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OpenAI、CoreWeaveと119億ドルの契約締結 – AI開発の計算能力争奪戦が新局面へ

2025年3月12日

OpenAIは、AI特化型クラウドプロバイダーの米国CoreWeaveと最大119億ドル(約1.8兆円)規模の5年間の契約を締結したと発表した。この契約の一環として、OpenAIはCoreWeaveに3.5億ドル(約530億円)を投資し株主となる。この大型契約は、MicrosoftとOpenAIの複雑化する関係を象徴するとともに、AI業界における計算能力確保競争の激化を示している。

契約の詳細と戦略的意義

今回の契約では、CoreWeaveはOpenAIに対してAIモデルのトレーニングと推論のための計算インフラを提供する。OpenAIのCEO Sam Altman氏は「高度なAIシステムには信頼性の高い計算能力が必要であり、CoreWeaveとのスケーリングを継続することで、より強力なモデルをトレーニングし、より多くのユーザーに優れたサービスを提供できることに期待しています」とコメントしている。先週Altman氏はGPT-4.5のリリースに際し、段階的な展開となった原因を「GPUが不足している」ことにあるとして不満を漏らしており、今回の契約はその課題に対応するものと見られる。

この契約はOpenAIのインフラ戦略において重要な転換点となる。これまでOpenAIはMicrosoftを主要なクラウドプロバイダーとしていた。2023年にMicrosoftから巨額の投資を受けて以降、Microsoftは同社の最大の株主となり、OpenAIの収益の一部を受け取る権利も持っている。しかし、2025年1月にOpenAIはOracle、SoftBank、Abu DhabiのMGXとの共同で「Stargate」と呼ばれる5000億ドル規模のジョイントベンチャーを発表し、米国内に大規模データセンターを展開する計画を明らかにした。これによりMicrosoftはOpenAIの唯一のクラウドプロバイダーではなくなった。

Altman氏は、「CoreWeaveは、MicrosoftやOracleとの商業契約、およびSoftBankとのStargateジョイントベンチャーを補完する、OpenAIのインフラストラクチャポートフォリオの重要な追加」と位置づけている。OpenAIは投資家に対し、2030年までにStargateがAIモデルの実行と開発に必要な計算能力の75%を提供するとの見通しを示しているが、それまでの間はCoreWeaveのインフラに相当程度依存することになる。

業界地図を塗り替える大型契約

この契約はCoreWeaveにとっても大きな意味を持つ。同社は先週IPO(新規株式公開)を申請したばかりで、35億ドルの評価額で40億ドル以上の資金調達を目指しているとされる。市場関係者によれば、一社の顧客への依存度が高いIPO案件は通常「毛むくじゃら(hair)」と呼ばれる問題を抱えるとされるが、今回のOpenAIとの巨額契約によってこの問題は軽減されるとみられる。

興味深いことに、これまでCoreWeaveの最大の顧客はMicrosoftであり、2024年の同社の収益19億ドルの62%をMicrosoftが占めていた。2023年の収益が2億2890万ドルであったことを考えると、わずか1年で約8倍という驚異的な成長を遂げたことになる。

CoreWeaveはもともと暗号通貨マイニング事業としてヘッジファンド出身の起業家たちによって設立されたが、現在は32のデータセンターのネットワークを運営し、2024年末時点で25万以上のNVIDIA GPUを運用している。NVIDIAは同社の6%の株式を保有している。また、3人の共同創業者はすでに各人で1億5000万ドル以上、合計で4億8800万ドル相当の株式を現金化している。同社は79億ドルの負債を抱えており、IPOで調達した資金の一部を債務返済に充てる予定だ。

また、CoreWeaveは3月4日にAI開発プラットフォームのWeights & Biasesの買収を発表した。Weights & Biasesは2017年に設立され、100万人以上のAIエンジニアが利用するプラットフォームを提供している。OpenAI、Meta、NVIDIA、Snowflake、AstraZeneca、Toyota、Canva、Squareなど多くの大手企業がクライアントとなっている。

この一連の動きは、CoreWeaveがAI開発のエンドツーエンドプラットフォームを構築し、成長市場での地位を固めようとする戦略を示している。

AI開発を支える計算能力争奪戦の激化

この契約の背景には、AIモデル開発における計算能力の重要性の高まりがある。特に最近注目されている「test-time scaling(テスト時のスケーリング)」の発見により、AIモデルに「考える」ためのより多くの時間と計算能力を与えることで性能が向上することが明らかになっている。これはOpenAIの最新の「o」モデルが採用している原則でもある。OpenAIの巨額投資は、より多くの計算能力がより優れたAIにつながるという信念を示している。

一方、Microsoftの CEO Satya Nadella氏は大規模な計算投資についてより慎重な見方を示している。Nadella氏は、証明された顧客需要なしに容量だけを構築するアプローチに警鐘を鳴らし、2027年以降にデータセンターコストが減少すると予測している。また、AIモデルが商品化され、OpenAIは主に製品会社に移行するとの見解も示している。

MicrosoftとOpenAIの関係も変化している。Microsoftは依然としてOpenAIの主要な投資家であるが、OpenAIの成功に伴い、両社の間の緊張は高まりつつある。OpenAIは企業顧客獲得でMicrosoftと競争しており、高価なAIエージェントの展開も計画していると報じられている。一方、MicrosoftはOpenAIのo1やo3-miniに匹敵する独自のAI「推論」モデルMAIファミリーを開発中であり、OpenAIのライバルであるMustafa Suleyman氏を雇用してMicrosoft AIの指揮を執らせている。

この契約は、AIモデル開発における計算能力の確保が競争優位性を左右する重要な要素となっていることを示している。OpenAIは複数のプロバイダーからの計算能力の確保を進めることで、モデル開発のペースを維持し、数億人のユーザーに対するサービスの信頼性を高めることを目指している。


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