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Canonのナノインプリント半導体製造装置、米国研究機関へ初出荷

Y Kobayashi

2024年9月28日

Canonが開発した革新的なナノインプリントリソグラフィ(NIL)技術を用いた半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」が、2024年9月26日、米国テキサス州の半導体コンソーシアム「Texas Institute for Electronics」(TIE)へ初めて出荷された。従来の半導体製造装置とは異なるアプローチに基づくこの装置の導入は、半導体製造技術を語る上で重要な一歩となりそうだ。

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Canonのナノインプリント技術

Canonの「FPA-1200NZ2C」は、従来の投影露光技術とは全く異なるアプローチで半導体チップを製造する。ナノインプリントリソグラフィ(NIL)技術は、ウェハー上のレジストに回路パターンを刻み込んだマスク(型)を直接押し付けて回路を形成する。この方法には以下のような利点がある:

  • 高精度:光学系を介さないため、マスク上の微細な回路パターンを忠実に再現できる。
  • コスト効率:既存の最先端ロジック半導体製造レベルの5nmノードに相当する最小線幅14nmのパターン形成が、低コストで可能。
  • 省エネルギー:従来の方式と比較して、消費電力を抑えられる。

Canonは2023年10月に「FPA-1200NZ2C」を発売し、世界で初めてNIL技術を用いた半導体製造装置の実用化に成功した。この技術は、現在5nmノードの製造が可能で、将来的には2nmノードまで到達する可能性があるとCanonは述べている。

NIL技術は、従来のDUVやEUVリソグラフィとは異なり、光を使用せずにパターンを形成する。これにより、より正確な回路パターンの再現が可能となり、製造コストの削減にもつながる可能性がある。しかし、NIL技術には課題もある。従来の製造フローとの互換性がないため、チップメーカーはNIL技術を中心に製造プロセスを再設計する必要がある。

TIEへの出荷:業界の注目を集める新技術

今回CanonがFPA-1200NZ2Cを導入した「Texas Institute for Electronics(TIE)」は、2021年に設立された米国テキサス大学オースティン校が支援するコンソーシアムである。TIEは、州政府・自治体、半導体企業、国立研究所等で構成されており、オープンアクセス化された半導体の研究開発・試作施設を提供している。

今回のCanonのNIL装置の導入は、半導体業界に大きな影響を与える可能性がある。TIEは、Intel、NXP、Samsungなどの主要半導体企業が支援するコンソーシアムであり、さらにDARPAからも支援を受けている。最近では、DARPAから14億ドルの助成金を受け、軍事および民生用途のマルチチップレット3Dプロセッサの開発プロジェクトを進めている。

TIEでは、Canonの「FPA-1200NZ2C」を先端半導体の研究開発や試作品の製造に活用する予定である。これにより、コンソーシアムに参加する企業がNIL技術の可能性を直接評価することができる。現在、Intel、NXP、Samsung(NXPを除く)はDUVやEUVリソグラフィを使用してチップを製造しているが、NIL技術の研究を通じて、将来的にこの技術を採用する可能性もある。

Canonは、今後3〜5年の間に年間10〜20台の販売を目指しているという。しかし、NIL技術の広範な採用には課題も残されている。製造中のダスト粒子による欠陥を最小限に抑える必要があり、また、この新しいリソグラフィ方式に適合する材料の開発も必要となる。

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Xenospectrum’s Take

Canonのナノインプリントリソグラフィ技術は、半導体製造の新たな地平を切り開く可能性を秘めている。従来のDUVやEUVリソグラフィとは全く異なるアプローチを取ることで、より精密な回路パターンの形成とコスト削減を同時に実現できる可能性がある。

しかし、新技術の導入には常に課題がつきものだ。NIL技術が既存の製造フローと互換性がないことは、大きな障壁となる可能性がある。チップメーカーは、新技術を採用するためには製造プロセス全体を再設計する必要があり、これには多大な投資とリスクが伴う。

それでも、Intel、Samsung、DARPAなどが支援するTIEがこの技術の評価に乗り出したことは、業界全体がNIL技術の可能性に注目していることを示している。今後、TIEでの研究開発の結果次第では、半導体製造の景色が大きく変わる可能性もある。

Canonの「FPA-1200NZ2C」の初出荷は、半導体製造技術の歴史に新たな1ページを刻む出来事となるかもしれない。今後の展開に注目が集まる。


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