中国の半導体メーカーChangxin Memory Technologies(CXMT)が、グローバルDRAM市場で急速にシェアを拡大している。Silicon Motion Technologyの総経理Gou Jiazhangによると、CXMTの市場シェアは2024年に10%、2025年後半には15%に達する可能性があるという。この急速な成長は、グローバルDRAM市場の価格動向に大きな影響を与える可能性が指摘されている。
CXMTの生産能力の急速な拡大
Changxin Memory Technologies(CXMT)の成長曲線は、半導体業界でも特筆すべき急上昇を示している。わずか3年前には世界市場シェア2%にも満たなかった同社だが、生産能力の大規模な拡張により、業界地図を塗り替えつつある。具体的な生産能力を見ると、2022年時点での月間ウェハー生産能力7万枚から、2023年には12万枚へと約70%増加させ、さらに2024年には20万枚という積極的な生産体制を構築している。
この急速な能力増強を支えているのが、製品ラインナップの戦略的な拡充だ。同社はDDR4、LPDDR4からスタートし、現在ではより高性能なLPDDR5まで製品範囲を広げている。特筆すべきは、中国スマートフォン大手のXiaomiやTransssionとの大型供給契約の獲得だ。これら2社は合わせて世界のスマートフォン市場の約20%のシェアを占めており、CXMTにとって安定した需要基盤となっている。さらに、中国国内のPC製造業者への供給も着実に拡大しており、販路の多角化にも成功している。
市場調査会社TrendForceの2024年第2四半期の市場シェアデータでは、Samsung Electronicsが42.9%、SK hynixが34.5%、Micronが19.6%、南亜科技(Nanya)が1.3%という状況の中、CXMTの具体的なシェアは明らかにされていない。しかし、Silicon Motion Technologyの総経理Gou Jiazhangによれば、2024年には市場シェア10%に達する見込みとされ、量産技術の向上と生産能力の拡大が着実に結実していることを示している。ただし、米国やオランダによる制裁措置の存在や、同社が中国国内需要、特に政府系機関向けの供給を重視する方針を採っていることから、グローバル市場でのDDR5チップの供給については一定の制約が予想される。
DRAM市場に価格競争激化の懸念
DRAM市場における価格動向に大きな転換点が訪れようとしている。2024年11月中旬、業界に衝撃が走った。CXMTと福建晋華(Fujian Jinhua)が、DDR4メモリの価格を市場平均から50%も下回る水準まで引き下げたのだ。この価格設定は、リユース品として流通している中古DDR4チップの価格をも下回る異例の攻撃的な価格戦略であった。この動きを受け、主要メーカーはDDR4製品の生産規模を縮小せざるを得ない状況に追い込まれている。
現在、注目を集めているのは、CXMTが本格的に量産を開始したDDR5製品における価格戦略だ。Silicon Motion Technologyの総経理Gou Jiazhang氏によれば、2024年中頃からLPDDR5の大量出荷が予定されており、特にスマートフォン市場において大きな価格圧力となることが予想されている。業界では、DDR4で見られたような積極的な価格戦略がDDR5市場でも展開されるのではないかという懸念が広がっている。
この状況は、特に中国市場において深刻な影響をもたらす可能性がある。CXMTが中国市場で大きなシェアを獲得した場合、Micron、Samsung Electoronics、SK hynixといった既存の主要メーカーは、中国以外の地域に生産をシフトせざるを得なくなる。これは結果として、グローバル市場における供給過多を引き起こし、世界的な価格下落の連鎖を引き起こす可能性がある。実際に、サムスンとSK hynixは既にAI以外の分野での生産調整を開始しており、来年の市場価格の安定性を維持しようと試みている。
しかし、CXMTの市場参入がもたらす影響は、単純な価格競争の枠を超えて、業界構造そのものを変える可能性を秘めている。特にスマートフォンやPC向けの製品セグメントにおいて、従来のDRAM業界が長年維持してきた価格の安定性が大きく揺らぐ可能性が高い。ただし、エンタープライズ向け市場に関しては、中国国内のサーバーメーカーですら実績のある供給者との取引を優先する傾向があり、CXMTの影響力は当面限定的になると見られている。この状況を受け、主要メーカーはエンタープライズセグメントへの注力を強める戦略を取り始めており、市場の棲み分けが進む可能性も出てきている。
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