米国のJoe Biden政権が任期終了直前に、AI半導体の輸出規制を全世界的に拡大する新たな方針を検討していることが明らかになった。規制案では世界を3つの階層に分類し、同盟国には比較的自由な取引を認める一方、中国やロシアには厳格な制限を課す。世界のAI開発の主導権を握ろうとする米国の野心的な施策として注目される。
3層構造による世界規模の規制枠組み
規制案の核心は、世界各国を3つの階層(Tier)に分類し、それぞれに異なるレベルの制限を課す点にある。第1層には米国と18の同盟国(ドイツ、オランダ、日本、韓国、台湾など)が含まれ、比較的自由なAIチップの取引が認められる。
ただし、第1層の国々も無制限というわけではない。これらの国に本社を置く企業は、総計算能力の4分の1以上を第1層以外の国に配置することはできず、さらに第2層の個別の国への配置は7%を超えてはならない。また、米国企業については総計算能力の50%以上を米国内に維持することが求められる。
第2層には世界の大多数の国が分類され、2025年から2027年の期間において約5万個のGPUに相当する計算能力を上限とする制限が課される。ただし、米国政府の安全保障基準や人権基準を満たす企業には、より高い上限が認められる可能性がある。
第3層には中国、マカオ、そして米国が武器禁輸措置を講じている約24カ国が含まれ、これらの国へのAIチップの輸出は原則として禁止される。
規制強化の背景と産業界の反応
この規制案は、中国のAI開発能力を制限しつつ、世界のAI開発を米国の基準に沿った形で進めようとする意図が明確に表れている。特に注目すべきは、個別企業に対して米国の基準への準拠を促す仕組みが組み込まれている点だ。
しかし、この動きに対して産業界からは懸念の声が上がっている。世界最大のAIチップメーカーであるNVIDIA社は「世界のほとんどの地域への輸出を制限する突発的なルール変更は、誤用のリスクを減らすことなく、経済成長と米国のリーダーシップを脅かすことになる」と批判している。
半導体工業会(SIA)も「このような重要な政策変更を、政権移行期に産業界からの意味のある意見も聞かずに急いで実施すべきではない」と反対の立場を示している。
AIモデルのウェイトにも規制の網
注目すべきは、半導体チップだけでなく、クローズドなAIモデルのウェイト(パラメータ)の輸出も規制対象となる点だ。第3層の国々でのクローズドモデルのウェイトのホスティングは禁止され、第2層の国々でも安全基準を満たす必要がある。
ただし、オープンソースのモデルや、既存のオープンモデルより性能が劣るクローズドモデルについては規制対象外となる。これにより、Meta社のLlama 3.1 405Bのような公開モデルの開発・展開には影響が及ばない見込みだ。
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