AI生成曲は、人が聴くより速くストリーミングサービスへ流れ込んでいる。シカゴ大学の研究チームがSpotifyを大規模に測定したところ、2025年11月初めの新規公開曲に占めるAI生成曲は40%を超えた。その一方で、93%は収益が発生する最低基準の1,000再生に届いていない。曲数は急増しても需要は追いつかず、低コストの大量投稿でわずかな当たりを狙う事業が先に育ちつつある。
この結果は、6月16日に公開された未査読プレプリント「An Empirical Analysis of AI Slop in Music Streaming」に基づく。研究チームはカタログ分析に加え、自ら作ったAI曲を11社の配信代行へ申請し、AI検出器への回避実験も行った。そこから見えてきたのは、音源を作る技術よりも、配信の入口で量を抑える仕組みの方が追いついていない現実だ。
新曲の40%超を占めても、再生は伸びない
研究チームが使ったのは、Anna's Archiveが収集した2億5,600万曲のメタデータだ。公開者は2025年7月時点のSpotifyカタログの99%を含むとしており、研究チームも複数の指標で整合性を確かめている。ただし、これはSpotifyの公式提供データではない。国際標準レコーディングコード(ISRC)で重複を除くと1億8,536万曲となり、このうち5,292万曲が2024年以降に公開されていた。さらにSpotifyの公開推薦APIをたどり、3,351万曲と35億本の推薦関係から成るグラフも構築した。
各曲がAI生成かどうかは、Deezerが付けたAIラベルと照合した。SpotifyとDeezerの曲情報を結び付け、4,075万曲をAI生成または人間制作に分類している。1,000アルバムを抜き出した照合作業では99.6%が正しく一致したという。
新規公開曲に占めるAI生成曲は、2024年1月の1%未満から急上昇した。データがそろう最後の週、2025年11月3日週にはAI生成が20万2,046曲、人間制作が23万8,646曲、未分類が6万22曲だった。AI生成の比率は40%を超える。ただし、論文が述べる「2026年にはAI曲が人間制作曲を上回った可能性」は、この伸び率からの外挿であり、2026年の実測値ではない。
供給量の増加を、そのまま人気と読むこともできない。AI生成曲は分析対象カタログ全体の5.1%を占めたが、推薦グラフでは1.2%にとどまった。累計再生数を見ると、AI曲の93%が1,000回未満だった。再生期間を2026年1月から5月にそろえて比べても、1,000回に届かない曲はAI生成で92.7%、人間制作で67.5%になる。
Spotifyは2024年4月以降、過去12カ月に1,000回以上再生され、非公開の最低ユニークリスナー数も満たした曲だけを録音物ロイヤリティの計算対象にしている。つまり、AI曲の大半は公開されても収益を生んでいない。
月30曲を超える2.7%が、AI曲の供給量を塗り替えた
需要が乏しいのに投稿が止まらないのは、1曲を作る費用が極端に低いからだ。論文の試算では、SunoやUdioの年額100ドルの契約で月約500曲を生成でき、1曲当たりの生成費は0.02ドル未満になる。失敗作を選別するより、数を出して偶然のヒットを待つ方が合理的になり得る。
研究チームは月30曲以上を公開するAIアーティストを「スロップ制作者」と操作的に定義した。該当者はAIアーティストの2.7%にすぎない。それでも、その集団が公開する曲数は2025年10月に他のAIアーティスト全体を上回った。少数の大量投稿者が、AI音楽の見かけの成長を押し上げている。
もっとも、月30曲という線引きは音楽の質を測ったものではない。投稿頻度による研究上の分類であり、AIを制作支援に使う音楽家と低品質な大量投稿者を完全に分けられるわけではない。この限界を踏まえても、制作速度の差は大きい。2024年以降の平均公開数はAIアーティストが27曲、人間のアーティストが13曲だった。月平均では5曲対1曲、公開間隔は16日対50日超である。
AI曲が2026年1月から5月に得たロイヤリティは、Spotifyの月間支払額の約0.3%、合計約1,340万ドルと推定された。収益を得た上位7.15%のAI曲に絞っても、76.5%は10ドル未満だった。1,000ドルを超えた曲は1,632曲、全AI曲の0.27%にすぎない。地理による単価差を一律に扱った推定値ではあるが、低い成功率と大量生産が同居する経済をよく表している。
11社への投入実験で露呈した配信の入口
SpotifyやApple Musicへ個人が曲を直接納品することはできない。独立系の音楽家は通常、音声形式やメタデータを整え、各サービスへ送る配信代行を使う。著作権侵害や重複を確認するこの中間層は、AIスロップを止められる数少ない入口でもある。
研究チームは商用のSunoとUdio、オープンソースのDiffRhythmとACE-StepでAI曲を作り、11社の配信代行へ各8曲を申請した。歌詞と曲名に加え、カバー画像も生成AIで作り、人間の手間を抑えている。11社中9社が少なくとも1曲を承認し、合計73曲が配信へ進んだ。
公表方針ではAI曲を認めない5社も対象に含まれていた。ところが、そのうち4社は8曲すべてを承認し、残る1社も1曲を通している。拒否が起きた場合も、理由はAI使用とは無関係だった。掲げた方針と審査の実態は、大きく離れている。
配信代行を通過すると、ストリーミングサービス側はほぼその判断を受け入れた。研究チームは実験終了後、公開したAI曲を削除している。小規模な調査ではあるものの、AI曲を大量投入する側から見れば、生成から公開までの流れに強い摩擦がないことを示している。
99.6%精度の検出器も、圧縮や残響で回避された
音源を自動判定できれば、入口の審査は強化できる。研究チームが4方式を比べたところ、スペクトログラムの周波数成分を見るFourier方式が最も高精度だった。SunoとUdioから抽出したAI曲計1,000曲、人間が2021年以前に作った曲1,000曲を使った通常条件では、精度99.6%に達している。
だが、公開時の音源が学習時と同じ状態で届くとは限らない。研究チームはSunoで別の20曲を作り、MP3圧縮とピッチ変更を5曲ずつ施した。残る10曲には、残響の追加またはオートエンコーダーによる再構成を適用した。DistroKid経由でDeezerへ送ると、20曲すべてが同社の商用AI検出をすり抜けた。サンプルは小さいが、通常条件の精度だけでは実運用の強さを判断できない。
この弱点は、Spotifyの曲を分類した研究結果にも影響する。分析はDeezerのAIラベルに依存し、Deezer側で見つけられない生成器や加工済み音源はAI曲として数えられない。アルバム単位のラベルを同じアルバムの全曲へ適用した点も含め、40%超という数字は厳密な全数調査ではなく、大規模な推定として読む必要がある。
一方、Deezer自身が2026年4月に公表した数字は研究結果と近い。同社には1日約7万5,000曲の完全AI生成曲が届き、日次納品の44%を占めるという。それでも再生は全体の1〜3%にとどまり、AI曲の再生の最大85%を不正と判定して収益化から外している。大量供給、低い実需、不正再生という三つの特徴が、別のサービスでも重なった。
任意ラベルの先に、投稿コストと本人確認が要る
音楽業界は透明性から手を付け始めた。IFPIやRIAAなど8団体は7月10日、トラック単位で「AI-Generated」と「AI-Assisted」を区別する任意表示を発表した。主要な創作要素をAIが作った録音と、人間が主体となり一部にAIを使った録音を分ける。参加団体には独立系音楽会社の国際組織WIN、俳優・音楽家らの労組SAG-AFTRAも加わった。
この区別は、正規のアーティストが制作過程を説明するには役立つ。SpotifyもDDEXを通じたAIクレジットの表示を4月から試験運用し、毎日数万件の申告を受けている。ただし同社は、クレジットがないからといってAI未使用とは言えないと認める。7月10日の業界案も任意で、対象は録音物に限られる。歌詞や作曲、ミュージックビデオとカバー画像は現段階で対象外だ。
大量投稿や不正再生を狙う側に自己申告を期待しても、入口の弱さは埋まらない。論文は、曲ごとの配信料金、投稿頻度に応じた料金の引き上げ、一定期間の公開曲数上限を候補に挙げる。18社の配信代行のうち本人確認を求めるのは3社にすぎなかった。本人確認を徹底すれば、大量アカウントを維持する費用も上がる。
業界がラベルを実装した後の成果は、表示件数では測れない。AIクレジットのない大量投稿をどれだけ拾い、同じ主体による連続公開をどこで止め、不正再生をロイヤリティから除外できたかを見る必要がある。制作費が下がり続ける以上、1曲ごとの成功率が低くても量で押す事業は消えない。配信の入口に現実のコストを戻せるかどうかが、AI音楽とAIスロップを分ける分岐点になる。