SC24カンファレンスにおいて、Intelが次世代AI推論処理向けチップ「Jaguar Shores」の開発を明らかにした。2025年発売予定のFalcon Shoresの後継として位置づけられる本製品は、同社の最新18Aプロセスノードを採用し、AI推論市場でのNVIDIAとAMDへの対抗を目指す。
Intel Jaguar Shoresの製品概要と技術的特徴
Jaguar Shoresは、SC24カンファレンスのHabana Labs部門による技術ワークショップで初めて公開された次世代AIチップだ。当初は非公式な形での言及であったとされているが、この発表により同社の半導体ロードマップが徐々に明確になってきている。
技術面での最大の特徴は、同社の最新製造プロセス「Intel 18A」の採用にある。この製造プロセスは、RibbonFET(リボンFET)とバックサイドパワーデリバリーという二つの革新的な技術を実装している。RibbonFETはトランジスタの設計を根本的に見直したもので、従来のFin構造から進化したゲート全周型(GAA)アーキテクチャを採用することで、より優れた電流制御と低リーク電流を実現する。これにバックサイドパワーデリバリーを組み合わせることで、電力効率の大幅な向上が期待できる。
設計思想においても興味深い進化が見られる。前身のFalcon Shoresが開発過程でCPU+GPUの統合設計から専用GPU設計へと方向転換したのに対し、Jaguar ShoresではGPUとASICを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用する可能性が指摘されている。これは、汎用的な処理能力と特定用途向けの最適化を両立させる試みとして注目される。特にAI推論処理において、この設計思想が効果を発揮すると期待されている。
メモリアーキテクチャについての詳細は明らかにされていないものの、Intelの近年の開発傾向から、チップレットベースの設計が採用される可能性が高い。これにより、用途や価格帯に応じて柔軟な製品展開が可能になるとともに、製造歩留まりの向上も期待できる。なお、量産時期については明確な言及がないが、前身のFalcon Shoresが2025年の出荷を予定していることから、Jaguar Shoresは早くても2026年以降の登場になると見られる。
このような技術的特徴を持つJaguar Shoresだが、開発の成否を左右する重要な要素として、GPU開発部門の組織体制の問題がある。現在、同社のGPU開発はHabana Labs部門が主導しているものの、過去には頻繁な組織改編や人事異動があり、開発の一貫性への懸念が指摘されている。Deepak Patil氏が率いる加速コンピューティングシステム・グラフィックスグループの今後の舵取りが、製品の成否を大きく左右する可能性がある。
市場戦略とIntelの現状
IntelのPat Gelsinger CEOは、AI市場において「NVIDIA、AWS(TrainiumとInferentia)、Google Cloud TPU、AMDの4強の中で、Intelは4番手」と現状を認めている。そのため同社は、AI学習市場ではなく、より広い市場が見込めるAI推論処理に注力する戦略を取っている。
「我々のAI投資は、エンタープライズ向けの費用対効果の高い推論処理に焦点を当て、x86フランチャイズを補完し活用していく」とIntelの広報担当者は述べている。
Xenospectrum’s Take
Jaguar Shoresの発表は、苦境に立つIntelの意欲的な巻き返しの試みと見ることができる。しかし、過去のRialto BridgeやPonte Vecchioの開発中止、Falcon Shoresの設計変更など、同社のロードマップには一貫性の欠如が目立つ。18Aプロセスでの製造優位性を確保できれば逆転の可能性はあるが、すでにAI市場で確固たる地位を築いているNVIDIAやAMDに対し、どこまで食い込めるかは不透明だ。
皮肉なことに、かつてCPU市場で圧倒的な優位性を誇ったIntelが、今やAI時代の主役であるGPU市場では後追いを強いられている。15,000人規模の人員削減を進める中での新製品開発は、まさに背水の陣と言えるだろう。
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