TSMCが熊本県で日本初の工場における量産を開始した。同社の12nmから28nmプロセス技術を用いた半導体製造により、自動車産業やイメージセンサー市場への供給体制を強化する。日本政府は1兆円超の補助金を投じ、国内半導体サプライチェーンの強靭化を図る重要な一歩となる。
製造能力と技術詳細
熊本県の木村敬知事は27日の定例記者会見で、TSMCの熊本工場運営子会社JASM(熊本県菊陽町)から「今月に量産を開始したと、23日に連絡を受けた」ことを報告した。TSMCは以前より2024年12月の出荷開始を計画していたため、計画通りに量産が開始されたことになる。
新工場は4万平方メートル以上のクリーンルームを備え、12nmから28nmプロセスノードの論理チップを製造する。これらのプロセスは最先端の3nmには及ばないものの、コスト効率を重視する自動車部品やイメージセンサー向けに広く採用されている技術だ。主要顧客であるSony Group社とDenso社向けに、カメラチップや車載用プロセッサを製造する。
特に車載用チップは、ブレーキなどの重要コンポーネントを制御するため、厳格な信頼性基準を満たす必要がある。そのためロックステップ処理と呼ばれる、複数のコアで同一の計算を実行し結果を照合することでエラーを防ぐ技術が採用されている。
将来計画と投資規模
TSMCは2025年3月までに第2工場の建設を開始し、2027年末までの操業開始を目指している。第2工場では、第1工場では製造できない6nmおよび7nmプロセス技術を導入する計画だ。両工場が稼働すれば、月産10万枚の12インチウェハー生産能力を確保できる。総投資額は約200億ドルに達する見込みである。
熊本県の木村敬知事は8月にTSMC本社を訪問し、第3工場の誘致も打診している。また、CNBCの報道によると、TSMCは日本での先端パッケージング工場の建設も検討しているとされる。
Xenospectrum’s Take
TSMCの熊本進出は、地政学的リスクの分散という観点で日本政府の期待に応えるものだが、実はより興味深い点がある。それは車載半導体という「ローテク」と見なされがちな分野への注力だ。確かに12-28nmは最先端ではないが、信頼性と価格のバランスが重要な自動車産業において、むしろ理想的な選択と言える。
皮肉なことに、台湾への依存度を下げるはずの国内生産化が、結果的にTSMCへの依存を深める形となっている。しかし、これは技術覇権時代における現実的な妥協点なのかもしれない。第2工場での6-7nmプロセス導入は、この「妥協の成功」が次のステージに進むことを示唆している。
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