米NVIDIAと米AMDが、Donald Trump新政権による新たな関税措置への対応として、次世代GPUの生産・出荷を大幅に前倒しして実施していることが明らかになった。両社は1月20日の期限までに、中国の製造拠点から米国の倉庫への製品輸送を完了させることを目指しているという。
急を要する出荷戦略の詳細
通常、GPUメーカーは新製品の初期生産段階において、供給量を慎重にコントロールし、流通経路からの情報漏洩を防ぐための厳格な出荷管理を行っている。標準的な物流では、海上輸送で7〜10日、航空輸送でも2日程度の余裕を持って出荷計画を立てるのが一般的だった。
しかし今回、NVIDIAとAMDは12月初旬から異例の生産・出荷体制を敷いている。両社は製品を生産する中国の製造拠点に対し、通常のスケジュールを大幅に前倒しして、次世代GPUの生産を急ピッチで進めるよう指示を出した。この措置には現行モデルだけでなく、2025年1月以降に市場投入を予定している新製品も含まれている。特筆すべきは、両社の中国における生産拠点が、一部の輸出規制対象となる高性能モデルを除き、全製品の90%以上を製造しているという事実だ。
NVIDIAは特に積極的な展開を見せており、GeForce RTX 5000シリーズについて、第1四半期中に少なくとも6つのモデルを順次投入する計画を立てている。具体的な展開として、まず1月中旬以降にRTX 5080が全世界で発売され、その後1月末か2月初旬にフラッグシップモデルとなるRTX 5090が登場する。さらに、中国市場向けには輸出規制に対応したRTX 5090D特別仕様モデルの同時期投入も検討されている。2月から3月にかけては、RTX 5070 Ti、RTX 5070、そしてRTX 5060 Ti、RTX 5060といったミッドレンジモデルの展開が予定されている。
一方、AMDも同様の緊急対応を実施しており、次世代のRadeon RX 9000シリーズの出荷を加速している。同社は当初予想されていた8000シリーズの命名を見送り、最新のRyzen 9プロセッサーシリーズとの命名統一を図った。最上位モデルとなるRadeon RX 9070/9070 XTについては、1月中下旬の市場投入を目指して生産を急いでいる。
サプライチェーン関係者によると、両社とも1月20日までの米国倉庫への搬入完了を最優先課題として設定しており、出荷の優先順位も米国市場を最優先とし、その後に中国、アジア太平洋地域、欧州市場という順序で展開する方針を採っている。この異例とも言える戦略は、関税発動のタイミングが不透明な中での予防的措置として位置づけられている。
関税による価格への影響
新たな関税政策は、ハイエンドGPU市場に前例のない価格高騰をもたらす可能性が高まっている。トランプ政権が検討している新たな措置では、中国以外からの輸入に対して10%の関税が課される一方、中国からの輸入品に対しては最大60%という極めて高率な関税が適用される見通しだ。現在、消費者向けゲーミングGPUの大半が中国で生産されている実態を踏まえると、この関税措置により小売価格が最大40%上昇する可能性が指摘されている。
具体的な価格への影響を見ると、NVIDIAの次期フラッグシップモデルGeForce RTX 5090の場合、当初想定されていた推定価格1,799ドルから、関税措置後には約2,500ドルにまで跳ね上がる可能性がある。この価格上昇は、製造業者が関税コストをどの程度消費者価格に転嫁するかによってさらに変動する可能性がある。
このような大幅な価格上昇は、GPU市場全体のダイナミクスを根本的に変える可能性がある。業界関係者は、高騰する新品価格を避けて、中古GPU市場への需要が急増すると予測している。実際、Microsoft、Dell、HPといった大手テクノロジー企業も同様の懸念から、生産プロセスを加速させ、関税実施前の出荷量確保に動いている。
ただし、最終的な価格への影響は、政策の正式な実施内容や時期によって変動する可能性がある。現時点では政策の詳細が「公式に」確定していないため、製造業者は最悪のシナリオに備えつつ、柔軟な価格戦略の検討を進めている。特に注目すべきは、この価格上昇が一時的な需要抑制をもたらす可能性が高いという点だ。サプライチェーンの関係者らは、需要の急激な落ち込みを避けるため、段階的な価格調整や在庫管理の最適化など、様々な対策を検討している。
さらに、この状況は単にGPU市場だけでなく、AIワークステーションやハイエンドゲーミングPC市場全体にも波及する可能性がある。システムインテグレーターやPCメーカーは、構成部品の価格上昇に対応するため、製品ラインナップの見直しや代替サプライチェーンの模索を始めている。このような市場の構造的変化は、消費者の購買行動にも長期的な影響を及ぼす可能性が高い。
Xenospectrum’s Take
この異例の出荷戦略は、半導体業界における地政学的リスクの高まりを如実に示している。両社の対応は一時的な解決策に過ぎず、長期的には供給チェーンの多様化や、東南アジアなど代替生産拠点の開発が不可避となるだろう。
皮肉なことに、高性能GPUの需要が AI ブームで高まる中、こうした関税措置は結果として中古市場の活性化を促し、新品市場の成長を抑制する可能性がある。業界は今後、より柔軟な生産・供給戦略の構築を迫られることになるだろう。
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