7nmより微細な先端半導体製造装置は、長らくASMLの独占状態だったが日本のCanonが今後の2nmプロセスチップの製造も視野に入れた新たな半導体製造装置を発表した。
Canonは長年の研究の末、5nm世代の半導体チップの製造に使用できるという、ナノインプリントリソグラフィ(NIL)装置「FPA-1200NZ2C」を発表した。ASMLの装置はEUV(極紫外線)リソグラフィ技術を使用しているが、Canonの新装置はNIL(ナノインプリント・リソグラフィ)を使用しており、消費電力が低いのが特徴だ。更に、改良によって最小線幅10nmレベルへの対応も期待でき、2nm世代のチップ製造も可能になるかも知れないという。
Canonは2004年からこの技術を開発しており、多くの挫折を乗り越え、今回成功にこぎ着けたとのことだ。NILでは、レジスト上に回路パターンを転写したマスクをスタンプのようにウェハーに押し付けることでチップを作製する。同社は、EUVのような光学技術に比べ、NILでは回路転写プロセスをより忠実に行うことができるとのことだ。
また、投影リソグラフィ装置のように光源の波長による微細化を必要としないため、既存の最先端ロジック向けリソグラフィ技術における消費電力は、投影リソグラフィ装置と比べ大幅に削減でき、CO2の低減にも貢献するとのことだ。
日本人としては、Canonの躍進は嬉しい事だが、この装置の開発は新たな懸念も呼ぶ。
半導体チップは、現在進行中の米中間の地政学的緊張の焦点となっている。チップ技術の大半は米国企業が開発し特許を取得しているため、米国企業は中国企業への輸出を制限している。この制限はHuaweiのような中国企業にとって大きな障壁となっており、AppleやQualcomm、Samsungのような先進的なチップを作ることができず、スマートフォン事業に悪影響を及ぼしている。しかし、日本企業であるCanonは、Huaweiのチップを作ろうとしている中国の半導体チップ製造会社SMICにこの装置を輸出することができてしまう。
もしCanonがSMIC向けに製造装置を販売し、このCanonの主張通りの性能を発揮する場合、中国企業は、様々な先端チップを製造することができ、チップファウンドリー分野での競争が激化する可能性もある。さらに、Huaweiは、先日発売した様に、同社のスマートフォン向けに更に先進的なKirinチップを開発する可能性もあり、米国の半導体規制が意味をなさなくなってしまうからだ。
ただし、ASMLのように日本企業も米国からの要請で規制される可能性も大いにあるだろう。まずは、Canonの装置が実際にどのような成果を上げるのかが楽しみだ。
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