Appleは次期iPhone SE 4に初の自社製5Gモデムチップを搭載する見込みだ。これはAppleのチップ自社開発戦略における重要な一歩となる。しかし、初期の性能はQualcommのSnapdragon X75モデムに及ばないと予測されており、Appleが乗り越えるべき課題も抱えている。
iPhone SE 4、初のApple独自5Gモデム搭載へ
iPhone SEシリーズは、手頃な価格帯で最新プロセッサを提供することで、独自の市場地位を確立してきた。次期iPhone SEは、大型ディスプレイや上位機種に類似したデザインの採用など、広範なアップデートが予想されている。中でも、iPhone SE 4では最新のA18チップ搭載が有力視されており、高性能とApple Intelligence機能への対応が期待される。一方で、コスト抑制のため、シングルレンズカメラやノッチデザインの継続など、一部機能は制限される見通しだ。
だが、そんな中でも特に注目を集めているのが、Apple初となる自社製5Gモデムチップの搭載だ。
Appleは2010年に自社開発のモバイルAP(Application Processor)であるAシリーズを発表して以来、ハードウェアとソフトウェアを統合した独自の製品戦略を追求してきた。特に、2018年からは約7年間、独自の5G通信モデムチップの開発に取り組んできた。これは、Qualcommへの依存度を下げ、コスト削減と自社システムへの最適化を図る戦略の一環である。
Qualcomm Snapdragon X75との性能差
Appleの初期カスタムモデムは、iPhone 16シリーズ搭載予定のQualcomm製Snapdragon X75と比較して、性能面で劣る可能性があると報じられている。現時点で具体的なテスト結果は公表されていないものの、これまでもApple独自開発の初期モデムがQualcommの最新チップに匹敵する性能を実現するのは困難と言われてきた。
特に、ミリ波5G対応の見送りやキャリアアグリゲーション機能の制限により、データ通信速度において差が生じる可能性がある。ただし、AppleはMシリーズチップ開発で顕著な進歩を示しており、今後数年でモデム性能を段階的に向上させることが予想される。iPhone SE 4は、この技術発展の試金石となるであろう。
Appleがモデム内製化を推進する背景
Appleがモデムチップの内製化を目指す主な理由は、コスト削減とサプライチェーンの独立性強化である。スマートフォン向けモデムチップ市場で優位に立つQualcommに対し、Appleは長期間チップ供給を受けてきたが、価格交渉では相対的に弱い立場にあった。
さらに、Qualcommとは特許侵害訴訟などの法的紛争も経験しており、両社の関係は一時悪化した。これらの要因から、自社でのモデムチップ開発・製造により、Qualcommへの依存から脱却し、より自由な製品開発とコスト競争力の向上を図ることがAppleの戦略の核となっている。また、自社開発チップにより、ハードウェアとソフトウェアの統合最適化、高性能と低消費電力の両立も期待できる。
モデムチップ開発の技術的障壁
Appleは2018年頃からモデムチップの内製化に本格着手し、2019年にはIntelのスマートフォンモデム事業を10億ドルで買収するなど、開発体制を強化してきた。しかし、モデムチップの開発は、モバイルAPの開発とは異なる技術的課題が存在する。
モデムチップには、高速データ処理能力に加え、無線通信規格への厳格な準拠、広範な周波数帯への対応、世界各国の通信キャリアとの互換性確保など、多岐にわたる技術要件が求められる。特に、5G規格への対応に加え、既存の3G、4G規格、さらには将来の6Gや衛星通信への対応も視野に入れる必要がある。Qualcommのような実績とノウハウを持つ企業に匹敵する性能を実現するには、相当の時間と投資が不可欠だ。
Appleモデム内製化が市場に及ぼす影響
Appleのモデムチップ内製化成功は、モバイル通信市場に大きな変革をもたらす可能性があるだろう。Qualcommにとって、主要顧客であるAppleを失うことは、収益面で大きな打撃となることが予想される。Qualcommは、AI PCやデータセンター向けチップ市場への展開を進めているが、Appleの内製化による収益減少を完全に補完できるかは不透明である。
一方、Appleのチップ製造を担うTSMCは、大規模な受注増加により恩恵を受けると見られる。また、Appleがモデムチップの内製化で大幅なコスト削減に成功した場合、iPhoneの価格戦略にも好影響を及ぼす可能性がある。長期的には、この動きが半導体業界における垂直統合の傾向を加速させ、サプライチェーンの再編を促す可能性を秘めている。
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