ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、2032年に地球に接近する可能性がある小惑星2024 YR4の観測を行う。この観測は、小惑星の大きさを正確に把握し、地球への衝突リスクを評価するために不可欠である。JWSTの赤外線観測能力が、従来の可視光観測では困難だった詳細なデータを提供し、惑星防衛戦略の策定に貢献することが期待される。
緊急性の高い小惑星観測、JWSTがその能力を発揮
2024年12月に発見された小惑星2024 YR4は、2032年12月22日に地球に衝突する可能性が約2.3%と予測されている。この小惑星の大きさは40mから90mと推定されているが、正確なサイズは不明だ。欧州宇宙機関(ESA)は「40mの小惑星と90mの小惑星では、もたらす被害が大きく異なる」と指摘する。
従来、天文学者は可視光の反射を利用して小惑星を観測してきた。しかし、この方法では小惑星の反射率によって大きさが異なって見えるため、正確なサイズを特定することが困難であった。2024 YR4の場合、40mで高反射率の可能性も、90mで低反射率の可能性もある。
この問題を解決するため、JWSTが持つ赤外線観測能力が活用される。JWSTは小惑星が放出する熱(赤外線)を測定することで、より正確なサイズ推定を可能にする。
JWSTの観測計画と期待される成果
JWSTは、2025年3月と5月に2024 YR4の観測を行う予定だ。3月の観測は、小惑星がJWSTから観測可能になり、最も明るくなる時期に行われる。5月の観測では、小惑星が太陽から遠ざかるにつれて温度がどのように変化するかを調べ、2028年に再び観測可能になるまでの最後の軌道測定を行う。
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JWSTに搭載されたMIRI(Mid-Infrared Instrument:中間赤外線装置)は、小惑星2024 YR4が放射する赤外線を精密に測定する。このデータにより、小惑星の熱放射量からサイズをより正確に推定することが可能となる。さらに、NIRCam(Near Infrared Camera:近赤外線カメラ)も用いられ、MIRIによる熱データと合わせて、小惑星の位置情報をより正確に把握する。NIRCamは、地球からの観測が困難になった後の小惑星の位置特定にも貢献する。
この観測は、通常は厳格な審査を経て割り当てられるJWSTの観測時間のうち、「ディレクター裁量時間」と呼ばれる緊急性の高い観測枠を利用して行われる。観測データは、公開される予定だ。
惑星防衛におけるJWSTの役割
今回のJWSTによる観測は、地球近傍小惑星の脅威評価と惑星防衛戦略において重要な役割を果たす。ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のAndrew S. Rivkin博士率いる研究チームは、「2024 YR4のサイズと地球への脅威を特定し、必要に応じて効果的な緩和戦略を策定するために、JWSTの観測は不可欠である」と述べている。
JWSTのデータは、ESA、NASA、その他の機関が小惑星の衝突リスクをより正確に評価し、必要な対応を決定するために利用される。地球の望遠鏡では2025年4月頃に2024 YR4が見えなくなるため、JWSTによる観測は、それまでにできるだけ多くの情報を収集するための貴重な機会となる。
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