お掃除ロボット「ルンバ」で知られるiRobotの共同創業者であり30年以上CEOを務めたColin Angle氏が、新たな家庭用ロボット企業「Familiar Machines & Magic」を設立し、3000万ドルの資金調達を目指していることが明らかになった。同社は健康とウェルネスに焦点を当てた新しいタイプの家庭用ロボットの開発を進めており、AIを活用したロボットペットの実現を視野に入れている。
Colin Angle氏による新会社の概要と開発方針
Familiar Machines & Magicは、ボストン近郊のウォーバーンに本社オフィスを構え、ロサンゼルスにも拠点を設ける計画を進めている。経営陣には、30年以上にわたりiRobotを率い、同社をグローバル企業へと成長させたColin Angle氏に加え、同社の元最高技術責任者(CTO)であるChris Jones氏が名を連ねる。さらに、AmazonのScout配送ロボットプロジェクトでの開発経験を持つIra Renfrew氏も参画しており、ロボット工学とAIの専門家による強力な布陣を整えている。
資金調達においても順調な滑り出しを見せており、米証券取引委員会(SEC)への提出書類によると、既にベンチャーキャピタルのData Point Capitalをはじめとする8人の投資家から1500万ドルを確保しているとのことだ。LinkedInに掲載された求人情報によると、Familiar Machines & Magicは「十分な資金を持つ新しい実体化AIとロボット工学のスタートアップ」と自身を表現している。
開発方針については、「健康とウェルネス分野における画期的な新カテゴリーの家庭用ロボット」の創造を掲げており、特に人間とロボットの相互作用に重点を置いている。Angle氏は現在「ステルスモード」で開発を進めていると説明しており、詳細な製品仕様は明らかにしていないものの、複数の投資家の証言によれば、感情的な繋がりを持てるAI搭載のコンパニオンロボットの開発を目指しているという。なお、Angle氏は妻のErika Angle氏が率いる腸内健康分析企業Ixcela Healthの取締役も務めており、健康・ウェルネス分野での知見も深い。
MassRoboticsのエグゼクティブディレクターであるTom Ryden氏は、2024年をロボティクススタートアップへの投資における「リバウンドイヤー」と位置付けており、Familiar Machines & Magicへの投資は、この分野への継続的な関心を示す証左だと評価している。
AIを活用した新しい家庭用ロボットの開発へ
Familiar Machines & Magicが米特許商標庁に提出した商標出願書類には、同社の開発製品について「人間の健康増進のために人間と対話するための動物型ロボット」という明確な定義が示されている。この方向性は、かつてAngle氏がiRobotで約20年前に手がけたプロトタイプ「Grommet」の発想を現代のAI技術で進化させたものと見ることができる。
生成AIの近年の急速な進歩は、ロボットペットの可能性を大きく広げている。例えばSonyの「Aibo」のような既存のロボットペットは、この技術によってより自然な会話能力を獲得し、単なる癒やしの存在を超えた実用的な価値を提供できる可能性を秘めている。実際に、イスラエルのIntuition Roboticsが開発を続けている高齢者向けAIソーシャルロボット「ElliQ」は、第3世代モデルでジェネレーティブAIを採用することで、より自然で生き生きとした対話を実現している。
複数の投資家の証言によれば、同社が目指すのは単なるロボットペットの開発ではない。感情的な繋がりを持てるAI搭載の「ファーリーペット」を通じて、特に孤独感の解消という社会課題への取り組みを視野に入れているという。この方向性は、実用性と感情的な価値の両立を目指した新しいアプローチと言える。
ただし、この分野での成功への道のりは決して平坦ではない。MassVenturesのマネージングディレクターであるVinit Nijhawan氏は、「これはJibo 2.0かもしれないが、今回はタイミングがより良いかもしれない。すべては技術、市場適合性、そしてタイミングの問題だ。もし誰かがそれを理解しているとすれば、それはColinだろう」と評価している。Cybernetix Venturesの創設者Fady Saad氏も、消費者向けロボティクス市場での数々の失敗例を指摘しつつ、iRobotでさえもRoomba以外の消費者向けロボット製品で成功を収めることが難しかったと述べている。
それでも、Amazon、Appleといった技術大手が家庭用ロボット市場に関心を示し続けている事実は、この分野の潜在的な可能性を示唆している。特にAngle氏の新しい試みは、実用性とエモーショナルな価値の融合という、これまでにない独自のアプローチで市場を開拓しようとしている点で注目に値する。
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