ChatGPTの開発元であるOpenAIが、Appleの元最高デザイン責任者Jony Ive氏らが関わるAIハードウェアスタートアップ「io Products」の買収を検討していることが、The Informationによって報じられている。買収額は5億ドル(約780億円)を超える可能性があり、実現すればOpenAIにとってハードウェア分野への本格参入に向けた大きな一歩となる。
OpenAIとIve氏の新興企業「io Products」買収協議の詳細
The Informationが報じたところによると、OpenAIはここ数週間の間に、io Productsの買収について協議を行ったとのことだ。io Productsは、OpenAIのCEOであるSam Altman氏とJony Ive氏のデザインスタジオ「LoveFrom」が協力して、AIを活用したパーソナルデバイス開発を目指すために設立されたスタートアップである。
買収額は少なくとも5億ドルとされ、もし成立すれば、OpenAIはio Productsが持つAIデバイスの設計思想やコンセプト、そして開発に従事するエンジニアリングチームを獲得することになる。ただし、関係者によると、最終的に買収ではなく、パートナーシップという形に落ち着く可能性も残されているという。
io Productsには、Ive氏がAppleを去った後に設立したデザイン会社LoveFromからだけでなく、AppleでiPhoneなどのデザインを率いたTang Tan氏や、Ive氏の後任であったEvans Hankey氏といった、元Appleの著名なデザイナーも関与しているとされる。資金調達に関しては、故Steve Jobs氏の妻であるLaurene Powell Jobs氏の「Emerson Collective」などが、非公開の金額を出資していると報じられている。
Ive氏とAltman氏は2023年から、後に「AIのiPhone」と呼ばれるような、革新的で広く普及する可能性を秘めたAIデバイスの構想について話し合いを重ねてきたとされる。この表現は、一部で「Ive氏がAI搭載スマートフォンを開発中」と誤解されたが、今回の報道でもデバイスの具体的な形態については情報が錯綜している。
「スクリーンのない電話」の謎:次世代AIデバイスの姿
io Productsが開発しているデバイスについては、詳細な情報は明かされていないものの、いくつかの興味深い特徴が報じられている。最も注目されているのは「スクリーンのない電話」という表現だ。
「デザインはまだ初期段階で確定していない」とThe Informationは報じているが、「スクリーンのない『電話』やAI搭載家庭用デバイスの可能性がある」としている。一方で、「プロジェクトに近い関係者は、これは『電話ではない』と強く主張している」という矛盾した情報も存在する。
この「スクリーンのない電話」という概念については、製品の方向性を示す情報と捉えることもでき、ディスプレイに依存せず、音声やその他の方法でユーザーとインタラクションする新しいタイプのパーソナルデバイスと考えられる。
ちなみに、昨年The New York Timesが報じたところでは、このスタートアップの目標が「iPhoneよりも社会的に破壊的でない(less socially disruptive)」製品を作ることにあるとも、伝えられていた。これは、常にユーザーの注意を引きつけるスマートフォンとは異なる、新しい形のデバイスを目指している可能性を示唆する物とも言えるだろう。
スクリーンレスのAIデバイスというコンセプトは、Altman氏が以前から関心を示してきた分野でもある。同氏は、ディスプレイを持たず、手のひらに情報を投影する小型プロジェクターを備えたAI搭載ブローチを開発したスタートアップ「Humane」にも出資していた。しかし、Humaneのデバイスは期待されたほどの関心を集められず、同社は今年、資産の一部をHPに売却している。io Productsが目指すデバイスが、Humaneのようなニッチな製品になるのか、あるいはスマートフォンに取って代わるような野心的なものになるのかは、現時点では不明なままだ。
今回の買収検討の背景には、OpenAIがソフトウェアやAPIだけでなく、ハードウェアを通じて新たな収益源を確保したいという狙いがあると見られる。また、AI機能をデバイス上で直接実行する(オンデバイスAI)ための軽量なAIモデル開発につながる可能性も指摘されている。実現すれば、AppleのSiriやAmazonのAlexaといった既存の音声アシスタント市場、ひいてはAppleのiPhoneが築き上げてきたエコシステムに、新たな競争軸をもたらす可能性もありそうだ。
そして、Jony Ive氏の参画は、ハードウェアデザインの観点からも大きな意味を持つ。iPhoneやiPod、Macなど数々のAppleの象徴的製品のデザインを主導してきたIve氏の美学が、AIデバイスの形態にどのような影響を与えるか、業界全体が注目している。
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