによる提携の背景と市場への影響
AppleとSonyの提携構想の背景には、Vision Proが直面する複雑な市場環境が存在している。2024年2月の発売以降、Vision Proの累計販売台数は約37万台にとどまっており、2024年末までに見込まれる追加販売も約5万台程度と予測されている。この数字は、革新的なテクノロジーを搭載した新カテゴリー製品としては一定の評価ができるものの、Appleが社内で想定していた普及ペースを下回っているとされる。
さらに注目すべきは、既存ユーザーの利用パターンだ。購入者の実際の使用頻度が当初の想定を下回っているという報告は、デバイスの有用性に関する根本的な課題を示唆している。約60万円という高額な価格設定は初期導入の障壁となっているが、それ以上に重要なのは、日常的な使用シーンの創出という課題である。
このような状況下でのPSVR2コントローラー対応は、ゲーミング機能に留まらない戦略的意義を持つ。特に注目すべきは、プロフェッショナル向けアプリケーションでの活用可能性だ。Final Cut ProやAdobe Photoshopといったクリエイティブソフトウェアにおける精密な操作性の向上は、ビジネスユースにおけるVision Proの価値提案を強化する可能性を秘めている。
市場へのインパクトという観点では、この提携がもたらす波及効果も見逃せない。現在、PSVRコントローラーは単体での販売が行われていないが、Appleのオンラインストアおよび実店舗での取り扱いが開始されることで、VRコントローラー市場に新たな変化がもたらされる可能性がある。これは、サードパーティー製コントローラーメーカーの参入を促す触媒となる可能性も秘めている。実際に、Vision Pro向けのMeta Quest 3スタイルのコントローラーを開発するKickstarterプロジェクト「Surreal Touch」が既に資金調達に成功するなど、市場の潜在的なニーズの高さを示す動きも出始めている。
また、この提携は両社にとって戦略的な意味合いを持つ。Appleにとっては、ゲーミングおよびエンターテインメント分野での弱点を補完する機会となる一方、Sonyにとっては、自社のVRコントローラー技術を新たな市場に展開する機会となる。特に、ハイエンドなプロフェッショナル市場でのプレゼンス確立は、将来的なVRデバイス市場でのポジショニングに大きな影響を与える可能性がある。
そしてこの動きは、より広い文脈では、XR市場全体の成熟度向上にも寄与する可能性がある。業界を代表する両社の協力関係は、XRデバイスの標準的な操作体系の確立に向けた重要な一歩となることが期待される。ただし、その実現には両社の技術統合における様々な課題を克服する必要があり、発表時期の延期に示されるように、その道のりは必ずしも平坦ではないことにも留意が必要だ。
Sources
コメント