Intelは第3四半期決算説明会で、次世代モバイルプロセッサ「Lunar Lake」に導入する統合メモリ設計について、収益性への影響を理由に今後のCPUでは採用しない方針を明らかにした。この決定は、当初ニッチ製品として想定していたLunar Lakeが、AI PCブームにより予想以上の需要を獲得したことが背景にあるという。
AI PCの台頭が戦略転換を迫る
Appleが2020年に導入したM1チップの統合メモリ設計は、コンピューティングアーキテクチャに革新をもたらした。従来のノートPCでは、CPUとメモリが物理的に離れた場所に配置されており、データの転送に時間と電力を必要としていた。一方、Appleの統合メモリアーキテクチャでは、CPUやGPUと同一パッケージ上にメモリを搭載することで、データ転送の遅延を最小限に抑え、同時に消費電力を大幅に削減することに成功している。
同様に、統合メモリを採用したLunar Lakeは、パフォーマンスと省電力性を兼ね備えた優れた製品を実現した。Pat Gelsinger CEOは、Lunar Lakeの開発当初について「最高のパフォーマンスと優れたバッテリー駆動時間を実現する特別な製品として構想していた」と説明する。
しかし、AI PCの急速な普及により、市場の要求は大きく変化した。搭載されるNPU(Neural Processing Unit)の高い処理能力がAIワークロードに適していたことから、Lunar Lakeは一気に主力製品としての位置づけを獲得。当初想定していた小規模な生産規模は、「全体の中で意味のある比率を占める」レベルにまで拡大することとなった。だが、そうした高い需要は本来Intelにとって喜ばしいことだが、ことLunar Lakeに関してはそれが当てはまらなかったようだ。
収益構造の課題が浮き彫りに
統合メモリ設計の採用中止を決定づけた最大の要因は、収益性への深刻な影響だった。Intelの財務責任者は、この影響を「significant(重大)」と表現している。背景には、大手PCメーカーと比較して不利な条件でのメモリ調達を強いられる状況があった。さらに、TSMCへの製造委託やパッケージへのメモリ実装プロセスも、追加的なコスト要因となっていたのだ。IntelのCFOは、Lunar LakeはIntelの運命を好転させるにはコストがかかりすぎたと明らかにしている。
「伝統的な設計」への回帰を宣言
「PCインダストリーにおいて、この方式で大量のメモリを扱うのは適切な事業運営とはいえない」。Gelsinger CEOはこう述べ、次世代以降の製品における方針転換を明確にした。具体的には、後継となるPanther LakeやNova Lakeでは、CPU、GPU、NPU、I/O機能はパッケージ内に統合しつつ、メモリはパッケージ外に配置する伝統的な設計に立ち返る。
同時に、この設計変更は2025年に予定される18Aプロセスノードへの移行と連動している。TSMCへの製造委託も「一時的な措置」と位置付けられ、将来的にはIntel Foundryでの自社製造に移行することで、収益性の改善を図る計画だ。
Sources
コメント