日本の半導体産業再興を担う新興企業Rapidusが、最先端の2nmチップ製造工場において、完全自動化する計画を明らかにした。この野心的な戦略により、台湾のTSMCや韓国のSamsungといった世界的な競合他社に比べて、製品の納期を3分の1に短縮できるとしている。
Rapidusは完全自動化により66%納期を短縮できると主張
Rapidus社長の小池淳義氏は、北海道に建設中の新工場について、ロボットと人工知能を駆使して前工程から後工程まで全ての製造工程を完全自動化する計画だと明かした。特筆すべきは、これまで人手に大きく依存してきた後工程の自動化に重点を置いている点だ。半導体の微細化が物理的限界に近づく中、後工程、特にパッケージングの重要性が増している。Rapidusは、複数のチップを一つにまとめて性能を向上させる高度なパッケージング技術の自動化に取り組んでいる。
小池氏は日本経済新聞のインタビューで、「組立がより複雑になるにつれ、より多くの材料を扱うことになり、スピードと効率が求められる」と述べ、自動化の必要性を強調した。さらに、「同じ2nmの製品で、他社よりも高性能で納期の早い製品を提供できるようになる」と自信を示している。
Rapidusの新工場は、2024年10月までに外観の建設をほぼ完了し、その後クリーンルームの整備に着手する予定だ。2024年12月には、数百億円もの高額な極端紫外線(EUV)露光装置を日本で初めて導入する計画だ。この装置は、世界最先端のチップの回路パターンを形成するのに不可欠なものである。
Rapidusは2027年までにAIアプリケーション向けの2nmチップの量産開始を目指しているが、これはTSMCやSamsungが2025年に量産を開始する予定であることを考えると、2年遅れのスタートとなる。しかし、Rapidusの自動化戦略が成功すれば、この遅れを取り戻し、競争力を獲得できる可能性がある。特に、AIアクセラレータ市場が2024年に250%成長すると予想されている中、より速い納期は大きな強みとなる可能性が高い。
一方で、Rapidusは巨額の資金調達という大きな課題に直面している。2025年の試作開始時までに2兆円、2027年の量産開始までに総額5兆円の資金が必要と見込んでいる。日本政府から9200億円の支援を受けることが決まっているものの、残りの資金を民間から調達することは容易ではない。
小池氏は「現状では、Rapidusが民間からの資金調達を確保するのは難しい」と率直に認めている。しかし同時に、「資金調達を容易にする仕組み、例えば政府による融資保証制度などについての議論が進んでいる」と述べ、将来的な見通しに期待を示している。
Rapidusの戦略的アプローチは、単に日本の半導体産業の復活を目指すだけでなく、グローバルな半導体市場における競争のあり方そのものを変える可能性を秘めている。完全自動化された生産ラインによる高効率・短納期の実現は、データセンターやAI企業に大規模計算システムの計画と展開においてより大きな柔軟性を提供する可能性がある。
また、Rapidusは技術開発の面でも新しいアプローチを取っている。小池氏は「過去の日本の半導体メーカーは技術開発を自社内で独占的に行おうとし、それが開発コストを押し上げ、競争力を失わせた」と指摘。対照的にRapidusは「標準化すべき技術はオープンにしてコストを下げ、重要な技術は自社で扱う」という戦略を採用している。この開放的なアプローチは、日本の半導体産業全体の競争力向上にも寄与する可能性がある。
Rapidusの挑戦は、日本の半導体産業の復活だけでなく、グローバルな半導体市場における競争の激化と技術革新の加速を示すものだ。だが、完全自動化技術についてはSamsungなどの他社も開発を進めており、これのみによって優位性を確保することは容易ではないだろう。
Source
- 日本経済新聞:ラピダス小池淳義社長「半導体工場、全工程を自動化」
コメント