待望のNintendo Switch 2に関する情報が徐々に明らかになる中、多くのユーザーが注目していたJoy-Conの仕様について、残念ながら期待とは異なる事実が判明した。任天堂の幹部が、新型Joy-Con(Joy-Con 2)には、初代Switchで問題となった「ドリフト現象」対策として有力視されていたホールエフェクト技術が採用されていないことが公式に明らかにされたのである。任天堂は「ゼロから再設計」し、耐久性や操作感を向上させたと主張するが、過去の経験からユーザーやメディアの間では懸念の声が広がっている。
任天堂幹部が明言「Joy-Con 2はホールエフェクトではない」
長らく続いた憶測に終止符が打たれたのは、Nintendo of Americaで製品開発およびパブリッシング担当上級副社長を務めるNate Bihldorff氏へのインタビューがきっかけだ。ゲーム情報サイトNintendo Lifeとの対談の中で、Bihldorff氏はSwitch 2のJoy-Conスティックについて問われ、次のように明確に答えている。
「ええ、Joy-Con 2のコントローラーはゼロから設計されています。ホールエフェクトスティックではありませんが、非常に感触が良いですよ。Joy-ConとProコントローラーの両方を体験されましたか?」
(Source: Nintendo Life)
この発言は、これまで任天堂が詳細な技術仕様について明言を避けてきた状況を一変させるものだった。先週開催されたSwitch 2の発表会後のラウンドテーブルQ&Aセッションでは、複数のメディアがスティックドリフト改善について質問したが、Switch 2テクニカルディレクターの佐々木哲也氏は「新しいJoy-Con 2コントローラーは、より大きく、よりスムーズな動きを実現するためにゼロから設計された」と述べるに留まり、具体的な技術には言及しなかった。Polygonに対しても「内部メカニズムを共有することは、コントロールスティックの設計図全体を共有することになる」と回答を避けており、VGCに対しても任天堂広報は「Joy-Con 2コントローラーのコントロールスティックは再設計され、耐久性などの点で改善されている」と述べるのみであった。
このように慎重な姿勢を続けていた任天堂から、ホールエフェクトは採用していないという具体的な情報が幹部の口から語られたことは、多くのゲーマーにとって驚きであり、一部では失望の声も上がっている。
ジョイスティックの「ドリフト」問題とは? なぜホールエフェクトが期待されたのか
そもそも、なぜこれほどまでにJoy-Conのスティック技術が注目されるのか。それは、2017年に発売された初代Nintendo Switchで広く報告されたジョイスティックの「ドリフト現象」問題に起因する。これは、プレイヤーがスティックに触れていないにも関わらず、勝手にキャラクターが動いたり視点が移動したりする現象である。
この問題の主な原因は、多くの標準的なゲームコントローラーで採用されているポテンショメータ(可変抵抗器)方式のジョイスティック内部構造にあると考えられている。スティックを動かすと、内部の金属接点がグラファイト製の抵抗体に擦れることで位置情報を検出するが、長期間の使用による摩耗で削れた粉塵がセンサー部分に入り込んだり、接点自体が劣化したりすることで、スティックが中央位置にあると正しく認識できなくなるのだ。
このドリフト現象は非常に広範囲で発生し、任天堂は複数の集団訴訟に直面することとなった。最終的には、影響を受けたユーザーに対してJoy-Conの無償修理を提供する事態にまで発展した。元修理担当者からは、修理依頼の多さに「非常にストレスだった」との証言も出ているほどだ。
こうした背景から、Nintendo Switch 2では、この悪名高いドリフト問題を根本的に解決する技術の採用が強く期待されていた。その最有力候補が「ホールエフェクト(Hall effect)」センサーを用いたジョイスティックであった。
ホールエフェクトセンサーは、磁石と磁気センサーを用いてスティックの位置を検出する。スティックの動きに合わせて磁石が動き、その磁界の変化をセンサーが非接触で読み取るため、ポテンショメータ方式のような物理的な摩耗が原理的に発生しにくい。これにより、理論上はドリフト現象が起こりにくく、耐久性が大幅に向上すると期待されていたのである。近年、一部のサードパーティ製コントローラーや携帯ゲーミングPCなどで採用例が増えており、その効果は実証されつつあった。それだけに、今回の任天堂の公式見解は、多くのユーザーにとって残念な知らせとなったわけだ。
任天堂が語る「新設計」Joy-Con 2の実態とは
ホールエフェクト非採用という事実は明らかになったが、任天堂はJoy-Con 2が単なるマイナーチェンジではないことを強調している。Bihldorff氏や他の開発者が繰り返し述べているのは、「ゼロから再設計」したという点である。
任天堂が公開した開発者インタビュー「開発者に訊きました」では、プロデューサーの河本浩一氏が次のように述べている。
「今回のJoy-Conである、「Joy-Con 2」も全部イチからつくり直しています。
(Source: 任天堂)
アナログスティックはSwitchのJoy-Conよりも大きくなって、耐久性も上がっていますし、動きが滑らかになるようにしています」
具体的には、以下の点が改善点として挙げられている。
- 耐久性の向上: 摩耗しやすい部品や構造を見直した可能性がある。
- スムーズな動き: 操作感がより滑らかになった。
- 大型化: スティック自体が大きくなり、操作性が向上した可能性がある。
しかし、具体的にどのような内部構造の変更によってこれらの改善を実現したのか、その核心部分については依然として謎に包まれている。The Vergeは、「依然として初代Switchの悪名高いジョイスティックドリフト問題に寄与したのと同じポテンショメータベースのジョイスティックを使用しているのか、それともその技術を改善してJoy-Conハードウェアの寿命を延ばす方法を見つけたのか?」と疑問を呈している。
さらに、ホールエフェクトではないとすれば、他の代替技術を採用した可能性も考えられる。例えば、トンネル磁気抵抗(TMR)ジョイスティック技術は、ホールエフェクトセンサーよりもさらに精度や応答性に優れる可能性があり、ドリフト問題を解決する選択肢となり得る。しかし、現時点では任天堂がTMRを採用したという情報はなく、これも憶測の域を出ない。
結局のところ、「ゼロからの再設計」や「耐久性向上」という言葉の真偽、そしてその効果のほどは、実際に製品が登場し、ユーザーによる長期使用や、専門家による分解・解析が行われるまで分からないというのが現状だ。
Switch 2 Proコントローラーも同様か? 操作感と静音性をアピール
Joy-Con 2だけでなく、別売りのSwitch 2 Proコントローラーについても、ホールエフェクトを非採用の可能性が高いと見られている。Bihldorff氏はNintendo LifeのインタビューでJoy-Con 2について語った後、話題をProコントローラーに移しており、明確な言及は避けたものの、文脈からはProコントローラーも同様であると推測される。
ただし、Bihldorff氏や他の開発者は、Proコントローラーの操作感や静音性については自信を覗かせている。Bihldorff氏は、初めてProコントローラーを握った際に「ゲームキューブコントローラーのように感じた」と語り、「特にスティックの感触が良い」「非常に静かだ」と評価している。
「スマブラをやっていた頃のことを思い出しますが、スティックを激しく弾いても本当に静かです。(Switch 2 Proコントローラーは)私が今までプレイした中で最も静かなコントローラーの1つです」
(Source: Nintendo Life)
「開発者に訊きました」インタビューでも、河本氏が「特にLスティック/Rスティックは端まですばやく動かしても静かで、カチャカチャ言わなくなっています。また、触り心地もとても滑らかなので
『エアリアルスティック』と呼んでいます(笑)」と述べている。
これらの発言からは、任天堂がホールエフェクトとは異なるアプローチで、操作体験全体の向上を目指していることがうかがえる。しかし、初代SwitchのProコントローラーもドリフト問題とは無縁ではなかったことを考えると、静音性や操作感の良さが、長期的な耐久性とイコールであるとは限らない。
拭えぬ懸念と今後の展望:ドリフトの悪夢は繰り返されるのか?
ホールエフェクトセンサーという、ドリフト問題への「特効薬」とも言える技術の採用が見送られたことで、多くのユーザーが抱くのは「またドリフト問題に悩まされるのではないか」という当然の懸念である。任天堂は「耐久性向上」を謳うものの、その具体的な根拠は示されていない。
任天堂がドリフト問題に関する直接的な説明を避けている点について、現在も係争中の訴訟が影響している可能性もありそうだ。「ドリフト問題を修正した」と公言することは、法的には初代に問題があったことを認めることになり、訴訟で不利になる可能性があるからだ。この法的な制約が、技術的な詳細説明をためらわせている一因かもしれない。
もちろん、現時点でJoy-Con 2や新型Proコントローラーの耐久性を断定するのは時期尚早であることもまた確かだ。任天堂が主張するように、ポテンショメータ方式の設計を大幅に改善し、初代よりもはるかにドリフトしにくいスティックを実現している可能性もゼロではない。あるいは、前述のTMRのような、まだ広く知られていない新技術を採用している可能性も残されている。
真実は、2025年6月5日のSwitch 2発売後、実際に製品がユーザーの手に渡り、長期間使用された結果、そしてiFixitのような修理専門業者による詳細な分解レポートによって明らかになるだろう。
もし、万が一Joy-Con 2でもドリフト問題が再発するような事態になれば、任天堂への信頼は大きく揺らぐことになる。一方で、もし任天堂の「新設計」が本当に効果を発揮し、ドリフト問題が大幅に改善されていれば、それはそれで称賛に値するだろう。
また、仮に純正コントローラーの耐久性に不安が残る場合でも、初代Switchと同様に、サードパーティメーカーからホールエフェクトセンサーを搭載した互換コントローラーが登場する可能性は高い。ドックモードでのプレイが中心のユーザーにとっては、有力な選択肢となるかもしれない。
いずれにせよ、Nintendo Switch 2のコントローラーに関する議論は、発売後も続くことになりそうだ。今はただ、任天堂の「新設計」が言葉通りの改善をもたらしていることを期待しつつ、続報を待つしかない。
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