Appleのワイヤレスイヤホン「AirPods」が、2023年に180億ドル(約2兆7,000億円)を超える売上高を記録し、任天堂の2023年の年間総売上高(約1兆4,500億円)を大きく上回ったことが明らかになった。Bloombergの分析によると、単一アクセサリー製品としては異例の快進撃を続けている。
驚異的な成長を支える市場要因
AirPodsの急成長を支える最も重要な要因は、既存のiPhoneユーザー基盤との強力なシナジーである。現在、全世界で約15億台のiPhoneがアクティブに使用されており、そのうち約40%のユーザーがAirPodsを所有している計算となる。これは実に6億人規模のユーザー基盤を意味する。Bloombergの分析によれば、この比率は着実に上昇を続け、2027年には52%、2030年には60%に達すると予測されている。これはiPhone販売台数が年率5%で成長すると仮定した場合、AirPodsの年間売上成長率が12%に達する可能性を示唆している。
特筆すべきは若年層における圧倒的な支持だ。18歳から24歳のZ世代においては、実に62%がAirPodsを所有している。この年齢層における高い普及率は、製品のステータスシンボルとしての側面と、シームレスな接続性という実用面の両方が評価された結果と考えられる。さらに、この年齢層は今後の購買力の中核となることから、AirPodsの長期的な成長を支える重要な基盤となっている。
第三の成長要因として無視できないのが、製品特性に起因する継続的な需要である。CBSの調査によると、ユーザーは紛失や破損による交換用AirPodsの購入だけで年間5億ドル以上を支出している。特にケースが硬い表面に衝突した際にイヤホン本体が飛び出してしまうという特性は、予期せぬ買い替え需要を生み出している。この「弱点」とも言える特性が、皮肉にもビジネスモデルの強みとして機能しているのである。
さらに、既存モデルの値下げ戦略と新機能搭載モデルの定期的な投入により、幅広い価格帯をカバーする製品ラインナップを構築している点も、持続的な成長を支える要因として挙げられる。最新のAirPods 4は21,800円からの提供となり、高級モデルのAirPods Pro 2(39,800円)との間で効果的な価格階層を形成している。
テクノロジー業界における異常な収益力
AppleのAirPodsが記録した180億ドルという売上高の異常性を理解するには、テクノロジー業界における他社の業績との比較が有効だ。この数字は、音楽ストリーミング最大手のSpotifyの年間売上140億ドルを40億ドル上回っている。さらに特筆すべきは、eコマース界の老舗であるeBayや、シェアリングエコノミーを代表するAirbnbの売上高(ともに100億ドル)を大きく引き離していることだ。
この比較で重要なのは、AirPodsが単一のアクセサリー製品であるという点である。Spotifyは2億2000万人以上の有料会員を抱え、eBayは世界中で数百万の取引を仲介し、Airbnbは全世界の宿泊施設をネットワーク化している。これらの企業がプラットフォームとして築き上げた事業規模を、単一のイヤホン製品が上回っているという事実は、Apple社内でもAirPodsの重要性が急速に高まっている理由を如実に示している。
Bloombergの分析によれば、このままのペースで成長を続けた場合、AirPodsは今後数年以内にiPadの売上を追い抜き、iPhoneとMacに次ぐAppleの第3の収益源となる可能性が高いとされている。この予測の背景には、iPadやMacと比較して大幅に低い価格帯ながら、圧倒的な販売台数を誇るAirPodsのビジネスモデルの強さがある。
さらに注目すべきは、新興の人工知能企業OpenAIの推定売上高40億ドルと比較しても、AirPodsが4倍以上の規模を持つという事実である。ChatGPTで世界的な注目を集めるOpenAIと比較しても、AirPodsの事業規模の大きさが際立っている。これは、実体を伴うハードウェア製品の収益力が、今なおソフトウェアやサービス事業を凌駕し得ることを示す興味深い例となっている。
Xenospectrum’s Take
iPhone 7で3.5mmイヤホンジャックを廃止した際、多くのユーザーから批判を浴びたAppleの決断は、結果として同社にとってドル箱を生み出すこととなった。比較的手の届く価格帯、簡単に紛失する製品特性、そして継続的な機能拡張により、AirPodsは「必需品」としての地位を確立した。
さらに注目すべきは、最新のAirPods Proが FDA認証を取得し、補聴器としても使用可能になったことだ。従来の補聴器と比較して大幅に安価であることから、医療機器としての新たな市場も開拓しつつある。2025年に予定される第3世代AirPods Proでは、さらなる健康関連機能の追加が予想され、「単なるイヤホン」を超えた製品へと進化を続けている。
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