Qualcommが新たな低価格帯向けSnapdragon Xプロセッサをリリースしたようだ。この戦略的な動き自体は既に同社幹部によって予告されていた物で予想された物ではあるが、そのスピード感は予想以上であり、WindowsにおけるArm系プロセッサ搭載PCの普及を加速させる可能性に繋がりそうだ。
Snapdragon X Plus新モデルはAI性能だけは譲らない
Qualcommは静かに、しかし確実に、Snapdragon Xプロセッサファミリーを拡大している。新たに導入された「Snapdragon X Plus X1P-42-100」は、従来モデルの10コアからコア数が削減された8コア構成を採用しており、より幅広い価格帯のデバイスへの搭載を可能にする。加えて、キャッシュ容量の削減とクロック周波数の抑制により、コストダウンを図りつつも、基本的な性能を維持することに成功しているようだ。
具体的な仕様を見ると、シングルコアのクロック周波数は既存の10コアモデル「X1P-64-100」と同等を保ちながら、マルチスレッド時の最大周波数を200MHz低く設定することで、電力効率と性能のバランスを取っている。最も顕著な違いは内蔵グラフィックス性能にあり、新モデルの演算性能は1.7 TFLOPSと、10コアモデルの3.8 TFLOPSの半分以下に抑えられている。これにより、最新のPC用ゲームなど、グラフィックス集約型のタスクでは明らかな性能差が生じることが予想される。
一方で、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)の性能は45TOPSと、他のラインナップと同等の能力を維持している点が注目に値する。これは、QualcommがAI機能を重視し、低価格帯モデルでもAI性能を犠牲にしないという同社の戦略を示す象徴と言えるだろう。また、メモリサポートについても、LPDDR5Xで8,448 MT/Sと変更がないことから、基本的なシステム性能は維持されると考えられる。
Qualcomm CEOのCristiano Amon氏は、2024年第3四半期の決算発表の場で、この新戦略について言及している。Amon氏は「2025年に向けて、新しいデザインウィンに加えて、NPUのパフォーマンスを犠牲にすることなく、小売価格が700ドルの低価格帯のPCにも対応するようXシリーズの製品ロードマップを拡大する」と述べ、同社の野心的な計画を明らかにした。
現在、Snapdragon X搭載ラップトップの最低価格は999ドルで、Microsoft Surface ProやSurface Laptopなどが該当する。しかし、新チップの登場により、この価格帯はさらに下がる可能性が高い。すでにASUSが新プロセッサを搭載した2モデルを発表しており、業界の反応も素早い。今後、他のメーカーからも続々と新製品が登場すると予想され、Arm版Windows搭載PCの選択肢が大幅に拡大することが期待される。
この動きは、単にQualcommの製品ラインナップを拡大するだけでなく、PC市場全体に大きな影響を与える可能性がある。特に、IntelやAMDが近々リリースするAI機能を備えたチップとの競争が激化することが予想される中、Qualcommの戦略は注目に値する。Arm版Windowsコンピューターの現行世代をより手頃な価格にすることで、Arm系プロセッサ搭載PCの普及を加速させる狙いがあると考えられる。
実際に、この戦略の効果は徐々に現れ始めている。Geekbenchの報告によると、2024年6月15日から7月15日までの期間に実行されたGeekbench 6ベンチマークの6.5%がSnapdragon Xデバイスで行われたという。これは、Snapdragon X搭載デバイスの発売からわずか1ヶ月足らずでの数字であり、市場への浸透が予想以上に早いことを示している。
Qualcommは、PCビジネスを会社の多角化における次の大きな推進力と位置付けている。現時点では決算報告にラップトップビジネスの数字は含まれていないものの、Amon氏は「PCは当社の多角化における次の最大の推進力になると期待している」と述べ、今後の成長への期待を示した。同時に、「市場の移行に伴い、ビジネスは緩やかかつ着実に進展する」とも認めており、長期的な視点での取り組みであることを強調している。
この新たな展開は、PCユーザーにとっても朗報となりそうだ。高性能なArm系プロセッサを搭載したPCがより手頃な価格で入手できるようになれば、長時間バッテリー駆動や高速なAI処理能力といったメリットを、より多くのユーザーが享受できるようになる。同時に、IntelやAMDとの競争が激化することで、PC市場全体の技術革新が加速する可能性も高い。
ただし、ゲームに関してはまだまだ最適化が進んでいないことも報告されている。エミュレータPrismによって多くは動作するようになっているが、x86系に比べると動作面で劣るのは否めない。今後はArmネイティブ対応のゲームが増える事を期待したい。
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