オランダ政府が半導体製造装置大手ASMLの輸出規制を強化し、一部の最新機器の輸出ライセンス管理を米国から引き継ぐことを発表した。この動きは、先端技術の安全保障上の重要性が高まる中、オランダが自国の半導体産業の管理を強化する姿勢を示したものと言えるが、実質的なターゲットとなる中国は間違いなく強い反発を示すに違いない。
オランダ政府による輸出規制強化の概要
オランダ政府は2024年9月7日、ASMLの先端半導体製造装置に対する輸出規制を拡大すると発表した。この決定により、ASMLのTWINSCAN NXT:1970iおよび1980iといった最新のDUV(深紫外線)リソグラフィ装置の輸出には、オランダ政府のライセンスが必要となる。
規制強化の背景には、先端技術の進歩に伴う安全保障上のリスク増大がある。オランダの外国貿易・開発協力大臣であるReinette Klever氏は、「技術の進歩により、特に現在の地政学的状況において、この特定の製造装置の輸出に関連するセキュリティリスクが高まっていることを認識している」と述べ、安全保障上の理由から今回の決定を下したことを強調した。
ASMLの製造装置は、世界最先端の半導体チップの生産に不可欠なものであり、特にEUV(極端紫外線)リソグラフィー装置とDUVリソグラフィー装置が規制の対象となっている。これらの装置は、スマートフォンやコンピューター、人工知能(AI)システムなど、現代のデジタル社会を支える様々な製品に使用される最先端チップの製造に必要不可欠な技術である。
今回の規制強化は、特定の国を対象としたものではなく、EU域外へのASML製造装置の輸出全般に適用される。Klever氏は、「オランダはこの分野で独自の先導的立場にあり、それに伴う責任を真剩に受け止めている。オランダの半導体産業が何を期待できるかを知る必要がある」と述べ、グローバルな貿易フローとバリューチェーンへの影響を最小限に抑えるよう慎重かつ的確に対応する姿勢を示した。
輸出管理権限の移行と影響
今回の規制変更により、ASMLのTWINSCAN NXT:1970iおよび1980i DUVイマージョンリソグラフィーシステムの輸出ライセンス管理が、米国政府からオランダ政府へと移行する。これは、米国輸出管理規則734.4.(a).(3)に基づいた変更であり、オランダ政府がASMLの輸出管理をより直接的に行うことを意味する。
ASMLは、この変更を「技術的な変更」と位置付けており、2024年の財務見通しや長期的なシナリオに影響を与えることはないと述べている。しかし、この動きは半導体産業における地政学的な緊張の高まりを反映しており、特に中国などの特定国への先端技術の輸出に関する国際的な管理体制の強化を示唆している。
実際、ASMLのCEOであるChristophe Fouquet氏は、同社の先進的なDUV装置が中国の半導体製造企業であるSemiconductor Manufacturing International Corp. (SMIC)に7nm、5nm、さらには3nmクラスのチップ生産を可能にする可能性があることを認めている。ただし、Fouquet氏は、マルチパターニング技術を使用したこれらのプロセスは非効率的であり、生産歩留まりが低くなるため、経済的に持続可能ではないと警告している。
オランダ政府による輸出管理の強化は、単に米国の規制を踏襲するだけでなく、オランダ独自の立場を反映したものとなる可能性がある。これにより、ASMLと中国を含む顧客との関係に微妙な変化が生じる可能性があるが、現時点でASMLはこの変更が事業に大きな影響を与えるとは考えていない。
この規制強化は、半導体産業における国際的な競争と協力のバランスを模索する動きの一環と見ることができる。オランダ政府は、自国の先端技術を保護しつつ、グローバルなサプライチェーンの維持にも配慮する難しい舵取りを迫られている。今後、この規制がASMLの事業展開や世界の半導体産業にどのような影響を与えるか、注目が集まるところである。
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