AMDのZen 5「Ryzen 9000」シリーズプロセッサの登場は、トラブルに見舞われたIntelの現況と相まって、大きな期待を持ってその発売が迎えられたが、早速行われた多くのテック系メディアによるレビューの結果は意外な物だった。各メディアのレビューを総合すると、Ryzen 9000シリーズは高いマルチスレッド性能を誇る一方で、ゲーミング性能や前世代からの性能向上幅、さらには価格対性能比において課題が残るという評価が大勢を占めているようだ。
ゲーマーにとって既に関心はArrow LakeやRyzen 9000X3Dに
TechSpotのレビューによると、Ryzen 9 9950XはCinebench 2024のマルチコアスコアで228,600ポイントを記録し、前世代のRyzen 9 7950Xと比較して4%の性能向上を達成した。この結果は、マルチスレッド性能における9950Xの強さを示している。しかし、TechSpotは同時に、ゲーミング性能については期待を下回る結果となったと指摘している。彼らは「ゲーマーにとって、2年経っても本質的に同じ体験しか得られない」と述べ、前世代からの進化が限定的であることを批判的に評価している。
AnandTechの評価も、Ryzen 9 9950Xのマルチスレッド性能を高く評価する一方で、ゲーミング性能に関しては課題が残ると指摘している。多くのベンチマークでトップの性能を示したものの、マルチコアワークロードにおける前世代からの性能向上は10%未満にとどまった。AnandTechはこれを、主要なノード移行(TSMC 5nmから4nm)を伴わない「平均的な」世代間進歩と評している。特に注目すべきは、AMDが導入したコアパーキング機能に関する問題だ。この機能は、ゲーミング時に1つのCCD(Compute Chiplet Die)をシャットダウンしてキャッシュヒット率を向上させ、クロスCCDトラフィックを減少させることを目的としている。しかし、AnandTechの検証では、ゲーム中にランダムにコアが起動する問題が発生したという。この予期せぬ動作が、ゲーミング性能に悪影響を及ぼしている可能性があると彼らは指摘している。
Tom’s Hardwareのレビューは、Ryzen 9 9950Xがマルチスレッドアプリケーションベンチマークで首位を獲得したことを評価している。しかし、ゲーミング性能については、競合するIntel Core i9-14900Kに及ばないと指摘している。Tom’s Hardwareの計測によると、1080pゲーミングにおいて、Core i9-14900Kが10%、さらに価格の安いCore i7-14700Kでさえ5%ほどRyzen 9 9950Xを上回る結果となった。これは、AMDの最新フラッグシップモデルが、ゲーミング性能においてIntelの競合製品に追いついていないことを示している。
Hardware Unboxedの詳細なレビューによると、Ryzen 9 9950XのゲーミングパフォーマンスはRTX 4090を使用した1080pでの13ゲーム平均で、前世代のRyzen 9 7950Xと比較してわずか1%の向上にとどまった。これは事実上、2年前と同じレベルの性能を意味する。さらに、電力効率の面でも目立った改善は見られなかった。Hardware UnboxedのSteve Waltonは、ゲーミングの観点から見て「9950Xは完全な大失敗」と厳しい評価を下している。
生産性ワークロードにおいても、9950Xの性能は物足りない結果となった。圧縮・解凍作業では実際にパフォーマンスの後退が見られ、Cinebench、Blender、Photoshopでの画像編集といったテストでも、7950Xに対してわずかな改善しか見られなかった。Hardware Unboxedの生産性テストでは、9950Xは7950Xと比較して平均でわずか3%速いという結果だった。
価格面での評価も重要だ。Ryzen 9 9950Xの649ドルという価格設定は、前世代のRyzen 9 7950Xの699ドルから50ドル引き下げられている。この価格低下は一見歓迎すべきものに見えるが、Tom’s Hardwareは重要な指摘をしている。現在のRyzen 9 7950Xの市場価格が9950Xよりも125ドル安いことを考慮すると、性能向上幅が限定的な9950Xよりも、7950Xの方が魅力的な選択肢になる可能性があるというのだ。この指摘は、新製品の価値提案が必ずしも明確ではないことを示唆している。
各メディアが共通して指摘しているのが、AMDのコアパーキング機能に関する問題だ。この機能は、ゲーミング性能を向上させることを目的として導入されたが、実装に問題があり、期待された効果を発揮していないようだ。さらに深刻なのは、Tom’s Hardwareが指摘するように、この問題がAMDに16ヶ月も前から指摘されているにもかかわらず、未だに解決されていないという点だ。このソフトウェア面での課題は、ハードウェアの性能を最大限に引き出せていない可能性を示唆しており、製品全体の評価を下げる要因となっている。
さらに、ゲーミング性能を重視するユーザーにとっては、依然としてRyzen 7 7800X3Dがより魅力的な選択肢となっている。多くのレビュアーは、今後登場するZen 5アーキテクチャベースのV-Cacheモデルに期待を寄せている。
総合的に見ると、Ryzen 9 9950Xは高性能なマルチスレッド処理能力を持つCPUとして評価されている。しかし、ゲーミング性能や前世代からの性能向上幅、価格対性能比において課題が残るという評価が多い。特に、AMDのソフトウェア面での課題、具体的にはコアパーキング機能の問題が、製品の潜在能力を十分に引き出せていない可能性がある。
この予想外の結果は、AMDのマーケティング戦略にも疑問を投げかけている。AMDが「誇りに思う大きな飛躍」と謳っていた性能向上が、実際には0〜10%程度にとどまったことで、消費者の期待と現実のギャップが浮き彫りになった。
業界の注目は今後、年内に発売が予定されているIntelのArrow Lake デスクトップCPUに移りつつある。AMDのZen 5プロセッサが期待に応えられなかった中、Intelの新製品がどのような性能を示すか、関心が高まっている。
Sources
- TechSpot: AMD Ryzen 9 9950X Review
- AnandTech: The AMD Ryzen 9 9950X and Ryzen 9 9900X Review: Flagship Zen 5 Soars – and Stalls
- Toms’ Hardware: AMD Ryzen 9 9950X Review: Zen 5 at Full Power
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