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中国、米国へ報復関税34%にレアアース7種の輸出規制も発動

Y Kobayashi

2025年4月5日

米中間の貿易摩擦が再び激化している。米国Trump政権による中国製品への追加関税措置に対し、中国政府は米国からの全輸入品に対する34%の報復関税と、ハイテク産業に不可欠なレアアース(希土類)7種の対米輸出規制を発表した。

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中国、米国へ同率34%の報復関税を発表

中国国務院関税税則委員会は2025年4月4日、米国による中国製品への追加関税措置への対抗策として、米国から輸入される全商品に対し、34%の追加関税を課すことを発表した。この措置は、米国が中国製品に課す追加関税と同率であり、2025年4月10日12時01分(中国時間)から発効する。

中国財務省は声明で、米国の措置を「国際貿易ルールに合致せず、中国の正当な権益を著しく損なう典型的な一方的ないじめ行為」と強く非難。「米国に対し、一方的な関税措置を即時撤廃し、平等、尊重、互恵の方式に基づき、協議を通じて貿易摩擦を解決するよう強く求める」としている。

なお、報復関税発効前に輸送が開始され、特定の期間内に輸入される貨物については、今回の追加関税の対象外とする猶予措置も設けられている(2025年4月10日12時01分以前に出港し、同年5月13日24時までに輸入される貨物)。

今回の措置により、中国が米国製品に課す関税率は大幅に引き上げられることになる。Reutersによると、中国はすでに3月に一部の米国産農産物、2月に一部のエネルギー関連製品や農業機械に対し10%から15%の関税を課しており、今回の34%がそれに上乗せされる形となる。特に、米国産大豆や穀物、燃料、電気機械などが大きな影響を受けると見られる。

ハイテク産業の生命線「レアアース」7種の対米輸出規制

関税措置に加え、中国はハイテク技術に不可欠な戦略物資であるレアアースの一部についても、米国への輸出を規制する措置を発表した。中国商務省によると、対象となるのは以下の7種類の中・重希土類である。

  • サマリウム (Samarium): 強力な永久磁石(サマリウムコバルト磁石)、レーザー、原子炉の中性子吸収材などに使用される。
  • ガドリニウム (Gadolinium): MRI(磁気共鳴画像装置)の造影剤、原子炉の制御棒、特殊合金などに利用される。
  • テルビウム (Terbium): 蛍光体(緑色発光)、光磁気ディスク、ソナーシステム、アクチュエーター(力を発生させる装置)などに用いられる。
  • ジスプロシウム (Dysprosium): ネオジム磁石の耐熱性向上、原子炉の制御棒、データストレージ、照明などに不可欠。特にEVモーターや風力発電機の高性能化に重要。
  • ルテチウム (Lutetium): 主に研究開発用途だが、石油化学の触媒、X線検出器などにも使われる。
  • スカンジウム (Scandium): アルミニウム合金の強化材(航空宇宙分野など)、高輝度放電ランプ、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質などに利用される。
  • イットリウム (Yttrium): 赤色蛍光体(LED、ディスプレイ)、レーザー結晶、高温超伝導体、合金の強化材(鉄鋼、アルミニウム)、レーダー技術などに幅広く応用される。

Reutersによれば、このレアアース輸出規制は4月4日に発効したとされる。これらの物質は、電気自動車(EV)、半導体、スマートフォン、精密誘導兵器、医療機器、クリーンエネルギー技術など、現代社会を支える基幹技術に幅広く、かつ不可欠な形で組み込まれている。

特筆すべきは、これらのレアアースの世界供給において、中国が圧倒的な支配力を持っている点である。米国地質調査所(USGS)のデータによれば、中国は世界のレアアース生産量の約95%を占めており、精錬・分離工程においてはさらに高いシェアを持つとされる。米国も例外ではなく、2020年の米国国際貿易委員会の報告では、レアアース需要の約78%を中国からの輸入に依存していた。

今回の輸出規制は、対象品目こそ7種類に限定されているものの、その戦略的重要性から、米国のハイテク産業や防衛産業に深刻な影響を与える可能性がある。代替供給源の確保は容易ではなく、短期的にはサプライチェーンの混乱やコスト増大は避けられないだろう。

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報復措置の背景:エスカレートする米中貿易摩擦

今回の中国による報復措置は、米国Trump政権が発表した対中追加関税への直接的な対抗策である。これまでの報道によれば、Trump政権は中国からの輸入品に対し、今年に入ってからの措置と合わせて最大54%に達する追加関税を課す方針を示した。さらに、従来は免税扱いだった低価格の中国からの小包に対する免税措置(デミニミス)を撤廃するなど、締め付けを強化している。

中国側は、これらの米国の措置をWTO(世界貿易機関)ルール違反であるとして強く反発し、WTOでの協議を要請している。

中国がレアアースを「武器化」するのは今回が初めてではない。2023年には、半導体製造に不可欠なガリウムとゲルマニウムの輸出規制を実施し、世界のサプライチェーンに衝撃を与えた。今回の措置は、中国が持つ戦略資源を外交カードとして利用する姿勢を改めて示した形だ。

今回の発表タイミングは、米国の追加関税発効(4月10日)や、動画共有アプリ「TikTok」の米国事業売却期限(4月5日)を意識したものであり、今後の米中交渉で有利な立場を確保するための布石ではないかとの見方も複数の報道では指摘されている。

さらに、中国は今回の関税・レアアース規制に加え、米国の防衛・航空宇宙関連企業など16団体を輸出管理リストに追加し、軍民両用(デュアルユース)品目の輸出を禁止。また、ドローンメーカーのSkydio社やBRINC Drones社など11団体を「信頼できないエンティティリスト」に追加し、台湾への武器売却などを理由に制裁対象とした。これらに加え、米国およびインドからの特定の医療用CT管に対する反ダンピング調査や、米化学大手デュポン社の中国法人に対する独占禁止法違反の疑いでの調査も開始しており、多方面から米国への圧力を強めている。

産業界・市場への影響と今後の展望

一連の報復措置は、すでに世界の金融市場に動揺を与えている。中国の発表を受け、米国市場では株価が大きく下落。4月4日の取引終了時点で、ダウ平均株価は2,231ポイント安、ハイテク株中心のナスダック総合指数も962ポイント安と大幅に値を下げた。

産業界への影響は甚大だ。特にレアアース輸出規制は、EV、再生可能エネルギー、半導体、防衛など、米国の重要産業のサプライチェーンを直撃する。現時点ではコンピュータチップや銅は(当面)今回の関税対象から外れているものの、半導体製造に必要な装置や材料に関税がかかることで、米国内でのチップ生産コストが上昇する可能性を指摘している。レアアース規制が加わることで、代替供給元の確保や価格上昇は避けられず、最終製品の値上がりに繋がる恐れがある。

農業分野への影響も深刻だ。Reutersによれば、中国税関はすでに米国企業1社からのソルガム輸入、および米国企業3社からの家禽・骨粉の輸入を即時停止しており、追加関税によって米国の農産物が中国市場から締め出される可能性が高い。ブラジルやオーストラリアなどの輸出国にとっては、中国市場でのシェア拡大の好機となり得る。

今後の焦点は、米中両政府が対話を通じて事態の沈静化を図れるか否かにある。トランプ大統領はSNSで「中国は判断を誤り、パニックに陥った」とコメントしており、強硬姿勢を崩していない。一方で、中国側は米国に関税撤廃と協議による解決を呼びかけている。

しかし、対立が長期化・深刻化すれば、世界経済全体に悪影響が及ぶことは避けられない。各国企業は、地政学リスクを織り込んだサプライチェーンの再構築を迫られることになるだろう。レアアースについては、米国や同盟国が代替供給源の開発やリサイクル技術の向上を急いでいるが、中国の供給力を短期間で代替することは困難であり、中長期的にも不安定な状況が続く可能性がある。

我々テクノロジー業界に身を置く者としても、この米中対立の行方を注視していく必要がある。単なる経済摩擦に留まらず、技術覇権や安全保障を巡る複雑な対立が背景にあり、その影響は我々の生活やビジネスに直結するためだ。今後の動向について、引き続き詳細な情報と分析を提供していきたい。


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