米国防高等研究計画局(DARPA)が、宇宙で生物学的に「育てる」500メートル以上の巨大構造物のアイデアを2025年3月27日までに募集している。この革新的アプローチは、宇宙エレベーターや宇宙ゴミ捕集ネットなど、従来技術では実現困難な巨大宇宙インフラを低コストで実現することを目指したものだ。
生物と機械の融合:バイオメカニカル宇宙構造物とは
DARPAが発表した情報提供要請(RFI)「DARPA-SN-25-51」で注目を集めているのは、「バイオメカニカル宇宙構造物」という斬新なコンセプトだ。これは生物学的要素(バイオ)と機械的要素(メカニカル)を組み合わせた複合構造物を指す。
従来の宇宙構造物は、地球上で製造された部品をロケットで打ち上げる必要があり、質量と容積の制約、それに伴う高コストが課題だった。しかし、微小重力環境を利用し、宇宙空間で構造物を「育てる」ことができれば、打ち上げ質量を大幅に削減できる可能性がある。DARPAは、生物学的な自己組織化と急速な成長の特性に着目し、この分野の研究開発に乗り出した。
DARPAの構想では、生物の成長プロセスを利用して宇宙で構造物を「育てる」一方で、機械的な骨組みや電子部品と組み合わせることで、実用的な機能を持たせることを目指している。具体的には「テント」に例えられる仕組みだ。
「テントポールの構造材料があれば、生物学的成長メカニズムはテントの『カバー』になると想定される。テントは基礎となるポールによって特定の形に成形され、適切な電子機器を組み込むことで特定の機能を実行できる」とDARPAは説明している。
この構想の背景には、地球上でも急速に発展している合成生物学や代謝工学の進歩がある。例えば、特定の条件下で急速に成長する微生物の設計や、極限環境(高温、高圧、高放射線など)でも生存できる極限環境生物の研究、生物が自然に形成する複雑な構造(例:サンゴ礁やシロアリの巣)の原理解明などが挙げられる。DARPAはこれらの技術を宇宙環境で応用することを視野に入れている。
SFから現実へ:宇宙エレベーターと巨大捕集ネット
この構想は、映画『インターステラー』に登場する宇宙ステーション「クーパー・ステーション」や、アーサー・C・クラークの小説『宇宙のランデヴー』で描かれた宇宙エレベーターを思い起こさせる。しかし、DARPAが目指すのは純粋なSFではなく、実現可能な科学技術に基づいた革新的アプローチだ。
DARPAが想定する応用例は多岐にわたる:
- 地球静止軌道から低軌道への宇宙エレベーターのテザー(つなぎ綱)
- 宇宙ゴミ軽減のためのグリッドネット
- 電波科学用のキロメートルスケールの干渉計
- 追加ペイロードを搭載するための商業宇宙ステーションの新しい自己組立型の翼
- 微小隕石によるダメージを修復するためのパッチ材料のオンデマンド生産
これらの構造物は、従来の工法では製造が困難、あるいは不可能とされていたものばかりだ。DARPAは、生物の自己組織化能力と急速な成長特性に着目し、この課題を克服しようとしている。
微小重力という利点:成長力学と打ち上げコスト削減
DARPAによれば、微小重力環境における巨大生物学的構造物の特定の利点は、それらが宇宙で成長できることにある。「価値提案は地球から打ち上げる質量または体積を大幅に削減できる可能性にある」と説明されている。
つまり、小さな種子や胞子、あるいは微生物の培養液のようなものを地球から打ち上げ、宇宙で成長させることで、巨大な構造物を低コストで構築できる可能性があるのだ。これは特に、大型の構造部材を地球から打ち上げるのに必要なロケット燃料や技術的制約を考えると、革命的なアプローチとなり得る。
しかし、純粋に生物学的な成長メカニズムだけでは成功する可能性は低いとDARPAは指摘している。「微小重力条件下で成長しながら、構造的剛性(剛さ/強度/荷重支持)を備えた有用な構造物を作るには、機械工学、構造工学、生物工学の緊密な連携が必要」だという。
特に重要な課題としては、以下のような点が挙げられる:
- 構造物の組み立て方:成長するエッジや生物学的材料が押し出される領域に原料をどう供給するか
- 環境制御:好気性生物の場合、大気、圧力、温度などをどう維持するか
- 成長の方向性:500メートル以上の構造物が想定通りの方向に成長するようにどう制御するか
- 機能性:電子機器や構造材料を生物学的「フィラー」とどう統合するか
DARPAは特に「地球から打ち上げられる」生物学的成長材料と、完成した構造物の生物学的質量の比率、および「地球から打ち上げられる」システム体積と完成した構造物の体積の比率に関する情報を求めている。これらの比率が高いほど、地球からの打ち上げコスト削減効果が大きいことを意味する。
アイデア募集と今後の展開:サンフランシスコでワークショップ開催へ
DARPAのRFIは、非常に大きな(主要寸法が500メートル以上の)バイオメカニカル宇宙構造物の開発経路に対応する回答を求めている。具体的には以下の5項目に直接対応することが要求されている:
- 使用例:想定される大型バイオメカニカル宇宙構造物の「使用例」を解明すること
- 共同エンジニアリング:構造/機械的観点と生物工学的観点の両方からの洞察
- 原料:成長し続けるエッジに原料がどのように供給されるか
- 価値提案:従来(非生物学的)材料と生物学的材料の間の質量比の大まかな推定
- 概念実証実験の範囲:宇宙環境に特有の要因に対応する地上ベースの概念実証
DARPAは特に、「寸法の関数としての成長の時間スケール」「モデリング、シミュレーション、または経験データなどの実現可能性の証明」「大規模な生物学的構造物の発生力学に関する新しい洞察」「放射線耐性または耐久性などの宇宙固有の問題」「価値提案の計算に使用される質量と体積の推定値の設計詳細」などの情報が含まれる回答が役立つとしている。
DARPAは2025年4月にサンフランシスコ・ベイエリアでワークショップを開催する予定で、このRFIに関連する現在および将来の研究をレビューし議論することを目的としている。ワークショップは2日間にわたり開催され、1日目はグループでの対話、2日目はDARPAとの個別対話が行われる予定だ。
RFIへの回答期限は2025年3月27日午後4時(ET)となっている。DARPAは「できるだけ多くの革新的なソリューションの提示」を奨励しており、大学、大学関連研究センター、連邦政府資金による研究開発センター、民間または公共企業、政府研究所など、関連する研究活動に従事するすべての人々の参加を歓迎している。
なお、DARPAはAIツールによって生成された材料に依存する回答はレビューされないと明記している。
Sources
- SAM.GOV: Large Bio-Mechanical Space Structures
- via Gizmodo: DARPA Wants Your Ideas for ‘Large Bio-Mechanical Space Structures’
Meta Description
DARPAが宇宙で「育てる」500メートル超の巨大バイオ構造物のアイデアを募集。宇宙エレベーターや宇宙ゴミ捕集ネットなど、従来技術では実現困難な宇宙インフラを低コストで実現する革新的アプローチを解説。
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