IBMとGlobalFoundriesは2025年1月2日、半導体製造技術に関する複数の訴訟について包括的な和解に達したことを発表した。この和解により、契約不履行、営業秘密、知的財産権に関する全ての係争が終結することとなった。
複雑に絡み合う訴訟の経緯
この物語は2014年末に遡る。当時、IBMは半導体製造事業の収益性に課題を抱えており、GlobalFoundriesへの事業譲渡を決断した。両社は15億ドル規模の契約を締結し、IBMは半導体製造部門をGlobalFoundriesに移管。その見返りとして、GlobalFoundriesはIBMのPowerプロセッサーやメインフレーム向けzプロセッサー用の14nmテクノロジーの提供と、さらに微細な10nm以下の製造技術の開発を10年間にわたって約束した。
しかし、この協力関係は円滑には行かなかった。14nmチップの製造には遅延が発生し始め、さらに決定的な転機が2018年8月に訪れた。GlobalFoundriesは10nmプロセス、そして後の7nmプロセスの開発中止を決定したのである。IBMの見方では、この決定により同社は「実質的にサーバー向けロードマップを失った」状態に追い込まれた。この事態を受け、2021年にIBMはニューヨーク州裁判所で25億ドルの損害賠償を求める訴訟を提起した。
これに対しGlobalFoundriesは、自社は契約上の義務を完全に履行していたと強く反論。さらに興味深いことに、IBMがSamsungを7nmプロセッサーチップの供給元として選択したことで、むしろコスト削減と納期短縮という恩恵を得ていたと主張した。ただし、裁判所はこの論理には説得力を見出せなかったとされている。
機密情報漏洩を巡る新たな訴訟
2023年になると、今度はGlobalFoundriesが反撃に出た。同社はニューヨーク連邦裁判所に、より深刻な告発を含む訴訟を提起した。訴訟の核心は、IBMが2021年と2022年に発表したIntelおよび日本のRapidusとのパートナーシップに関するものだった。
GlobalFoundriesの主張によれば、IBMは両社とのパートナーシップにおいて、GlobalFoundriesとの共同開発で得られた機密情報や知的財産を不正に開示したとされる。特に重大なのは、IBMがRapidusと共同開発を進める2nmノード技術に、GlobalFoundriesが管理する営業秘密が含まれているという指摘だった。
さらにGlobalFoundriesは、IBMによる「組織的な引き抜き」も告発した。具体的には、IBMが半導体製造分野における最も優秀なエンジニアたちを標的にして、GlobalFoundriesの知的財産を活用したライセンス収入を増やす目的で引き抜きを行っていたと主張した。これは単なる人材の移動ではなく、知的財産の実質的な流出につながる行為だとGlobalFoundriesは訴えた。
この状況は、2023年12月にIBMとRapidusが2nmチップ生産の実用化に向けた重要な進展として、サンフランシスコで開催されたIEEE国際電子デバイス会議で選択的ナノシート層削減に関する研究成果を発表したことで、さらに複雑化していた。この技術発表自体が、GlobalFoundriesの主張する営業秘密の不正使用を裏付ける可能性があったためである。
包括的な和解合意の成立
2025年1月2日、両社は共同声明を通じて和解の成立を発表した。和解条件の詳細は機密とされているものの、この合意により契約不履行、営業秘密、知的財産権に関する全ての訴訟が終結することが明らかにされた。
GlobalFoundriesのThomas Caulfield社長兼CEOは「IBMとの間で前向きな解決に至ることができたことを喜ばしく思うと共に、長年のパートナーシップを基盤に、半導体産業のさらなる強化に向けた新たな機会を探っていきたい」とコメント。IBMのArvind Krishna会長兼CEOも「この紛争の解決は両社にとって重要な一歩となり、今後は両社の組織と顧客に恩恵をもたらすイノベーションに注力できます」と述べ、将来的な協力関係の可能性を示唆した。
この和解は、特にIBMにとって戦略的に重要な意味を持つ。GlobalFoundriesが求めていた差し止め請求が認められた場合、IntelやRapidusとのパートナーシップに基づく技術開発計画に重大な支障が生じる可能性があったためだ。実際、IBMは先月、Rapidusとの提携において「2nmチップ生産の実用化に向けて前進している」と発表したばかりであった。
さらに注目すべきは、両社が「相互の関心がある分野での新たな協力の機会を探る」ことで合意した点である。これは単なる紛争解決を超えて、両社の関係を建設的な方向へと転換させる可能性を示している。米国の半導体産業が中国との技術覇権競争に直面する中、この和解は国内企業間の協力体制を強化する契機となる可能性も秘めている。
ただし、この協力関係の具体的な形については慎重な見方も必要だ。GlobalFoundriesは昨年、中国関連の制裁違反により50万ドルの罰金を科されており、特に機密性の高い先端技術分野での協力については、米国政府当局による厳格な審査が予想される。
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