Qualcommの次世代フラッグシップSoC「Snapdragon 8 Elite Gen 2」の製造をTSMCが独占することが明らかになった。同社の最新3nmプロセス「N3P」ノードでの生産が予定されており、これによりSamsungは重要な製造契約の獲得に再び失敗を喫することとなった。
TSMCの技術的優位性が決め手に
TSMCは最新の3nmプロセスにおいて、試験生産で60%という印象的な歩留まりを達成していると報告されている。半導体製造における歩留まり率は製造プロセスの成熟度を示す重要な指標であり、特に新世代のプロセスノードでこの水準を達成したことは、同社の技術力の高さを如実に示している。
この技術的成熟は偶然の産物ではない。TSMCは第一世代の3nmプロセス(N3)から、改良版のN3E、そして今回のN3Pまで、段階的な改善を重ねてきた。特にN3Pプロセスは、前世代のN3Eと比較して性能と効率の両面で向上が見込まれており、これがQualcommの信頼獲得につながったとされる。
一方、競合するSamsungは3nm GAAプロセスでの歩留まり問題に依然として直面している。同社は革新的なGAA(Gate-All-Around)アーキテクチャを採用しているものの、その複雑な製造工程の安定化には依然として課題を抱えているとされる。この状況はコスト面での競争力にも影響を及ぼしており、たとえSamsungが価格面で魅力的な提案をしていたとしても、製造の安定性と信頼性を重視するQualcommの判断に影響を与えたと見られる。
特筆すべきは、このTSMCの技術的優位性がAppleのA19およびA19 Proプロセッサとの競争を見据えたQualcommの戦略とも合致している点である。次世代のモバイルプロセッサ市場では、製造プロセスの微細化による性能向上が依然として重要な競争要因となっており、この観点からもTSMCの選択は理にかなっているといえるだろう。
Samsungの連続的な受注失敗が示す課題
TSMC躍進の影で、Samsungの半導体受託製造(ファウンドリ)事業における苦境が一層鮮明になってきている。同社は今回、Snapdragon 8 Elite Gen 2の製造権獲得に失敗しただけでなく、2024年上半期に発売予定の派生モデル「Snapdragon 8s Elite」の製造も受注できなかったことが報じられている。これは同社の先端プロセス技術における競争力の低下を如実に示す結果となっている。
この状況の背景には、2021年末に遡る重要な転換点が存在する。当時、Samsungは Snapdragon 8 Gen 1の製造を手がけていたが、深刻な歩留まり問題が発生。これを受けて、その改良版となるSnapdragon 8+ Gen 1からTSMCへの製造移管が行われた。この出来事は、単なる一時的な製造移管以上の意味を持つ結果となり、以後約4年にわたってQualcommの主力製品の製造からSamsungが締め出される事態を招くことになった。
特に注目すべきは、この状況がSamsungのビジネスモデル全体に及ぼす影響だ。同社は自社のフラッグシップスマートフォン「Galaxy S25」シリーズにおいても、全面的にSnapdragon 8 Eliteの採用を決定している。これは半導体製造部門(ファウンドリ事業部)、半導体設計部門(System LSI事業部)、そしてモバイル機器部門(MX事業部)という3つの主要事業部門全てに影響を及ぼす深刻な事態となっている。
業界からは、Samsungが信頼回復を果たすためには、確かな製造実績(レファレンス)の提示が不可欠だとの分析が出ている。この文脈で注目されているのが、同社の3nmプロセスで製造される次世代プロセッサ「Exynos 2500」である。このチップはGalaxy S25への採用は見送られたものの、次世代フォルダブルスマートフォン「Galaxy Z Flip 7」への部分的な採用が予定されている。これまでフォルダブルスマートフォン向けプロセッサはQualcommが独占的に供給してきただけに、この採用は重要な転換点となる可能性を秘めている。
次世代プロセスへの影響
半導体製造の次なる戦場は2nmプロセスへと移行しつつあり、この新たな製造プロセスを巡る攻防が既に始まっている。注目すべき動きとして、Samsungは2026年後半のリリースを目標とする「Snapdragon 8 Elite Gen 3」向けの試作開発をQualcommから受注していることが明らかになった。これは同社のファウンドリ事業の命運を握る重要なプロジェクトとして業界の注目を集めている。
Samsungは2024年末から2nmプロセスの商用化を開始する計画を掲げている。この動きと連動する形で、同社は米国テキサス州テイラーに建設中の新ファウンドリ工場を2nmライン中心の構成とすることを決定した。この新工場は早ければ2026年から本格稼働を開始する予定で、現地顧客の獲得を主要な目的として掲げている。この文脈において、Snapdragon 8 Elite Gen 3の試作開発は、北米市場における重要な橋頭堡としての役割を果たす可能性を秘めている。
しかし、3nmプロセスまでの世代でTSMCに大きく後れを取っている現状を考えると、2nmプロセスにおける初期の主導権獲得は極めて困難な課題となることが予想される。業界関係者からは、Samsungにとって現実的な目標は、TSMCの代替製造先として認識されることであるという分析が出ている。これは一見して控えめな目標に思えるかもしれないが、現在の半導体製造における寡占状態を考慮すると、実際には極めて重要な戦略的意義を持つ。
特筆すべきは、この2nmプロセスへの移行が単なる製造技術の進化以上の意味を持つ点である。Samsungにとって、これは3nmプロセスで失った信頼を回復する重要な機会となる。また、米国の半導体製造拠点としての地位を確立することで、地政学的なリスク分散を求める顧客からの支持獲得も期待できる。
Xenospectrum’s Take
今回の決定は、単なる製造委託先の選択以上に大きな意味を持つ物であり、TSMCの独占はQualcommの製造コスト上昇を招く可能性があり、これは最終的にスマートフォン市場全体に影響を及ぼすことにもなりかねない。さらに興味深いのは、Arm SME(Scalable Matrix Extension)の採用により最大20%のマルチコア性能向上が見込まれる点だ。これはAppleのA19/A19 Proとの競争を見据えた戦略的な判断と見ることができる。
業界全体としては、TSMCへの依存度が高まることでリスクも増大する。しかし、現時点では技術的な信頼性を優先せざるを得ない状況といえるだろう。Samsungの巻き返しには、来たる2nmプロセスでの成功が不可欠となる。
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