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中国大手テック企業、NVIDIA GPUに160億ドル発注 2025年第1四半期だけ4倍増の背景

Y Kobayashi

2025年4月3日

中国のテクノロジー大手企業が、2025年第1四半期に米NVIDIA製のAI向け半導体「H20」に少なくとも160億ドル(約2.4兆円)規模の発注を行ったことが報じられた。これは前年同期比で最大6倍超に達する驚異的な伸びであり、米国の輸出規制強化や激化するAI開発競争を背景とした動きと見られる。

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中国テック大手3社、NVIDIA H20に160億ドル規模の発注

米メディアThe Informationが報じ、Reutersなどが追った情報によると、中国の主要テクノロジー企業であるByteDance(TikTok運営)、Alibaba Group、Tencent Holdingsが、2025年の最初の3ヶ月間で、NVIDIAのサーバー向けGPU「H20」に合計で少なくとも160億ドル相当の発注を行ったという。この情報は、取引に直接関与したとされる2人の関係者からのものだ。

H20は、NVIDIAが中国市場向けに提供しているAIプロセッサ(人工知能の開発や実行に特化した半導体)だ。米国政府は2022年以降、先端技術が中国の軍事力強化に利用される懸念から、NVIDIA製の最先端AI半導体の対中輸出を段階的に規制してきた。2023年10月に施行された最新の輸出規制を受けて、NVIDIAが中国市場で合法的に販売できる最も高性能なチップとして投入されたのが、このH20である。

Reutersは2月にも、中国のスタートアップDeepSeekが開発した低コストAIモデルへの需要急増を背景に、H20の注文が急増していると報じていた。今回の160億ドルという発注額は、中国企業がいかにH20の確保を急いでいるかを如実に示している。

NVIDIA自身はこの件に関するコメントを控えている。Alibaba、ByteDance、TencentもReutersのコメント要請にすぐには応じていない。

前年比4倍、6倍超? 驚異的な購入ペースとその背景

今回の160億ドルという発注額は、過去のNVIDIAの中国向け売上と比較すると、その急増ぶりが際立つ。NVIDIAの決算報告を見てみれば、この規模感が分かりやすいだろう。

NVIDIAが2025年1月28日に終了した2025会計年度において、中国および香港地域から得た年間収益は171億1000万ドルであった。単純計算すると、四半期ごとの平均売上は約42億7000万ドルとなる。これと比較すると、2025年第1四半期の160億ドルという発注額は、直近の四半期平均の約4倍に達する計算だ。

さらに、前年の同四半期(2024年第1四半期)と比較すると、その伸びはさらに著しい。NVIDIAの決算資料からが推計すると、2024年第1四半期の中国向け売上は約24億ドルから25億ドル程度であった可能性がある。この推計に基づけば、2025年第1四半期の160億ドルという発注額は、前年同期比で6倍以上という驚異的な増加率となる。

この急激な購入ペースの背景には、複数の要因が考えられる。

  • 激化するAI開発競争: 中国国内でもAI開発競争は激しさを増しており、特にDeepSeekのような高性能かつ低コストなAIモデルの登場が、学習や推論に必要な高性能GPUへの需要を一層高めている可能性がある。
  • 米国の規制強化への懸念: 米政府が検討しているとされる「AI拡散ルール」(中国企業による米国製AI GPUの購入を5月から禁止する可能性)への先手を打つ動きも指摘されている。将来的な供給途絶リスクに備え、今のうちに可能な限りH20を確保しようという動機が働いている可能性がある。
  • H20チップの重要性: 米国の規制下で入手可能な選択肢が限られる中、H20は中国企業にとって最も高性能なAI開発基盤となる。代替となる高性能チップが中国国内メーカーから十分供給されていない現状も、NVIDIA製チップへの依存を高める要因となっている。
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供給不足の懸念も H3Cが警鐘、中国AI戦略への影響は

需要が急増する一方で、H20チップの供給に対する懸念も浮上している。中国の大手サーバーメーカーであり、NVIDIAのAIチップにおける主要なOEM(相手先ブランド製造)パートナーであるH3C(新華三集団)は、3月にReutersに対し、H20チップが不足する可能性を指摘している。H3Cが要求通りの数量を確保できていない状況を伝えている。

もしH20の供給不足が現実となれば、大規模なAIモデルの開発やサービス展開を目指す中国企業の計画に遅れが生じる可能性がある。Alibaba、ByteDance、Tencentといった巨大企業は、AI分野への投資を積極的に拡大しており、高性能GPUの安定供給はそれらの戦略の根幹をなす。

中国市場はNVIDIAにとっても依然として極めて重要である。前述の通り、2025会計年度には中国・香港地域で171億1000万ドルの売上を記録しており、同社全体の収益における大きな柱の一つだ。NVIDIAのJensen Huang CEOは、米国の規制による短期的な影響は限定的との見方を示しつつも、長期的には生産拠点を米国に移す方針にも言及している。

シンガポール経由? 迂回輸出の影と実態把握の難しさ

中国企業によるNVIDIA製GPUの実際の入手量を正確に把握することは、さらに複雑な側面も持つ。以前報じられたように、シンガポールを経由した迂回輸出もあるからだ。

NVIDIAの決算報告によると、同社のシンガポール法人への売上は、2023会計年度の22億8800万ドルから、2025会計年度には236億8400万ドルへと、わずか2年間で10倍以上に急増している。多くの市場観測筋は、この急増したGPUの一部が、輸出規制が課されている中国などの国々に密輸、あるいは迂回して輸出されているのではないかと見られている。

この指摘が事実であれば、今回報じられた160億ドルという直接的な発注額に加えて、さらに多くのNVIDIA製GPUが非公式なルートを通じて中国市場に流入している可能性も否定できない。ただし、これはあくまで観測筋の見方であり、確たる証拠があるわけではない。中国企業が実際にどれだけの量の高性能GPUを確保できているのか、その全容を正確に掴むことは困難な状況だ。

米中対立の狭間で:半導体規制とNVIDIAの戦略

今回の中国企業によるNVIDIA製GPUへの巨額投資は、米中間の技術覇権争いと、それに伴う半導体規制という大きな文脈の中に位置づけられる。

米国政府は、先端半導体が中国の軍事技術開発に転用されることを警戒し、2022年以降、高性能なAIチップや関連製造装置の対中輸出規制を段階的に強化してきた。2023年10月の規制強化は、NVIDIAの主力AIチップであったA100やH100などの輸出を事実上禁止し、性能を調整したH20などのダウングレード版チップのみを許可する内容となった。

こうした規制環境下で、NVIDIAは中国市場でのビジネスを継続するためにH20チップを開発・投入した。一方で、米国内での生産強化も進めるなど、地政学リスクに対応する動きも見せている。

さらに、Trump大統領は、半導体および関連製品の輸入品に対して約25%の関税を課す意向を示しており、米国の保護主義的な動きが再燃する可能性もくすぶっている。

中国企業は、米国の規制強化や供給リスクに直面しながらも、AI開発の手を緩めるわけにはいかない。今回のH20への大規模発注は、そうした厳しい状況下で、可能な限りの計算資源を確保しようとする必死の動きと捉えることができるだろう。今後、米国の規制動向やNVIDIAの供給能力、そして中国国内での代替チップ開発の進展などが、中国のAI戦略と世界の半導体市場に大きな影響を与え続けることは間違いない。


Sources

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