世界最大の半導体ファウンドリー企業TSMCの創業者Dr. Morris Chang氏の自伝により、2011年にAppleのTim Cook CEOがIntelのチップ製造能力に対して否定的な見解を示していたことが明らかとなった。この判断が、その後の半導体業界における勢力図を大きく変える転換点となったわけだ。
IntelからTSMCへの転換を決定づけた会談の真相
TSMCの創業者Dr. Morris Changが明かした重要な転換点は、一夜にして生まれたものではなかった。その背景には、半導体業界における綿密な人脈のネットワークと、慎重に積み重ねられた信頼関係構築の過程があった。
この物語の重要な架け橋となったのは、AppleのCOOであるJeff Williams氏である。Williams氏とChang氏の出会いは、意外にも製造業界の大物、Foxconn創業者Terry Gou氏を介したものだった。Gou氏はChang氏の妻の従兄弟という個人的な縁を持っており、この人的つながりが後の業界再編の伏線となった。
しかし、事態は単純には進まなかった。2011年、TSMCとAppleの交渉が進みつつあった中で、重要な転機が訪れる。Williams氏はChang氏に対し、AppleがIntelの契約製造サービスに関心を示していることを伝えた。この報告を受け、両社の交渉は2週間の中断を余儀なくされた。状況を打開するため、Chang氏はアメリカへと向かい、Tim Cook氏との直接会談の場を設定した。
Apple本社で行われたこの運命的な会談で、Cook氏はChang氏に対して重要な見解を示した。具体的なコストや製造の歩留まりといった詳細には触れなかったものの、「Intelは良いOEM(相手先商標製品製造会社)ではない」という明確な評価を下したのである。この率直な見解は、TSMCにとって大きな転機となった。
この会談を経て、AppleとTSMCの関係は着実に深まっていった。2014年にはiPhone 6向けのA8チップで初めてTSMCの製造プロセスが採用され、その後TSMCは徐々にAppleの全チップ製造要件を担うようになっていった。この展開は、スマートフォンからパーソナルコンピュータに至るまで、Appleのハードウェア戦略全体に大きな影響を与えることとなった。
特筆すべきは、この判断がAppleに与えた長期的な利点である。TSMCとの緊密なパートナーシップにより、Appleは世界で最も先進的な製造技術へのアクセスを確保。これは後のIntel製チップからの離脱と、独自のM1/M2チップへの移行を可能にした重要な布石となったのである。
Xenospectrum’s Take
この出来事は、半導体業界における重要な転換点として捉えるべきだろう。Intelの契約製造事業への参入失敗は、単なる一社の躓きを超えて、アジアの半導体企業の台頭を決定づけた象徴的な出来事となった。現在のAppleがTSMCの最先端プロセスを独占的に使用できる立場を確立できたのも、この時の判断があってこそだ。皮肉なことに、かつて「Wintel」で世界を席巻したIntelは、いまやAppleのM1/M2チップの前で苦戦を強いられている。半導体業界の覇権争いは、時として些細な判断が歴史を大きく変えることを示す好例となったと言えるだろう。
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