IntelはBattlemage世代のGPUと同時に、フレーム生成技術と低遅延モードを統合した次世代アップスケーリング技術「XeSS 2」を発表した。NVIDIAのDLSS 3やAMDのFSR 3に対抗する本技術は、最大で3.9倍のパフォーマンス向上を実現し、Intel GPUの競争力を大きく強化する可能性を秘めている。
革新的な2つの新機能がもたらす性能向上
XeSS 2が実現する画期的な性能向上の中核となるのは、フレーム生成技術「XeSS FG」と「XeLL」と呼ばれる低遅延モードである。特にフレーム生成技術は、光学フロー再投影とモーションベクトル再投影という二つの異なるアプローチを組み合わせることで、より自然で滑らかな映像出力を実現している。
フレーム生成の過程では、まず2つの実際にレンダリングされたフレーム間の動きを分析する。この分析には光学フローAIモデルが使用され、画面上の各ピクセルがどのように移動するかを精密に追跡する。同時に、ゲームエンジンから直接提供されるモーションベクトルデータも活用され、より正確な動きの予測が可能となる。これら二つのデータソースは、専用のブレンドAIモデルによって最適な比率で組み合わされ、新しい中間フレームが生成される。最後に、UIエレメントが合成され、完全な出力フレームが完成する。
このプロセスの効果は具体的な数値でも確認できる。例えば『F1 24』では、XeSS Qualityモードでのアップスケーリングを有効にした場合、元の82FPSから136FPSへと大幅な向上を示している。これは実質的に、68FPSでレンダリングされた映像から136FPSの滑らかな出力を生成していることを意味する。さらに印象的なのは1440p Ultra設定での性能で、Ultra Performanceモードでは最大3.9倍、より高画質なQualityプリセットでも2.8倍のフレームレート向上を達成している。
一方、XeLLの低遅延モードは、フレーム生成による遅延増加を最小限に抑えるために重要な役割を果たす。フレーム生成の処理には必然的に若干の時間が必要となるため、システム全体の応答性が低下する可能性がある。
XeLLはこの課題に対して、システムのレンダリングパイプラインを最適化し、入力からフレーム出力までの時間を最大45%削減することで対応する。これにより、高フレームレートと低遅延の両立が可能となっている。
これらの技術革新は、ゲームプレイ体験を大きく向上させる可能性を秘めている。特に高解像度・高品質設定での実行が困難だったタイトルでも、より滑らかで応答性の高いプレイが可能となる。ただし、これらの恩恵を最大限に受けるためには、ゲーム側での対応実装が必要となることにも注意が必要である。
ハードウェア要件と対応タイトル:XeSS 2の展開戦略
XeSS 2の実装において、Intelは明確なハードウェア戦略を打ち出している。この新技術の中核となるのは、Intel独自のXMX(Xe Matrix Extensions)AIエンジンの存在だ。XMX AIエンジンは、画像処理に特化した行列演算を高速に実行する専用ハードウェアで、フレーム生成における複雑な補間処理を効率的に処理する。
対応ハードウェアの範囲は、新登場のBattlemage世代GPUである B580とB570から、既存のAlchemistシリーズのArc A770といった製品まで広がっている。さらに注目すべきは、次世代のLunar Lake以降に搭載されるXeベースの統合グラフィックスもサポート対象となっている点だ。これは、ノートPCユーザーにも高品質なゲーミング体験を提供しようというIntelの意欲的な姿勢を示している。
しかし、この技術にはAMDやNVIDIAのGPUでは動作しないという制約がある。Intelは他社GPU向けのXeSS 2フレーム生成機能の開発要請を受けているものの、現時点では独自ハードウェアに限定した展開を選択している。この決定は、自社製品の差別化を図る戦略的な判断と見ることができる。
対応タイトルの面では、Intelは強力なラインナップを用意している。注目のAAAタイトルである「Assassin’s Creed: Shadows」や「Dying Light 2: Stay Human」をはじめ、競争の激しいeスポーツ分野では「Marvel Rivals」、レーシングジャンルでは「F1 24」など、幅広いジャンルをカバーする全10タイトルが発表された。これらのタイトルは、それぞれのジャンルで高い要求を持つゲーマーのニーズに応えることを意図している。
技術面での進化も見逃せない。新しいSDKではDirectX 11とVulkanタイトルへのサポートが追加され、より多くの既存ゲームでXeSS 2の恩恵を受けられるようになった。これは特に、まだDirectX 12への移行を完了していない人気タイトルのユーザーにとって朗報となる。ただし、スーパーレゾリューションモデルの更新は今回含まれていない点には注意が必要だ。
IntelはArc GPUの比較的小さい市場シェアにもかかわらず、XeSSの採用を着実に広げてきた実績がある。この経験を活かし、XeSS 2でもゲームデベロッパーとの緊密な協力関係を通じて、対応タイトルの拡大を図っていくことが予想される。今後は特に、eスポーツタイトルやインディーゲームでの採用拡大が期待される分野となるだろう。
Xenospectrum’s Take
XeSS 2の登場は、Intelのグラフィックス部門が本気で市場に挑戦する姿勢を示している。特筆すべきは、単なるDLSS 3の模倣ではなく、独自の最適化とアプローチを取っている点だ。しかし、Intel独自ハードウェアへの依存は、市場シェア拡大の観点からは諸刃の剣となる可能性がある。
また、ドライバーベースの低遅延モードの実装や、インターフェースの刷新など、ソフトウェアエコシステムの充実にも注力している点は評価に値する。ただし、真の成功を収めるためには、対応タイトルのさらなる拡大と、実環境での安定性の証明が不可欠だろう。
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