フランスの老舗ブランドLacosteは、AI企業Cyphemeが開発した画像認識技術「Vrai AI」を導入し、偽造品対策を強化している。このシステムは99.7%という高精度で、同社の象徴的なワニのロゴを分析し、真贋を判定することが可能とのことだ。
高度な画像認識技術による偽造品の識別
Vrai AIは、Cypheme社が開発した革新的な画像認識システムであり、数万点におよぶ正規品の画像データを学習することで構築された。このシステムの特筆すべき点は、人間の目では見分けることが困難な微細な特徴までを分析できる精度の高さにある。
Cyphemeの主任研究者であり開発者のDavid G. Stork氏によると、システムは複数の判定要素を組み合わせて総合的な分析を行う。たとえば、Lacosteの象徴的なワニのロゴでは、目の位置や角度のわずかなずれ、緑色の色調における微妙な違い、そしてステッチの間隔の規則性などを同時に評価する。一見するとほぼ完璧な偽造品であっても、これらの要素を総合的に分析することで、高い精度での判定が可能となっている。
さらに注目すべきは、このシステムが製造工程で生じる正規品同士の微細な差異と、偽造品の特徴とを明確に区別できる点にある。工業製品である以上、まったく同一の製品を作ることは不可能だが、Vrai AIは機械学習によって、正常な製造上のばらつきの範囲内にある違いと、偽造品特有の特徴とを識別することができるのだ。
この技術の成功を支えているのは、スタンフォード大学の客員教授でもあるStork氏の芸術品の真贋判定における豊富な経験である。氏は長年、AIを使用した芸術作品の分析や、作品中の隠れた作者の特定などの研究を行ってきた。その専門知識が、ファッション製品の真贋判定というまったく異なる分野で活かされている点は興味深い。
加えて、システムの実用性を高めているのは、その使いやすさにある。倉庫スタッフは専門的な訓練を必要とせず、スマートフォンで商品を撮影するだけで、即座に真贋判定の結果を得ることができる。この簡便さと、99.7%という高い精度を両立させた点は、実務での運用において大きな利点となっている。
返品詐欺対策としての実践的活用
Lacosteは、この技術を返品詐欺に用いている。最近日本でもオンライン販売(特にメルカリ)において問題となっている返品詐欺は、このラグジュアリーブランドにとっても深刻な課題となっていた。この手口は巧妙で、詐欺師たちは正規のEコマースサイトから本物の製品を購入し、その後、精巧な偽造品と交換して返品するという方法を取っていた。
この問題の深刻さは、被害が単なる返品による損失に留まらない点にある。ファッションコンサルタントのKaren Harvey氏によれば、最も懸念すべきは消費者のブランドに対する信頼の喪失だ。「消費者は偽造品を製造する人々を非難しません。むしろブランド側の責任を追及するのです。『どうしてこんなことを許したのか』『もう二度と買わない』『信用できない』といった反応を示します」と同氏は指摘する。
Vrai AIの導入は、この課題に対する効果的な解決策となっている。倉庫スタッフは返品された商品を受け取った際、専用アプリを使用して商品を撮影するだけで、その場で真贋判定を行うことができる。この即時性は極めて重要で、偽造品の早期発見によって、それらが誤って正規品として再販売されるリスクを大幅に低減することができる。
さらに、この技術の導入は返品処理の効率化にも貢献している。従来の目視による確認作業では、専門的な訓練を受けたスタッフでも見逃してしまう可能性があった微細な違いも、AIによって確実に検出することが可能となった。これにより、返品処理のスピードが向上すると同時に、真正品の誤った廃棄を防ぐことにも成功している。
また、この取り組みはLacosteの長年にわたる偽造品対策の一環としても位置づけられる。同社は国際商標協会やフランスの業界団体UNIFABなどと積極的に連携し、偽造品対策に取り組んできた。今年初めには中国のアパレルブランドCarteloに対する商標権侵害訴訟で勝訴を収め、約205万ドルの賠償金を獲得している。このような法的対応と新技術の導入を組み合わせることで、より包括的な偽造品対策が可能となっている。
Xenospectrum’s Take
今回のLacosteによるAI技術の導入は、ラグジュアリーブランドによる偽造品対策の今後の流れを作る物になるかもしれない。。特筆すべきは、従来のような特殊なタグや隠し文字といった物理的な対策ではなく、純粋に視覚的な特徴のみで判定を行える点だ。しかし、この技術の登場は、偽造品製造者たちとの「軍拡競争」の新たな幕開けとも言える。AIによる判定が一般化すれば、偽造業者もまたAIを使って検知を回避しようとするはずだ。医薬品分野への応用も期待されているが、そこではより厳密な精度が求められることになるだろう。
Source
- Sourcing Journal: Lacoste Turn to AI to Fight Counterfeiting
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