世界最大の半導体製造企業TSMCが、米国での雇用差別を理由に集団訴訟を受けている。同社の人材採用ディレクターを含む13名の現旧従業員が、台湾人従業員を優遇し、アメリカ人従業員を差別的に扱っているとして訴えを起こした。米国から66億ドルの助成金を受けて建設中のアリゾナ工場で、深刻な職場環境の問題が表面化した形だ。
差別的雇用慣行の実態
TSMCの人材採用ディレクターであるDeborah Howington氏が8月に提起した訴訟は、同社の組織的な差別の実態を詳細に描き出している。Howington氏によれば、人事部門は非アジア系従業員や非台湾市民を、同様の立場にあるアジア系従業員、特に台湾市民と比較してより厳しい監視下に置くという二重基準を確立していたという。
特に注目すべきは、同社の採用プロセスにおける不透明な慣行だ。訴状によると、TSMCは台湾の人事チームから「アジア系人材専門のヘッドハンター」を通じて、すでに米国での就労許可を得ている台湾人候補者の履歴書を米国チームに送付していた。米国の人事チームは、正式な求人募集すら行わないまま、これらの候補者を採用するよう指示されていたとされる。この結果、アリゾナ工場の約2,200人の従業員のうち、実に半数が台湾からのビザ保持者で占められる事態となっている。
さらに問題視されているのが、言語要件の恣意的な運用だ。同社は公式には英語を業務言語としているにもかかわらず、実際の業務に中国語能力が不要なポジションであっても、求人票に中国語(標準中国語)の能力を必須または優遇条件として記載することで、事実上の参入障壁を設けていた。ある訴訟参加者の証言によれば、米国人従業員が台湾での研修に参加した際、上司からDuolingoアプリで中国語を学ぶよう促されるなど、言語面での圧力も存在していたという。
また、Banner Healthとの提携によって台湾人従業員に特別な福利厚生を提供する一方で、それらのサービスを米国市民には利用できないようにするなど、待遇面での差別も指摘されている。さらに衝撃的なのは、米国での医療免許を持たない台湾人医師を雇用し、台湾人従業員の診療に当たらせていた事実だ。このような差別的な雇用・処遇体制は、米国の連邦差別禁止法に明確に違反する可能性が高いとされている。
職場環境と昇進機会の格差
訴訟では、以下の3つの主要な差別形態が指摘されている:
- 採用における東アジア系、特に台湾・中国国籍者への優遇
- 非アジア系従業員の昇進機会の制限
- 非台湾系従業員の高い離職率と台湾人従業員による代替
特に深刻な問題として、重要な会議や文書が中国語で行われ、英語しか話せない従業員が効果的に業務に参加できない状況が報告されている。また、「Chenglish(中国語なまりの英語)」を意図的に使用して、非アジア系従業員を会話から排除するような行為も指摘されている。
Xenospectrum’s Take
この問題は、グローバル企業の文化的統合の難しさを浮き彫りにしている。TSMCは確かに世界最高水準の半導体製造技術を持つが、その卓越した技術力と比較して、異文化マネジメントには致命的な弱点を抱えているようだ。
特に注目すべきは、この問題がCHIPS法による巨額の助成金を受けた直後に表面化した点だ。アメリカの納税者の金で建設された工場で、アメリカ人従業員が差別を受けているという構図は、今後の米台ハイテク協力にも影を落とす可能性がある。皮肉なことに、中国依存からの脱却を目指したCHIPS法が、新たな形の依存と差別を生み出してしまった格好だ。
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