米国のJoe Biden大統領は14日、人工知能(AI)インフラの国内整備を加速させるため、連邦政府の土地をAIデータセンター建設用地として開放する大統領令に署名した。この施策は、急増するAIの計算需要に対応しつつ、国家安全保障の強化と経済競争力の維持を図る包括的な取り組みとなる。
政府主導のAIインフラ整備計画が始動
国防総省とエネルギー省は2025年2月末までに、それぞれ最低3カ所のAIデータセンター候補地を特定する。これらの用地では、ギガワット級の大規模データセンターと、その電力需要を満たすクリーンエネルギー発電施設の建設が可能となる。
選定された用地は2025年3月末に公募が開始され、6月末までに事業者が選定される。政府は2027年末までの施設運用開始を目指している。
「AIは私たちの時代を定義する技術だ」とBiden大統領は声明で述べている。「米国内でAIを構築することは、敵対者が強力な将来のシステムにアクセスし、軍事力や国家安全保障を損なうことを防ぐ助けとなる」。
事業者への厳格な要件
政府は用地を提供する一方で、選定される事業者に対して複数の要件を課している。主な要件は以下の通りだ:
- データセンターの電力需要を100%満たすクリーンエネルギー発電設備の併設
- 施設建設・運営コストの全額負担
- 米国製半導体の「適切な割合」での調達
- 労働者への適正賃金の支払いと労働協約の締結
特に電力調達に関しては、一般消費者の電気料金上昇を招かないよう、新規の発電設備整備を義務付けている。
背景と課題:増大する電力需要と政策的不確実性
エネルギー省の報告によると、米国のデータセンターの電力消費量は過去10年で3倍に増加しており、2028年までにさらに2〜3倍に膨らむ見通しだ。これは米国の総電力消費量の約12%に相当する規模となる。この急増する需要に対応するため、OpenAIのSam Altman氏をはじめとする業界関係者から、ギガワット級のAIデータセンターネットワーク整備を求める声が強まっていた。
大手テクノロジー企業はすでに独自の対応を始めている。Metaは最近、AI開発支援のために最大4ギガワットの原子力発電容量の調達を検討。MicrosoftはConstellationと提携してスリーマイル島原子力発電所の再稼働を目指すなど、クリーンエネルギーの安定確保に向けた動きを加速させている。
しかし、この野心的な計画の実現には複数の構造的な課題が存在する。最も差し迫った問題は政権交代の影響だ。1月20日にDonald Trump次期大統領が就任することから、クリーンエネルギー重視の方針を含む大統領令の維持について不透明感が広がっている。とりわけ小型モジュール炉(SMR)など、2030年代初頭までの実用化が見込まれる新技術の扱いについては、政策の一貫性が重要となる。
半導体の国内調達要件も、計画の実現を左右する重要な要素となっている。現在、NVIDIAやAMDなど主要メーカーのAI向けチップの大半は台湾で製造されており、国内ではIntelの製造拠点のみが稼働している状況だ。TSMCのアリゾナ工場の本格稼働により、この状況は改善される可能性があるものの、需要に見合う供給体制の確立には時間を要する見通しだ。
さらに、水資源の問題も深刻だ。全米飲料水管理者協会のExecutive DirectorであるJ. Alan Roberson氏は、データセンターの冷却に必要な大量の水消費が地域社会に与える影響について懸念を示している。今回の大統領令では水資源の管理に関する具体的な指針が示されておらず、この点での追加的な政策対応が必要となる可能性がある。
このように、Biden政権の掲げる計画は、増大するAIインフラ需要に対する包括的な解決策を提示する一方で、政治的な不確実性や技術的な制約、環境負荷など、複数の課題に直面している。これらの課題にどう対処していくかが、計画の成否を左右する重要な鍵となるだろう。
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