台湾の半導体製造技術が中国を大きくリードしている状況が、台湾政府高官の発言により改めて浮き彫りになった。台湾の国家科学委員会(国科会)の呉誠文主任委員は、中国の半導体技術が台湾に比べて10年以上遅れているとの見解を示した。この発言は、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCの最先端技術を背景に、両国の技術格差が依然として大きいことを示唆している。
台湾と中国の半導体技術格差
呉誠文主任委員は台湾立法院(議会)の教育文化委員会で行われた報告会で、中国の半導体技術が台湾に3年遅れているとの報道に対し、「私はその説に疑問を感じる」と述べた。さらに、「(台湾と中国の)技術格差は10年以上あるはずだ」と強調し、特にTSMCが2025年に量産を予定している2ナノメートル(nm)プロセス技術を挙げて、台湾の優位性を説明した。
この発言は、Huaweiの最新スマートフォン「Pura 70」の分解調査により、中国の半導体製造技術が急速に進歩しているとの観測が広がっていたことを受けてのものだ。一部の報道では、中国の半導体メーカー、中芯国際集成電路製造(SMIC)が7nmプロセス技術を用いたチップの製造に成功したとされていた。
しかし、TSMCの技術ロードマップを見ると、台湾と中国の技術格差はさらに広がる可能性が高い。TSMCは2023年7月の法人向け説明会で、2nmプロセス技術の開発が順調に進んでおり、装置の性能と歩留まりが計画通りまたはそれ以上であることを明らかにした。この最先端技術は2025年に量産が開始される予定で、これにより台湾の半導体製造技術はさらに一歩前進することになる。
技術格差の背景と今後の展望
台湾と中国の半導体製造技術における大きな格差の背景には、先端製造装置の有無が重要な要因として挙げられる。特に、オランダのASML社が製造する極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置は、7nm以下の先端プロセス技術に不可欠とされている。TSMCは7nmプロセスからEUVリソグラフィ装置の使用を開始し、その後さらに高度な技術であるHigh-NA EUV装置の導入も進めている。
一方、中国は米国の制裁により、7nm以下の先端プロセス技術に必要な装置の入手が困難な状況にある。この結果、中国の半導体メーカーは相対的に古い技術での生産能力拡大に注力せざるを得ない状況にある。市場調査会社のTrendForceによると、中国は28nmおよびそれ以上の成熟したプロセス技術での生産拡大に最も積極的であり、2027年までに中国の成熟プロセス技術による生産能力は世界全体の39%を占めると予測されている。
しかし、中国も半導体技術の向上に向けた取り組みを続けている。中国工業情報化部が最近公表した重要技術設備普及応用指導目録には、8nm以下のチップ製造が可能とされる2台のリソグラフィ装置が含まれており、中国が重要な技術的突破を達成した可能性が指摘されている。また、上海微電子が中国国家知的財産権局にEUV技術関連の特許を一連出願したとの報道もあり、7nm以下のチップ製造に必要な重要な能力を獲得した可能性も示唆されている。
とはいえ、半導体製造技術の進歩は単純な線形ではなく、同じ製造装置へのアクセスがない場合、技術の進化速度に大きな差が生じることは避けられない。また、自動車や産業用半導体の多くは、性能要求が低く製造が容易なことから、比較的古い技術で製造されている点も注目に値する。こうした状況を踏まえると、中国が国内の半導体需要のほとんどを満たすサプライチェーンの構築を目指して、成熟した技術に多額の投資を行っていることがわかる。
Xenospectrum’s Take
台湾と中国の半導体製造技術の格差は、グローバルな半導体サプライチェーンの構造や地政学的な力学にも大きな影響を与えている。
その上で、TSMCの2nmプロセス技術の量産開始は、台湾の技術的優位性をさらに強化することになるだろう。しかし、中国も独自の戦略で半導体産業の発展を目指しており、特に成熟プロセス技術での生産能力拡大に注力している点は注目に値する。
今後、台湾は最先端技術でのリードを維持しつつ、中国は多様な半導体需要に対応できる生産能力を構築していくと予想される。この状況は、グローバルな半導体産業の二極化をさらに進める可能性がある。
最終的に、半導体技術の進歩は国際協力と競争のバランスの上に成り立っている。技術移転の制限や貿易摩擦といった要因が、この産業の発展にどのような影響を与えるかを注視する必要がある。半導体技術の進歩が、単なる経済的な競争を超えて、国際関係や技術覇権にも大きな影響を与える時代に我々は生きているのだ。
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