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Google、AIエージェント連携プロトコル「Agent2Agent AI」を発表

Y Kobayashi

2025年4月10日

Googleは、異なるベンダーやフレームワークで構築されたAIエージェント同士が安全かつ効果的に連携するための新しいオープンプロトコル「Agent2Agent(A2A)」を発表した。この取り組みは、企業内に点在するAIエージェントのサイロ化を防ぎ、組織全体の生産性向上と複雑なワークフローの自動化を加速させることを目指している。Atlassian、Salesforce、SAP、ServiceNowなど50社以上のパートナーと共に推進されるこの規格は、AIエージェントによる連携の未来を形作る上で重要な一歩となる。

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AIエージェントの急増と「連携」という新たな課題

近年、AI技術の進化に伴い、「Agentic AI(エージェント型AI)」と呼ばれる自律的にタスクを処理するシステムが注目を集めている。これらは単なる質問応答やコンテンツ生成を超え、特定の目標に基づき、ユーザーの介入を最小限に抑えながら複数ステップの問題を解決できる能力を持つ。

企業は、ノートパソコンの発注からカスタマーサポート、サプライチェーン計画に至るまで、様々な業務プロセスを拡張・自動化するために、特化した機能を持つAIエージェントを次々と開発・導入している。しかし、その結果として、異なるベンダー、異なる基盤技術、異なるデータソースに紐づいたエージェントが乱立し、互いに連携できない「サイロ化」という問題が深刻化しつつある。

Google Cloudのビジネスアプリケーションプラットフォーム担当VP兼GMであるRao Surapaneni氏は、VentureBeatのインタビューに対し、「誰もが特定のデータノードやロジックノードを所有しているため、あるいは特定のタスクに焦点を当てた現在のユーザーベースを持っているため、ある種の専門性を持っている。これらのフレームワークは非常に専門的な焦点を持って進化することが期待されます。もし私が顧客で、これらの複数のプラットフォームと複数のフレームワークを導入している場合、それらの間で『回転椅子』(=システム間の手作業による情報連携)はしたくない」と述べ、連携の必要性を強調した。

この課題を解決し、AIエージェントの真の潜在能力を引き出す鍵となるのが「相互運用性」である。異なるエージェントがシームレスに情報を交換し、協力してタスクを実行できれば、単一のエージェントでは成し得なかった高度な自動化と効率化が実現する。

Agent2Agent (A2A) プロトコルとは何か?

Googleが提唱するAgent2Agent (A2A)は、まさにこの相互運用性を実現するために設計されたオープンプロトコルである。その核心は、異なるAIエージェント(「クライアントエージェント」と「リモートエージェント」と呼ばれる)間のコミュニケーションを標準化することにある。

A2Aの主な機能:

  1. 機能のディスカバリ (Capability Discovery): エージェントは自身の能力をJSON形式の「Agent Card」で公開する。これにより、タスク実行を依頼したいクライアントエージェントは、どのリモートエージェントがそのタスクに最適かを判断し、接続することができる。
  2. タスク管理 (Task Management): エージェント間の通信は、エンドユーザーの要求を満たしタスクを完了することに焦点を当てる。プロトコルはタスクのライフサイクル(開始、進行中、完了など)を定義し、長時間実行されるタスク(人間によるレビューが必要な場合など)にも対応する。タスクの成果物は「アーティファクト」と呼ばれる。
  3. コラボレーション (Collaboration): エージェントはメッセージを交換し、コンテキスト、返信、アーティファクト(ファイル、ドキュメント、生成された画像など)、あるいはユーザーからの指示を伝え合うことができる。
  4. ユーザー体験の調整 (User Experience Negotiation): 各メッセージには「パーツ」と呼ばれる要素が含まれ、それぞれ特定のコンテンツタイプ(テキスト、画像、動画、iframe、Webフォームなど)が指定される。これにより、エージェント間で適切な表示形式やUI機能について調整・交渉することが可能になる。

A2Aの設計原則:

Googleはパートナーと共に、以下の5つの主要原則に基づいてA2Aを設計した。

  1. エージェントの能力を活用: 記憶、ツール、コンテキストを共有していなくても、エージェントが自然な(構造化されていない)モダリティで協力できるようにする。単なる「ツール呼び出し」を超えた連携を目指す。
  2. 既存標準を基盤に構築: HTTP、SSE (Server-Sent Events)、JSON-RPCといった広く普及している技術標準を基盤とし、既存のITスタックへの統合を容易にする。
  3. デフォルトでセキュリティを確保: エンタープライズグレードの認証・認可をサポートし、OpenAPIの認証スキームと同等のセキュリティを提供する。
  4. 長時間タスクへの対応: 短時間で完了するタスクから、人間の介入を伴う数日かかるようなタスクまで、柔軟に対応。プロセス全体を通じてリアルタイムのフィードバックやステータス更新を提供する。
  5. モダリティに依存しない設計: テキストだけでなく、音声や動画ストリーミングなど、多様なデータ形式をサポートする。

このA2Aプロトコルは、オープンソースとして開発が進められ、GitHub上で仕様案やコードサンプルが公開されている。Googleはコミュニティからの貢献を歓迎しており、ガバナンスボードを設置しつつも、真にオープンでコミュニティ主導の取り組みを目指すとしている。

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A2Aと既存プロトコル(MCPなど)との関係

AIエージェントの連携プロトコルはA2Aが初めてではない。Anthropicが開発したModel Context Protocol (MCP) や、Ciscoなどが主導するAGNTCY、LangChainのAgent Protocol、MicrosoftのAutoGenフレームワークなど、類似の目的を持つ取り組みが既に存在する。

特にMCPは、LLMが外部のツールやAPI、データソースと連携するためのプロトコルとして注目されており、Microsoftを含む多くの企業が支持を表明している。Google自身も、自社のAgent Development Kit (ADK) でMCPのサポートを追加している。

では、A2AとMCPはどう違うのか? Surapaneni氏は「MCPとA2Aは補完的な機能だと考えている」と明確に述べている。

  • MCP (Model Context Protocol): 主に、AIモデル(LLM)が外部のツール、API、データリソースに構造化された入出力でアクセスするための手段を提供する。エージェントが「道具」を使うための規格と言える。
  • A2A (Agent2Agent Protocol): より高レベルな抽象化レイヤーに位置し、エージェント同士が動的かつマルチモーダルに対話し、協力するための規格。記憶やリソースを共有しないエージェント間の連携に焦点を当てる。

つまり、MCPがエージェントの「能力(ツール利用)」を拡張するのに対し、A2Aはエージェント間の「協調作業」を可能にするイメージだ。Googleは、これらが階層的なスタックとして機能すると説明している。

Googleは他のプロトコルとの連携にも前向きな姿勢を示しており、「良いアイデアを持つプロトコルは常に出てくるだろう。我々はそれら全ての良いアイデアを取り込む方法を模索したい」とSurapaneni氏は語っている。LangChainがA2AとAGNTCYの両方にパートナーとして参加している点は、将来的な標準統合の可能性を示唆しているかもしれない。

具体的な活用事例:人材採用プロセスの効率化

A2Aが実現する連携によって、具体的にどのようなメリットが生まれるのだろうか。Googleが例として挙げるのが、ソフトウェアエンジニアの採用プロセスである。

  1. 候補者検索: 採用マネージャーが統合インターフェース(例: Agentspace)内のエージェントに、「勤務地X、スキルYを持つ候補者を探して」と指示する。
  2. エージェント間連携: 指示を受けたエージェントは、A2Aプロトコルを介して、外部の人材紹介会社の持つ候補者データベースにアクセスできる別の専門エージェントに問い合わせ、条件に合う候補者リストを入手する。
  3. 候補者提案と絞り込み: マネージャーは集約された候補者リストを確認し、気になる候補者について面接設定をエージェントに指示する。
  4. 面接調整: エージェントは候補者や面接官のカレンダーと連携できる別のエージェントと協力し、面接日程を自動で調整する。
  5. バックグラウンドチェック: 面接完了後、マネージャーは別のエージェントにバックグラウンドチェックを指示。このエージェントは、専門の調査機関のエージェントシステムとA2Aで連携し、チェックを実行・報告する。

このように、従来であればマネージャーが複数のシステム(求人サイト、ATS、カレンダー、調査会社システムなど)を個別に操作し、情報を手作業で連携させる必要があったプロセスが、A2Aによって連携されたエージェント群によって大幅に自動化・効率化される。ユーザーは単一のインターフェースから指示を出すだけで、裏側では複数のエージェントが協調してタスクを遂行してくれるのである。

Agent2Agent AIの未来:普及への課題と期待

A2Aは、Googleという巨大テック企業が主導し、既に50社以上の多様なパートナー(Atlassian, Box, Cohere, Intuit, LangChain, MongoDB, Salesforce, SAP, ServiceNow, UKG, Workdayといったテクノロジー企業から、Accenture, Deloitte, KPMG, PwCなどの大手サービスプロバイダーまで)が名を連ねている点で、大きな推進力を持つ。

仕様案やコードサンプルがGitHubで公開され、オープンソースとしてコミュニティと共に開発を進めるという方針も、幅広い支持を集める上で有利に働くだろう。Googleは今年後半に、パートナーと共に本番環境に対応したバージョンのプロトコルをリリースする予定だとしている。

しかし、Surapaneni氏も認めるように、現時点ではまだ「転換点(tipping point)」には達していない。業界標準として定着するには、さらに多くの企業による採用と実装、そして実際にA2Aを用いた連携ソリューションが市場に出てくる必要がある。AI技術の変化の速さを考えると、プロトコル自体も継続的に進化し、新たなユースケースに対応していく必要があるだろう。

それでも、A2Aが提示する「AIエージェントがベンダーや基盤技術の壁を越えて協調する未来」は、非常に魅力的である。これが実現すれば、企業はAIの導入効果を飛躍的に高め、これまで不可能だったレベルの自動化とイノベーションを実現できる可能性がある。「Agent2Agent AI」は、単なる技術的挑戦ではなく、次世代のエンタープライズITアーキテクチャを形作る重要なパラダイムシフトと言えるだろう。今後のコミュニティの発展と、プロトコルの普及に大きな期待が寄せられる。


Sources

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