Intelの最新モバイルプロセッサ、Lunar Lakeの初期レビューが公開され、驚異的なパフォーマンスと省電力性能が明らかになった。Armベースのチップに対抗するIntelの新戦略が、ついに実を結んだ形であり、その実力は、Snapdragon Xチップセットの存在を忘れさせるほどだ。
驚異の24時間バッテリー駆動:Lunar Lakeの真価
Intelが長年にわたって開発を進めてきたLunar Lakeアーキテクチャが、ついに実機として登場した。PCMagによるAsus Zenbook S 14のレビューでは、Intel Core Ultra 258Vを搭載したモデルが、驚異の23時間23分のバッテリー駆動時間を記録。これは、現行のAMD Ryzen 7 8845HS搭載モデルよりも約8時間、前世代のIntel Meteor Lake搭載モデルよりも4時間以上長い驚異的な数字だ。
この圧倒的なバッテリー持続時間は、Lunar Lakeが17Wという低消費電力設計を採用していることに起因する。非常に薄型のラップトップ向けに設計されたこのCPUは、効率性を最優先に開発されており、実際、PCWorldのGordonは、この結果について「Intelがx86を救った」と評し、ラップトップセグメントにおける最大級のカムバックだと絶賛だ。
同じAsus Zenbook S 14を使用したPCWorldの720pビデオストリーミングテストでも、なんと23時間もの駆動時間を記録。これにより、IntelはArmベースのチップが作り出した効率性のギャップを埋めることに成功したと言える。ETA Primeによる別のテストでも、50%の輝度設定で1080pビデオストリーミングを行った結果、16時間37分という印象的な駆動時間を達成している。
しかし、この驚異的なバッテリー持続時間は、性能面でのトレードオフを伴っている。標準的なワークロードベンチマークでは、Lunar Lakeは35WCPUと比較すると見劣りする結果となった。つまり、Lunar Lakeは純粋な処理性能よりも、効率性を重視して設計されているのだ。
この設計思想は、Intelが長年抱えていた課題に対する明確な回答と言える。モバイルデバイスにおける電力効率の重要性が増す中、Intelは従来のx86アーキテクチャの限界を克服し、Armベースのチップに匹敵する効率性を実現することに成功したのだ。
ベンチマーク結果:Lunar Lakeの実力
Lunar Lakeの性能を詳細に理解するため、様々なベンチマークテストが実施された。ETA Primeが行ったGeekbench、Cinebench R24、3DMarkなどの合成ベンチマークでは、Core Ultra 7 258Vが前世代のIntelチップを上回る結果を示し、Apple M1 MaxなどのArmベースのチップとも互角の戦いを見せた。
しかし、PCMagのテストでは、Cinebench R23のマルチスレッド性能において、Lunar Lake(Ultra 7 258V)が前世代のMeteor Lake(155H)に劣る結果となった。これは、Lunar Lakeが性能よりも効率性を重視して設計されていることを示唆している。
具体的な数値を見てみると、Macworldによれば、Apple M3チップを搭載したMacBook ProとMacBook Air 15のCinebench 2024マルチスレッドスコアがそれぞれ693と658であったのに対し、Lunar Lakeはこれらを上回る性能を示した。ただし、シングルコア性能では両MacBookモデルが141を記録したのに対し、Lunar Lakeはやや劣る結果となっている。
AI性能に関しては、ULのProcyonアプリを使用したテストで、Lunar LakeとQualcomm Snapdragon X Eliteがほぼ互角の結果を示した。特に、コンセント電源接続時のAI性能ではLunar Lakeが優位に立っている。これは、IntelがNPU(Neural Processing Unit)の設計に注力した成果と言える。Lunar Lakeチップは、最大47 TOPSのAI処理能力を持つとされており、これはAMDのRyzen AI 300(最大50 TOPS)やQualcommのSnapdragon X Elite(45 TOPS)と同等のレベルだ。
実用的なテストとしては、Handbrakeを使用したビデオトランスコードテストが行われた。この結果、Lunar Lakeは最新のAMD Ryzenプロセッサに比べて約17分長い処理時間を要した。これは、Lunar Lakeが持続的な高負荷タスクよりも、短時間の処理と長時間のアイドル状態を繰り返すような使用シナリオに最適化されていることを示唆している。
また、Puget Systemsが開発したAdobe Photoshopベンチマークでは、Lunar Lake、Snapdragon X Elite、AMD Ryzen AI 300の3プラットフォームが互角の結果を示した。これは、全ての製品が写真編集のような創造的タスクに十分な性能を持っていることを示している。ただし、バッテリー駆動時の性能は大きく低下することも明らかになった。
総合的に見ると、Lunar Lakeは純粋な処理性能では競合製品に劣る場面もあるものの、効率性と持続性能のバランスが取れたプロセッサであると言える。特に、モバイル環境での長時間使用や、AI処理を含む多様なタスクを行う上では、競争力のある性能を発揮することが期待できそうだ。
Xe2 GPU:次世代の統合グラフィックス
Lunar Lakeの注目点の一つが、新しいXe2アーキテクチャを採用した統合GPUである。ETA Primeによるゲーミング性能テストでは、『Forza Horizon 5』や『Red Dead Redemption 2』などのAAA級タイトルで、低~中設定で60-80 FPSを達成。これは、統合GPUとしては非常に印象的な結果だ。
3DMarkのTime SpyとSteel Nomad Lightベンチマークでも、Lunar LakeのXe2 GPUは前世代のMeteor LakeやAMDのRyzen AI 300 APUを上回る性能を示した。特に、低消費電力時の性能向上が顕著であり、これは将来の携帯ゲーム機にとって朗報となる可能性がある。The Phawxが実施した様々なTDP(熱設計電力)ターゲットでのベンチマークでは、Xe2 GPUが低ワット数でも優れたパフォーマンスを発揮することが明らかになった。
Xe2 GPUの性能向上は、Intelがグラフィックス部門に注力してきた成果と言えるだろう。従来、AMDが統合GPUの性能で優位性を保ってきたが、Intelの復活により、この分野での競争が激化することが予想される。
ただし、The Phawxのレビューでは、一部のゲームタイトルでドライバの問題が指摘されている。これは現時点ではプレビュードライバの問題とされており、正式リリース時には解決されることが期待される。実際に、Intelは既に新しいパッチをリリースしており、これらの問題の大部分に対処しているとのことだ。
Xe2 GPUの性能は、Lunar Lake CPUの全体的な魅力を高める重要な要素となっている。統合GPUの性能向上により、薄型・軽量ノートPCでもある程度のゲーミング体験が可能になるだけでなく、AI処理や創造的作業においても恩恵をもたらすことが期待される。
特筆すべきは、このGPU性能の向上が、前述の驚異的なバッテリー持続時間と両立している点だ。これは、IntelがLunar Lakeアーキテクチャを設計する際に、性能と効率性のバランスを慎重に最適化した結果と言える。従来のx86アーキテクチャの限界を超えて、Armベースのチップに匹敵する効率性を実現しつつ、同時にグラフィックス性能でも競争力を持つことに成功したのである。
このような総合的な性能向上は、ノートPCの使用体験を大きく変える可能性を秘めている。例えば、長時間のバッテリー駆動が必要な出張や旅行中でも、高度な作業やエンターテイメントを楽しむことが可能になる。また、AIアプリケーションの普及に伴い、オンデバイスでのAI処理能力が重要性を増す中、Lunar Lakeはこのトレンドにもしっかりと対応できる性能を備えていると言えるだろう。
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