中国商務省は12月3日、ガリウムやゲルマニウム、アンチモンなど、ハイテク製品製造に不可欠なレアメタルの対米輸出を即時禁止する措置を発表した。この動きは、Biden政権による中国半導体産業への新たな輸出規制強化に対する報復措置として実施された。
規制強化の詳細と影響
中国商務省の発表によると、今回の規制は「軍民両用」品目として、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、および超硬材料の米国向け輸出を原則として全面的に禁止するものである。また、グラファイト関連製品についても、より厳格な最終用途審査を実施するとしている。
これらの材料は現代のハイテク産業において極めて重要な位置を占めている。具体的には:
- ガリウム・ゲルマニウム:半導体製造、光ファイバーケーブル、太陽電池に使用
- アンチモン:弾薬や兵器、赤外線ミサイル、核兵器、暗視ゴーグルなどの軍事用途
- グラファイト:電気自動車のバッテリーや原子炉の主要材料
といった用途に用いられているからだ。
特に深刻なのは、これらの重要鉱物における中国の圧倒的な市場支配力である。コンサルティング会社Project Blueによると、中国は現在、世界の精製ガリウム生産の98.8%、精製ゲルマニウム生産の59.2%を占めている。このような状況下で、米国企業が短期間のうちに代替供給源を確保することは極めて困難と予想される。実際、中国の税関データによれば、今年10月までに米国向けのゲルマニウムとガリウムの輸出は事実上停止状態となっており、アンチモン製品の輸出も9月から10月にかけて97%という劇的な減少を記録している。
貿易戦争の激化と市場への影響
今回の中国によるレアメタル輸出規制は、Biden政権が発表した中国半導体企業140社への新たな輸出規制に対する即時的な対抗措置として実施された。特に注目すべきは、この規制が中国の華羅技術集団(Naura Technology Group)を含む主要な半導体製造装置メーカーを標的としており、単一の米国製チップを含む外国製品であっても、中国企業への輸出を制限するという包括的な内容となっている点だ。
この状況を受けて、中国国内の4つの主要産業団体が異例の共同声明を発表し、加盟企業に対して国産半導体への移行を強く促している。特に、これらの団体が「米国製チップはもはや安全で信頼できない」という強い警告を発していることは注目すべきポイントだ。この動きは通信、自動車、半導体、デジタル経済という中国の基幹産業を代表する団体による「稀に見る協調行動」として、業界専門家から注目を集めている。
市場への影響は既に顕在化しており、特にアンチモン関連製品の価格高騰が顕著だ。欧州の貴金属トレーダーによると、この事態を受けて世界各国がアンチモンの新規鉱脈探査を加速させる可能性が高いという。実際、米国のPerpetua Resourcesはアイダホ州でのアンチモン採掘プロジェクトを政府支援のもとで進めており、United States Antimonyもモンタナ州での精錬事業拡大を検討している。しかし、これらの新規供給源の開発には相当な時間を要することが予想される。
さらに懸念されるのは、中国が他の重要鉱物、特にニッケルやコバルトなどへも輸出規制を拡大する可能性である。Talon MetalsのTodd Malan氏は「中国は長期にわたってこうした措置を取る意思があることを示唆してきた。米国はいつになったらこの教訓を学ぶのか」と指摘している。実際、ミネソタ州で唯一稼働しているニッケル鉱山は2028年には枯渇する見通しであり、供給源の確保は急務となっている。
このような状況下で、次期大統領となるDonald Trump氏は、就任後にすべての中国製品に対して35%の関税を課す方針を示している。Global Mining Association of ChinaのPeter Arkell会長は「勝者のない貿易戦争だ」と警鐘を鳴らしており、この対立の激化は両国の産業界に深刻な打撃を与えるだけでなく、最終的にはラップトップやスマートフォン、ゲーム機などの消費者製品価格の大幅な上昇につながる可能性が高いと指摘している。
Project Blue社の共同創設者であるJack Bedder氏は、「この動きは、西側諸国にとってすでに逼迫している原材料供給チェーンにおける緊張を著しく高めるものである」と分析している。このような専門家の懸念に対し、ホワイトハウスの報道官は、これらの新しい規制を評価しつつ、「必要な措置」を講じる方針を示しているが、具体的な対抗措置については言及を避けている。代わりに、「これらの新たな規制は、中国から重要なサプライチェーンを多様化し、リスクを軽減する取り組みを他国と共に強化することの重要性を浮き彫りにしている」と述べ、同盟国との連携強化を示唆している。
Xenospectrum’s Take
今回の貿易戦争の新展開は、テクノロジー覇権を巡る米中対立が「相互確証破壊」の段階に突入したことを示唆している。中国による即時の報復措置は、Perpetua ResourcesのJon Cherry CEOが指摘するように「中国が鉱物資源へのアクセスを武器化している」証左だ。
しかし皮肉なことに、この措置は両国にとって諸刃の剣となる可能性が高い。中国企業4団体による「米国製チップはもはや安全で信頼できない」という異例の共同声明は、グローバルサプライチェーンの分断が加速する中で、結果として両国の産業に深刻な打撃を与えかねない。
特に注目すべきは、次期大統領となるTrump氏が公約として掲げる対中関税の大幅引き上げだ。これが実現すれば、半導体や電子機器の価格高騰を通じて、最終的には一般消費者にも大きな影響が及ぶことは避けられないだろう。
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