世界的な半導体需要の高まりを受け、富士フイルムホールディングスが半導体材料事業で大規模な設備投資を実施する。2027年3月までに約1000億円を投じ、日本、韓国、米国での生産能力を増強。特に最先端のEUV(極端紫外線)用フォトレジストの供給体制強化に注力する。
グローバル展開を加速するEUVフォトレジスト供給体制
半導体製造において最先端の微細化を実現するEUV(極端紫外線)フォトレジスト。この高度な材料を製造できる企業は世界でわずか5社に限られており、富士フイルムはJSR、DuPont、東京応化工業、信越化学とともに、この独占的な市場の一角を占めている。EUVリソグラフィ技術は波長13.5ナノメートルという極めて短い波長で動作するため、使用されるフォトレジストには極めて厳格な要件が課される。感度、解像度、線幅粗さ、そしてEUVフォトマスク材料との適合性など、多岐にわたる技術要件をクリアする必要があり、これが新規参入を著しく困難にしている要因となっている。
この高度な技術基盤を背景に、富士フイルムは主要な半導体製造拠点に近接した戦略的な生産体制の構築を進めている。日本国内では静岡県において約130億円を投じて新工場の建設を推進している。この投資は国内の半導体産業の復活を支える重要な基盤となる。特に、近年日本国内での投資を活発化させているTSMCや、メモリ製造でグローバルな存在感を示すMicronなどの需要に応える体制を整えることで、サプライチェーンの強靭化に貢献する。
韓国市場においては、二つの重要な拠点で生産能力の増強を進めている。平澤工場では今秋までに最新鋭の製造設備を導入し、SamsungやSK hynixなど韓国の主要半導体メーカーへの供給体制を強化する。さらに天安工場では、2027年春の量産開始を目指してCMP(化学機械研磨)材料の生産能力を30%増強する計画を進めている。これは韓国の半導体産業が推進する次世代メモリ開発への対応を見据えた戦略的な投資といえる。
さらに将来を見据え、新興市場であるインドへの進出も検討している。2027年度以降、現地企業との提携や合弁事業による生産拠点設立を視野に入れており、インドの半導体産業発展に合わせて柔軟な展開を図る構えだ。インド政府は半導体産業の育成に積極的な姿勢を示しており、富士フイルムはこの成長市場での早期のプレゼンス確立を目指している。
この地域別の投資戦略の背景には、半導体製造における材料供給の重要性の高まりがある。最先端プロセスでは材料の純度や品質が製品の歩留まりに直結するため、製造拠点の近隣に材料メーカーの生産施設を置くことが望ましいとされる。
富士フイルムは半導体材料事業を重要な成長分野と位置付け、2030年度までに同事業の売上高を5000億円に倍増させる目標を掲げている。この投資計画は、過去3年間の投資額を大幅に上回る規模となる。
背景には、Intel、TSMC、Samsung、SK hynixなど主要半導体メーカーによる新工場建設ラッシュがある。特にAIやHPC(高性能コンピューティング)向けの高性能プロセッサ需要の急増が、材料供給の拡大を後押ししている。
市場調査会社の富士経済によると、半導体材料の世界市場は2023年から2029年にかけて35%成長し、583億ドルに達する見通しだ。
Sources
- 日本経済新聞:富士フイルム、半導体材料の投資倍増 日米韓で増産
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