OpenAIが独自のAIチップ開発に向けて本格的に動き出している。同社はBroadcomおよびTSMCと提携し、AIモデルの推論処理に特化した独自チップの開発を進めており、2026年の実用化を目指していることが明らかになった。また、既存のNVIDIA製チップへの依存度を下げるため、AMD製チップの採用も開始する方針であることが報じられている。
OpenAIによる独自チップ開発の詳細
OpenAIは約20名規模のチップ開発チームを立ち上げており、GoogleのTensor Processing Unit(TPU)の開発に携わったThomas NorrieとRichard Hoを含む経験豊富なエンジニアたちが指揮を執っている。開発中のチップは、学習済みAIモデルの推論処理に特化した設計となっている。
開発においては、Broadcomがチップデザインの製造最適化を支援し、情報の入出力を高速化する設計部分も担当する。製造はTSMCが担当することが決定しており、2026年の量産開始を目指している。
OpenAIが独自チップの開発に踏み切った背景には、複数の重要な要因が存在する。
深刻化するインフラコストの課題
OpenAIは2023年において37億ドルの収入に対し50億ドルの損失を計上する見通しである。この巨額の赤字の最大の要因は、AIモデルの開発・運用に必要なハードウェア、電力、クラウドサービスなどのコンピューティングコストである。ChatGPTをはじめとするAIサービスの普及に伴い、これらのコストは今後も増加が予想される。
供給安定性の確保
現在、AI向けチップ市場の80%以上をNVIDIAが占めている状況下で、需要の急増による供給不足や価格高騰が業界全体の課題となっている。OpenAIは、Microsoft、Meta、Googleなど他の大手テクノロジー企業と同様に、チップ供給源の多様化を重要な経営課題として認識している。
推論処理特化型チップの必要性
AIの実用化が進むにつれ、モデルの学習処理だけでなく、学習済みモデルを実際のアプリケーションで運用する推論処理の重要性が増している。アナリストらは、将来的に推論用チップの需要が学習用チップを上回る可能性があると予測している。OpenAIの開発するチップは、この推論処理に特化した設計となっており、効率的な運用を目指している。
段階的なアプローチの採用
当初、OpenAIは自社でファウンドリーのネットワークを構築することも検討していた。しかし、半導体製造施設の構築には莫大な投資と時間が必要となることから、より現実的なアプローチとして、まずは設計に特化した開発を進める方針に転換した。この決定により、既存の半導体製造エコシステムを活用しながら、より迅速な開発を進めることが可能となっている。
AMDチップの採用による供給源の多様化
OpenAIは、独自チップの開発と並行して、既存のチップサプライヤーの多様化も積極的に進めている。その中核となるのが、Microsoft Azureを通じたAMD製チップの採用である。
AMDの攻勢と市場展開
AMDは2023年第4四半期に投入したMI300Xチップを軸に、AI市場への本格参入を果たしている。同社は2024年のAIチップ部門において45億ドルの売上を見込んでおり、これは同社のデータセンター事業が前年比で倍増する計画の重要な柱となっている。
MI300Xチップは、高性能な演算処理能力と大容量メモリを備えながら、電力効率も最適化されており、大規模言語モデルの処理に必要な要件を十分に満たす性能を実現している。
Microsoft Azureを介した展開
OpenAIによるAMDチップの採用は、戦略的パートナーであるMicrosoft Azureのインフラを通じて実施される。この方式を採用することで、OpenAIは新規ハードウェアの導入・管理をAzureに委託し、需要に応じた柔軟なスケーリングを実現できる。また、複数のチップベンダーへのアクセスを確保することで、供給不足や価格変動のリスクを軽減しつつ、需要に応じた柔軟な資源配分による運用効率の向上も図れる。
NVIDIAとの関係性維持
一方で、OpenAIはNVIDIAとの関係性も慎重に維持している。特にNVIDIA従業員の直接採用を控えめにするなど、良好な関係性の維持に注力している。これは次世代Blackwellチップの早期確保を目指す同社にとって、開発段階からの協力関係を維持することが極めて重要だからだ。
Xenospectrum’s Take
OpenAIの独自チップ開発は、AI業界全体に大きな影響を与える可能性がある。現在、AI向けチップ市場はNVIDIAが80%以上のシェアを握っているが、OpenAIのような大手顧客による独自開発の動きは、市場構造を大きく変える可能性を秘めている。
特に注目すべきは、OpenAIが推論処理に特化したチップを開発している点だろう。AIアプリケーションの普及に伴い、推論用チップの需要は学習用チップを上回る可能性があるとアナリストらは予測している。OpenAIの取り組みが成功すれば、AI推論処理の効率化とコスト削減が進み、AIサービスの更なる普及につながることが期待される。
しかし、2026年という実用化時期は、Google、Microsoft、Amazonなど、既に独自チップの開発で先行する競合他社と比較すると出遅れている感は否めない。OpenAIが本格的な競争力を獲得するためには、更なる投資と技術開発の加速が必要となるだろう。
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