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中国、南シナ海に2030年完成目指し深海研究施設建設へ—メタンハイドレート研究と新エネルギー開発の転換点に

2025年3月5日

中国が南シナ海の水深約2,000メートルに大規模な深海研究施設の建設を開始した。2030年の完成を目指すこのプロジェクトは、冷水湧出生態系とメタンハイドレートの研究を主目的とし、一度に6人の科学者が最大30日間滞在可能な「水中の宇宙ステーション」として機能する。エネルギー資源開発と地政学的影響の両面で注目を集めている。

深海研究メガプロジェクトの全容

中国科学院南海海洋研究所(SCSIO)が主導するこのプロジェクトは、広東省広州で正式に発表された。施設は主に三つの要素から構成される。核となるのは600トンの重量を持つ有人深海研究所で、水深2,000メートルで運用可能な設計だ。この研究所は有人・無人技術のハイブリッドとして、高度な水中センサーを活用して冷水湧出サイトの重要な科学現象を「捕捉」し、リアルタイム実験や深海生物のその場培養、高精度サンプル収集を行うことができる。

第二の要素は本格的シミュレーションサブシステムで、観測データを活用して可燃性氷の形成・抽出プロセスや冷水湧出生態系のライフサイクル進化を包括的にシミュレーションする。第三の要素は支援・保証サブシステムで、9,380トンの排水量を持つ表面支援母船と研究・スマート管理センターで構成される。

「単に『深海』ステーションと呼ぶのは不正確です。この施設は相互に接続された3つの部分から成り立っています」と、このプロジェクトに関わる中国科学院海洋研究所のZhang Xin研究員は説明する。ただし、宇宙ステーションと同様に、深海研究所は酸素供給プログラムなどの生命維持システムを含む宇宙ステーション技術からインスピレーションを得たコンセプトを取り入れており、宇宙ステーション技術研究チームもプロジェクトに参加する予定だという。

プロジェクト全体の完成には約5年を要する見込みだ。最初の4年は施設の工学設計と物理的な建設に焦点を当て、最終年はシステムテスト、機器の校正、海洋試験による実際の条件下での機能性確認を行う予定である。

冷水湧出生態系とメタンハイドレートの研究

この施設の主要な研究対象となる「冷水湧出」とは、メタン、硫化水素、二酸化炭素などのガスが、地質学的変動や圧力変化によって海底から海に染み出す水中エリアを指す。「深海のオアシス」とも呼ばれる冷水湧出生態系は、海底から染み出す化学物質(メタンや硫酸塩など)を炭素源とエネルギーとして化学合成に利用する海洋生物が形成する独特の生態系だ。この生態系は、暗闇、高圧、低酸素レベルを特徴とする環境で繁栄している。

中国南海海洋研究所によると、冷水湧出は燃焼性氷(メタンハイドレート)の環境に優しい開発と深海科学研究のための最適な研究起点だという。施設は冷水湧出生態系の発達、化学栄養生物の継承、メタン相の進化とその環境への影響の研究を支援する。

メタンハイドレートは「可燃性氷」とも呼ばれ、水分子の網目に囲まれた天然ガスだ。このガスを放出するために氷を燃焼させると、石炭よりも50%少ない炭素排出量を放出するため、石炭や石油などの従来の化石燃料よりも好ましいエネルギー源となる可能性がある。中国の研究者は2015年に南シナ海で大規模なメタンハイドレート堆積物を特定し、3年後には可燃性氷のサンプル抽出に成功している。

「中国が可燃性氷を抽出してエネルギーとして活用することに成功すれば、世界のエネルギー市場におけるリーダーへと転換する可能性がある」と専門家は指摘する。南シナ海のメタンハイドレート埋蔵量は推定700億トンで、これは中国の現在の石油・ガス埋蔵量の約半分に相当する。

技術的挑戦と科学的価値

水深2,000メートルという極限環境下での施設建設は、多くの技術的挑戦を伴う。この深さでは光は全く届かず、圧力は海面レベルの約200倍に達する。研究者たちはこれをまさに「深海宇宙ステーション」と呼んでおり、この特殊な条件下で機能する長期的な生命維持システムの開発が必要となる。

このプロジェクトを通じて、深海有人長期滞在実験、大型深海耐圧構造の安全性、大規模チタン合金加工技術、深水ドッキングシステムなど一連の重要な中核技術でブレークスルーを達成することが期待されている。中国南海海洋研究所によれば、この施設は中国が独自に開発した海洋と陸地の両方を組み合わせた最初の主要な国家科学技術インフラだという。

科学的価値も非常に高い。冷水湧出生態系には600種以上の生物が発見されており、管状虫、二枚貝、イガイ、甲殻類、多毛類、ヒトデやウニなどの棘皮動物、カニ、冷水サンゴ、魚など多様な生物が繁栄している。これらの生物はバイオ医薬品研究にも重要な化合物を合成する能力を持つ可能性があり、大きな科学的価値を提供する。

また、冷水湧出からのメタンガスは重要な温室効果ガスの発生源であり、これらの地域からのメタン漏れは地球気候と生態環境に大きな影響を与えるため、その保護が重要となっている。

深海資源と地政学的影響

南シナ海の海底には陸上の採掘場所の3倍の貴重な鉱物堆積物があり、希土類鉱物、コバルト、ニッケルなどが含まれている。これらは世界の電子機器、家庭用バッテリー、再生可能エネルギー技術に不可欠な資源だ。

しかし、この研究施設の建設は単なる科学的取り組みにとどまらず、地政学的な意味合いも持つ。南シナ海は中国、ベトナム、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイなど複数の国が領有権を主張する係争地域だ。中国が常設の水中プレゼンスを確立することは、これらの資産を保護するための長期的な軍事作戦を正当化する方法となり、地政学的緊張をさらに高める可能性がある。

研究所は無人潜水艦、水上船、海底観測所を組み合わせた高度な海洋監視システムの一部として機能し、中国に海域における他国の船舶の動きを追跡するより強力な海洋監視能力を与える可能性もある。

国際的文脈と協力の可能性

中国の取り組みは国際的な深海研究の流れの中に位置づけられる。アメリカ主導のミッションも2年前に、カリブ海のキュラソー島沖に「海の水中宇宙ステーション」を建設する計画を発表している。このプロジェクトは現在、米国海洋大気庁(NOAA)とファビアン・クストーが設立した海洋探査組織プロテウス・オーシャン・グループによって開発されており、海洋環境研究のために科学者、イノベーター、民間市民、公共部門、グローバルな顧客が「長期間」水中に住むことができる「水中生息地」として機能することを目指している。

このようなプロジェクトが増える中、国際協力の可能性も開かれている。「科学に国境はありません」と、冷水湧出生態系研究施設の首席技術者である広東工業大学のFeng Jingchun教授は強調する。この施設は完成後、公開共有と協力のために開放される予定だ。他の国や地域の科学者もプロジェクトでの協力を歓迎するという。


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中国が南シナ海の水深2000m地点に「深海宇宙ステーション」建設へ。メタンハイドレート研究と新エネルギー開発が主目的の大型プロジェクトは2030年完成予定。地政学的影響も。

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