Corningは、スマートフォンなどのモバイルデバイス向けに設計された新しい保護素材「Corning® Gorilla® Glass Ceramic」を発表した。この革新的なガラスセラミック素材は、特にアスファルトのような粗い表面への落下に対する耐久性を大幅に向上させるとされ、今後数ヶ月以内にMotorola製のデバイスに初めて搭載される予定となっている。
Gorilla Glass Ceramicとは:セラミック技術で耐久性を革新
Gorilla Glass Ceramicは、Corningが長年培ってきたガラス科学とセラミック科学の専門知識を結集して開発された、透明で強化可能な新しいガラスセラミック素材だ。ガラスセラミックは、ガラスの持つ加工性や透明性と、セラミックの持つ強度や硬度といった特性を併せ持つ材料であり、モバイルデバイスのカバーガラスとして要求される厳しい基準を満たすよう設計されている。
Corningの発表によれば、Gorilla Glass Ceramicは従来の競合であるアルミノケイ酸塩ガラス(Aluminosilicate glass、スマートフォンで一般的に用いられる強化ガラスの一種)と比較して、特に凹凸のある粗い表面への落下耐性が著しく改善されているという。これは、日常生活でスマートフォンを落としやすいコンクリートやアスファルトといった環境での画面割れリスクを低減させることを目指したものだ。
驚異の落下耐性:アスファルト想定面で10回落下をクリア
Corningが公開した製品情報およびプレスリリースによると、同社の研究所で行われた落下試験において、Gorilla Glass Ceramicは以下のような耐久性を示したという:
- 試験条件: 高さ1メートルから、アスファルトを模した粗い表面(180グリットのサンドペーパーを使用)へ、Corning® pucks(0.6mm厚のガラスサンプル)を繰り返し落下させる。
- 試験結果: Gorilla Glass Ceramicは、この条件下で10回の繰り返し落下に耐えた。一方で、比較対象とされた「競合のアルミノケイ酸塩ガラス」は、通常、最初の1回の落下で破損したとされる。
この結果は、Gorilla Glass Ceramicが、特にアスファルトのような現実世界の脅威に対して、従来技術よりも格段に優れた保護性能を提供することを示唆している。ただし、試験は特定の条件下で行われたものであり、実際の使用状況における耐久性を完全に保証するものではない点には留意が必要だ。
詳細スペック:物性・光学・化学・電気特性
Corningが公開したデータシート(PDF)には、Gorilla Glass Ceramicの技術的な詳細が記載されている。
特性項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
密度 | 2.47 g/cm³ | |
ヤング率 | 102 GPa | 材料の剛性を示す指標 |
ポアソン比 | 0.19 | 材料が引張られた際の横方向の収縮率を示す |
せん断弾性係数 | 42.8 GPa | ねじりに対する抵抗を示す |
ヌープ硬度 (200g荷重) | 未強化: 630 kgf/mm² 強化後: 650 kgf/mm² | 表面の引っかき傷への耐性を示す指標 |
破壊靭性 | 1.12 MPa√m | 亀裂の進展に対する抵抗を示す |
熱膨張係数 (0-300°C) | 71.5 x 10⁻⁷ /°C | 温度変化による寸法の変化率 |
標準厚さ | 0.80 mm – 0.90 mm | 要求に応じて他の厚さも提供可能 |
屈折率 (590 nm) | 1.54 | コアガラス、圧縮層ともに同じ値 |
透過率 (500-2000 nm) | ≥ 90% | 高い透明性を示す |
ヘイズ (0.6 mm厚) | ≤ 0.20% | 曇りの度合いが低いことを示す |
化学耐久性 (重量減少) | HCl (5%, 95°C, 24h): 0.02 mg/cm² NaOH (5%, 95°C, 6h): 0.4 mg/cm² | 酸やアルカリに対する耐性 |
誘電率 (1 GHz近傍) | 約 5.55 | 高周波特性に関わる |
損失正接 (1 GHz近傍) | 約 0.003 | 高周波でのエネルギー損失が小さいことを示す |
これらの数値は、Gorilla Glass Ceramicが高い機械的強度、優れた光学的透明性、そして実用的な化学的・電気的特性を持つことを裏付けている。特に、破壊靭性の値は、材料が亀裂に対してどれだけ抵抗力があるかを示す重要な指標となっている。
ガラスセラミック素材の登場による影響
Gorilla Glassファミリー内での位置づけ:Victus 2やArmorとの違いは?
Corningはこれまでにも「Gorilla Glass Victus」シリーズや、Samsung Galaxy SシリーズのUltraモデルに採用されている「Gorilla Glass Armor」など、高性能な保護ガラスを提供してきた。今回のGorilla Glass Ceramicが、これらの既存製品と比べてどのような位置づけになるのかは、現時点で明確な比較データが公開されていないため、断定は難しい。
- vs Gorilla Glass Victus 2: Victus 2も高い耐久性を謳っており、Corningは「1mの高さからコンクリートのような粗い表面への落下に耐えうる」としているが、具体的な繰り返し落下回数は公表されていない。また、Victus 2の落下試験で想定された表面は「80グリットのサンドペーパー」であり、Ceramicの試験条件(180グリット)とは異なる。複数の技術系メディアは、Ceramicの発表内容(10回という具体的な数字)から、Victus 2よりも落下耐性が優れている可能性を示唆しているが、Corningからの直接的な比較コメントはない。
- vs Gorilla Glass Armor: Armorは、Galaxy S24 Ultraなどに採用され、高い耐久性に加えて、優れた反射防止特性を持つことが特徴だ。このArmorの落下試験では「2.2mの高さからコンクリートを模した表面」に対する耐久性が示されているが、単純比較はできないものの、試験条件(Ceramicは1メートル)からArmorの方がより高い落下に対する耐久性を持つ可能性もありそうだ。また、Gorilla Glass Ceramicの製品情報には、Armorのような反射防止特性に関する記述は見当たらない。
- vs Ceramic Shield (Apple): Corningは、AppleのiPhone向けに「Ceramic Shield」と呼ばれるセラミック強化ガラスを供給している。これは、Gorilla Glass Ceramicの登場は、Corningのセラミック技術がAndroidデバイスにも展開されることを意味する。Ceramic ShieldはiPhoneユーザーから高い評価を得ており、Gorilla Glass Ceramicも同様の信頼性をAndroid市場にもたらすことが期待される。
これらの情報から、Gorilla Glass Ceramicは、既存のアルミノシリケートガラスよりは明らかに頑丈であり、Victus 2と比較しても落下耐性で優位に立つ可能性がある。一方で、反射防止機能などを備えるArmorは、よりプレミアムな位置づけにあると考えられる。Ceramicは、高い落下耐性を求めるユーザーに向けた、Victus 2とArmorの中間、あるいは Victusシリーズの上位に位置する選択肢となるのかもしれない。
Motorolaが初採用、今後の展開は?
Corningは、Gorilla Glass Ceramicが「今後数ヶ月以内にMotorolaのデバイスで市場に登場する」と発表した。Motorolaは昨年、すべてのスマートフォンにGorilla Glassを採用すると発表しており 、今回の新素材採用はその流れを汲むものと言える。Motorolaと言えば、折りたたみ式スマートフォン「Razr」があるが、次世代モデルにこのにGorilla Glass Ceramicが採用されるかもしれない。
また、Gorilla Glass ArmorがSamsungのフラッグシップモデルに限定されていたことを踏まえると、Gorilla Glass Ceramicはより多くのAndroidブランドに採用され、業界全体のスマートフォンの耐久性向上に貢献することになるかもしれない。今後の採用動向が注目される。
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